薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
平成29年1月1日からセルフメディケーションに関する新たな取り組みとして、「セルフメディケーション税制」が始まりました。スイッチOTC医薬品を対象とした制度ではありますが、これを機会に「特定保健用食品(以下、トクホ)」や「機能性表示食品」について薬剤師の皆さんが尋ねられることも多くなるでしょう。それぞれ表示内容などが似ていますから、患者さんが混乱してしまうことも考えられます。
薬剤師として正確な情報提供をするため、今回は第100回薬剤師国家試験の問229を例に、機能性表示食品制度を仕組みから解説します。
【過去問題】
35歳男性とその妻30歳。テレビで青汁のCMを見て薬局を訪れ、下記の表示があった保健機能食品(商品A及び商品B)を選んで薬剤師に相談した。夫婦共々、子供を希望しているが、現在妊娠はしていない。
成分分析表 | 1袋(3g)あたり |
---|---|
エネルギー | 9kca |
タンパク質 | 0.5g |
脂質 | 0g |
糖質 | 1.4g |
食物繊維 | 0.9g |
ナトリウム | 0.2~10mg |
キトサン | 294mg |
成分分析表 | 1袋(3g)あたり |
---|---|
エネルギー | 10kcal |
タンパク質 | 0.7~1.1g |
脂質 | 0.1g |
糖質 | 1g |
食物繊維 | 0.9g |
ナトリウム | 8.2mg |
ビタミンC | 50mg |
問229(衛生)
商品Aの許可表示として最もふさわしいのはどれか。1つ選ベ。
- 1 コレステロールが気になる方の食生活の改善に役立ちます。
- 2 動脈硬化症の発症を抑えるのに役立ちます。
- 3 食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。
- 4 血圧が高めの方、気になる方に適します。
- 5 食事中の脂肪の吸収を抑え、体脂肪が気になる方に適します。
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解説
問題文より夫婦はトクホ商品の購入を検討しているとわかりますので、選択肢それぞれがトクホ認可されている表示内容なのかを考える必要があります。まず表1で、トクホで許可されている主な対象とその表示内容を確認しましょう。
対象 | 表示内容 |
---|---|
血圧 | 血圧が高めの人に適する |
脂質異常症 | コレステロールが高めの人に適する 食後の血中の中性脂肪を抑える 体脂肪がつきにくい |
糖尿病 | 血糖値が気になる人に適する |
骨 | 骨の健康が気になる人に適する |
歯科 | 歯の健康維持に適する むし歯の原因になりにくくする |
その他 | お腹の調子を整える ミネラルの吸収を助ける |
表1のように、トクホの対象は主に6分野程度に限られ、その表示内容も制限されていることがわかります。
次は選択肢の表示ごとに、効果があるとされている疾患と、その成分を確認しましょう。
- 1:【疾患】コレステロール/【成分】キトサン、大豆タンパク質など他7種類
⇒トクホでは「コレステロールが高めの人に適する」という表示は許可されている。 - 2:【疾患】血管(動脈硬化症)/【成分】なし
⇒血管系疾患へ効果が期待できるトクホは、現時点(※2017年2月8日現在)で認可されていない。 - 3:【疾患】血糖値/【成分】L-アラビノース、グァバ葉ポリフェノール、難消化性デキストリンなど他2種類
⇒疾患への治療・予防効果表示は、トクホには認可されていない。 - 4:【疾患】血圧/【成分】カゼインドデカペプチド、杜仲葉配糖体など他3種類
- 5:【疾患】体脂肪/【成分】ジアシルグリセロール、ジアシルグリセロール植物性ステロール
⇒表示は適切だが、選択肢4と5の成分は「商品A」に含まれていない。
– 実務での活かし方 –
各機能食品の特徴を表2で確認しましょう。
特定保健用食品 | 機能性表示食品 | 栄養機能食品 | 一般食品 | |
---|---|---|---|---|
対象 | 食品全般 | 食品全般 | ミネラル5種類・ビタミン12種類のいずれかを含む食品 | 食品全般 |
法規制 | 健康増進法・食品衛生法・食品表示法 | 食品衛生法 | ||
効能・効果の表示許可者 | 国が審査し許可 | 企業からの届け出 | 国の決めた基準値を満たした場合、表示可 | 不可 |
審査期間 | 1年以上 | 1年未満 | 科学的根拠が認可されている栄養成分を、基準値内で含有していれば審査なし | なし |
審査内容 | 臨床試験結果 | 研究レビューを含めた文献を提出 | なし | なし |
表示内容 | 血圧・血糖・コレステロールなど主に6分野に限定 | ストレス緩和、手元のピント調節など、具体的表示が可能 | 国が定めた表示による表示が可 | なし |
表示許可数 | 1,204 | 689 | ミネラル5種類・ビタミン12種類のいずれかを含むすべての食品 | なし |
表2からわかるトクホと機能性表示食品との相違点は、以下の3点です。
- 【表示許可者】
- トクホ:国からの許可を取得
機能性表示食品:企業からの届け出を行う - 【審査内容】
- トクホ:臨床試験が必要
機能性表示食品:研究レビューを行う(関連する研究論文を検索し、総合的に評価する) - 【表示内容】
- トクホ:血圧、脂質異常症、糖尿病、骨、歯科、その他など主に6分野
機能性表示食品:トクホの6分野に加えて、血流、視力、肌、疲労・ストレス、睡眠、眼・鼻、認知症、肝臓、関節などの9分野が追加され、その表現も緩和
機能性表示食品は、トクホでの主な対象6分野に加え「関節」「肌」「睡眠」「眼」など範囲が拡大。現代社会人の悩みがちな分野が取り入れられ、表示内容もトクホに比べると緩和されています。たとえば、ストレスやピントのように数値で表現できない、また個人差がある症状についても、機能性表示食品では表示OK。表現方法も「目の疲れを和らげる」のように、具体的な身体の部位の表現も認められています。
参画企業側からすると、どの切り口からみても機能性表示食品の方が取り組みやすいといえるでしょう。それは商品数を比較しても一目瞭然です。機能性表示食品は、2015年の機能性表示食品の制度導入から約2年で、トクホの半数以上に及ぶ約715件(※2017年2月17日現在)まで増加。それに比べてトクホは1991年の保健機能食品制度導入から約25年で、1,200件程度にとどまっています。
事例
では、実際に起こり得る事例を検討していきます。
中性脂肪が高めの患者の場合
中性脂肪が気になる人の場合、すでに医療機関からEPA製剤(イコサペント酸エチル:エパデール®)、EPA-DHA製剤(イコサペント酸エチル+ドコサヘキサエン酸エチル:ロトリガ®)が処方されている可能性があります。そこへさらに、「食後の血中の中性脂肪を抑える」と謳ったEPA-DHA製剤配合の機能性表示食品を摂取してしまうと大変です。
EPA-DHA製剤には、軽度ではありますが血小板凝集抑制作用があるため、過剰な摂取は禁物。出血傾向になる可能性が出てくるため、現在服用している薬についてきちんと聞き取り、トクホ商品を勧めるかどうかの判断が必要です。
血圧が高めの患者の場合
血圧やストレス緩和に効果的で、食品として人気のあるGABA(γ-アミノ酪酸:γ(gamma)-aminobutyric acid)。チョコレートなどの甘いものに配合されていることが多く、知らず知らずのうちに大量摂取してしまいがちな食品です。副作用としては頭痛の発現が挙げられます。
そこで注意したいのが、高血圧の患者さん。血圧のコントロールが比較的良好であるにも関わらず、頭痛を頻繁に訴える場合はGABAを過剰摂取している可能性が考えられます。
こうした場合、頭痛の原因が食品であることを見逃すと、GABAによる頭痛→鎮痛剤の服用→効果なし→鎮痛剤の増量→さらなる頭痛の発現(薬剤性)→鎮痛剤の多剤併用……という悪循環になってしまうケースが考えられます。本来単純な原因である頭痛が、いつしか「原因不明の難治性頭痛」となってしまうのです。
実務上、薬剤師は併用薬の確認には十分注意を払い、対処するもの。しかし定期的な食品の摂取に関しては注意が不十分なこともあります。上記のGABAのように薬剤と類似した作用をもつ食品もありますので、思わぬ症状発現に注意しましょう。