薬剤師国家試験過去問 更新日:2019.04.19公開日:2018.02.22 薬剤師国家試験過去問

薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!

第21回 つらい花粉症や鼻炎…スギ・ダニアレルゲン免疫療法への期待<内服薬一覧表つき>

毎年、年明け頃から話題になり始めるスギ花粉症。現在日本で最も一般的なアレルギー疾患のひとつで、主な治療法は対症療法であり、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイドなど使用されています。しかし昨今、長期寛解を目的としたアレルゲン免疫療法にも注目が集まり、皮下注だけでなく舌下液や舌下錠などの剤形が追加され、使用しやすくなってきました。今回はこのアレルゲン免疫療法に関して、第101回薬剤師国家試験問120を使って確認していきましょう。

【過去問題】

第101回 問120から出題

問120(物理・化学・生物)

Ⅰ型アレルギーに関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。

  • 1Ⅰ型アレルギーの原因となる IgEは、主としてヘルパーT細胞により産生される。
  • 2Ⅰ型アレルギーでは、ヒスタミンがB細胞内の顆粒から放出される。
  • 3アレルゲンに対して産生された IgEは、肥満細胞上の特異的受容体と結合する。
  • 4ウルシによる接触性皮膚炎は、Ⅰ型アレルギーに分類される。
  • 5花粉、ダニ、ハウスダストなどが抗原となって IgEが産生され、感作された状態では、同じ抗原が再度侵入した時にⅠ型アレルギーの症状があらわれる。
<解答>
3、5

解説

  • 1:IgEは、他の抗体と同じくB細胞が分化した形質細胞により産生し、分泌されたIgEは血清中γグロブリン画分に存在します。ヘルパーT細胞は抗体産生細胞ではありません。
  • 2:Ⅰ型アレルギーとは、マスト細胞(肥満細胞)や好塩基球からヒスタミンが放出されることで発現します。なお、ヒスタミンは肥満細胞および好塩基球の顆粒の中に保持されていますが、B 細胞内の顆粒ではありません。
  • 4:接触性皮膚炎はⅣ型アレルギー反応です。原因物質が表皮を透過し、それらがタンパク質と結合し皮膚のランゲルハンス細胞に取り込まれ、その刺激によりヘルパーT細胞から放出されたサイトカインが、マクロファージやキラーT細胞を活性化して起こる細胞障害です。

– 実務での活かし方 –

まず表1でアレルギーの種類と原因を確認しましょう。

表1
反応 関連因子 反応時間 代表疾患
Ⅰ型即時型 アナフィラキシー反応 IgE、肥満細胞、抗塩基球 30分以内 気管支喘息、花粉症、蕁麻疹、皮膚掻痒、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アナフィラキシーショック
Ⅱ型細胞障害型 抗体依存性細胞媒介反応 IgG、IgM、マクロファージ、好中球、NK細胞 自己免疫性溶血性貧血、再生不良性貧血、重症筋無力症、突発性血小板減少症紫斑病、橋本病
Ⅲ型免疫複合型 免疫複合反応 IgG、IgM、好中球 3~8時間 全身性エリテマトーデス、血清病、関節リウマチ、糸球体腎炎
Ⅳ型遅延型 細胞性免疫反応 T細胞、マクロファージ 24時間以上 接触性皮膚炎、ツベルクリン反応、臓器移植による拒絶反応、結核、過敏性肺炎

この中から、今回のテーマ・花粉症が属しているⅠ型アレルギーについて簡単に確認します。

表1からも確認できるように、Ⅰ型アレルギーとは、IgE抗体が過剰に生産され、関与することで引き起こされるアレルギーのこと。好塩基球やマスト細胞と結合したIgE抗体に抗原が結合した場合、抗原と結合したIgE抗体をもつ好塩基球やマスト細胞の内部にあるヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンなどの化学伝達物質が細胞外に出されます。これらの化学伝達物質によって、アレルギー反応、すなわち蕁麻疹、 湿疹、下痢、喘息などの症状が誘発されます。
通常IgE抗体は皮膚の下や腸の壁近く、気道などに多く存在しています。生体にとって異物となるべき食物や空気などが通る訳ですから、鼻の粘膜で反応が起こればアレルギー性鼻炎、気管支で起これば喘息、腸の壁で起これば下痢となり、アレルギー反応を起こすことで体外に排出しています。

アレルゲン免疫療法とは、アレルゲンを低濃度から徐々に濃度を上げて、少なくとも2年間、通常は3~5年間にわたって継続投与することで、アレルゲンに対する免疫学的な耐性を獲得する、というもの。アレルギー疾患の症状軽減や根治を図る治療法であり、世界保健機構(WHO)においても、アレルゲン免疫療法は高い有用性があると評価されています。

ただ、数年前までこの治療の投与方法は皮下注射による方法(SCIT)のみだったため、注射による疼痛や、長期間にわたって週1、2回~月1回の定期的な通院が必要でした。副作用としてのアナフィラキシーショック発現の危険性も高いこともあり、患者負担が大きいことから普及してきませんでした。そのため内服が可能な剤形の開発が望まれていたのです。

事例

表2で、現在発売されているアレルゲン免疫療法に使用できる内服薬を示します。

表2 ※コナヒョウダニとヤケヒョウダニを半量ずつ配合
抗原 スギ ダニ
薬剤名 シダトレンスギ花粉舌下液 シダキュアスギ花粉舌下錠 ミティキュアダニ舌下錠 アシテアダニ舌下錠
適応 スギ花粉症 ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎
剤型 舌下液 舌下錠
アレルゲン活性単位(JAU) 200JAU/ml/2000JAU/ml 2000JAU/5000JAU 3300JAU/10000JAU ※ 19000JAU/57000JAU 
年齢制限 成人および12歳以上の小児 小児等に対しては本剤を適切に舌下投与できると判断された場合にのみ投与 成人および12歳以上の小児
保管方法 2~8℃保存 室温保存
その他 通常の錠剤より軟化なため自動分包機には不適
発売日 2014年10月 2017年9月 2015年11月 2015年11月

この分野で最初に発売されたのがスギ花粉症に対する舌下液「シダトレンスギ花粉舌下液」で、2014年10月に発売されました。適応は「スギ花粉症(減感作療法)」であり、増量期(1~2週目)、維持期(3週目以降)に分けて定められた用量を1日1回舌下投与する、というものです。いずれの場合も2分間舌下に保持した後で飲み込み、その後は5分間、うがいや飲食を控えるようにします。処方および調剤に関しての注意事項があります。(下記シダキュアス®の項を参照)

続いては、ダニアレルギーの舌下錠。「アシテアダニ舌下錠®」「ミティキュアダニ舌下錠®」の2種類が、2015年11月に発売されました。この製剤の特徴は、シダトレンとは異なり室温で保存できる舌下内服錠という点であり、適応はダニ抗原としたアレルギー性鼻炎です。
これらダニ舌下錠の対象年齢は2剤ともに12歳以上ですが、現在、5~11歳の小児を対象とした臨床試験が進行中で、これらが承認されればより低年齢から効果的なアレルゲン免疫療法が行えることになります。これらの舌下錠は、皮下注射投薬に比べるとアナフィラキシーのリスクが少ないとはいえ、危険性をはらんでいるため厚労省によって販売製薬企業へ(1)~(3)のような流通管理が義務付けられていました。

  • (1)医師は免疫療法や適正使用に関する講習を受講する
  • (2)製薬企業が講習を修了した医師を登録する
  • (3)薬剤師は処方医が講習を修了した医師であることを確認した上で調剤する

今回発売された2剤は、成分は同じですが、用法・用量が異なるため、同種同効薬だからといって治療中に安易に薬剤を変更すべきではありません。詳細は表3で確認しましょう。

表3
アシテアダニ舌下錠Ⓡ ミティキュアダニ舌下錠Ⓡ
投与に関して 最初の3日間が増量期。初日は100単位を1日1回投与、2日目は200単位、3日目は300単位に増量します。その後は患者の状態に応じて適宜延長 服用開始1週間は3300JAUを1日1錠、2週目以降は10000JAUを1日1錠。
口中での保持時間 2分 1分
共通 服用後5分間の飲食は控える

そして2017年9月に、スギ花粉症舌下錠としてスギ花粉エキス原末製剤「シダキュアスギ花粉舌下錠®2000JAU」、同スギ花粉舌下錠「®5000JAU」が販売されました。適応はスギ花粉症(減感作療法)で、投与開始1週間は1日1回2000JAUを舌下に投与し、2週目以降は1日1回5000JAUに切り替える、というものです。いずれの場合も1分間舌下で保持した後に飲み込み、その後5分間はうがいや飲食を控えるよう指導する必要があります。さらにスギ花粉飛散時期はスギ花粉アレルゲンに対する患者の過敏性が高まっているため、スギ花粉飛散時期は新たに投与を開始しないことにも注意します。

2014年に発売された原液製剤を用いたシダトレン舌下液は、12歳未満の小児に使用できないこと、冷所保存が必要なことなどの問題点がありました。しかし原液製剤シダトレン®では成人および小児(5歳以上)に対して使用可能、さらに室温保存が可能となりました(表2参照)。

ただ、既存のシダトレン®と同様にショック、アナフィラキシー発現防止の観点から「減感作療法に十分精通した医師・医療機関のみに用いられ、調剤薬局においては、調剤前に該当医師・医療機関を確認してから調剤すること」が承認条件となっています。

以上のように、現在アレルゲン免疫療法の内服剤型としては、スギ花粉症への舌下液1種類と舌下錠1種類、ダニアレルギーに対して舌下錠2種類が発売されています。今後ますます多岐にわたるアレルギー抗原に対してアレルゲン免疫療法は効果を発揮すると思われますが、この治療法はアレルギー抗原と判明している物質を希釈しているとはいえ体内に入れていくという治療法であることに変わりはありません。
そのため、全製剤に共通して使用後のショックやアナフィラキシーへの対応を考えておくことが必要です。家族のいる場所や日中の服用が望ましいことや、服用の前後2 時間程度の間、激しい運動、アルコール摂取、入浴等は避けるよう伝えましょう。循環動態の亢進により、本剤の吸収が促進され、副作用の発現する可能性が高まるためです。
このような情報提供を、患者さんとご家族に行っていきましょう

※2018年2月、アシテアダニ舌下錠について、小児アレルギー性鼻炎に関する用法・用量の一部変更が承認され小児の適応が追加されました。

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター。

ファーマブレーングループ オフィス・マントル:http://mantle-1995.com

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター

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