1. 消費税増税による薬局への影響
処方箋調剤で投薬すると、薬剤料として患者さんや保険組合よりお金をいただきます。この時、薬剤料に対して消費税はかからないため、消費税が変化しても患者さんにとって大きな変化はありません。ただし、薬局が医薬品卸から薬を購入する際には消費税がかかっていますので、消費税が8%から10%になると、請求する薬剤料は同じでも増税分だけ購入費が高くなってしまいます。つまり、仮に現状と同じ薬価(=販売価格)が維持されても、購入価格が高くなるぶん利益が減ってしまうということになります。
2. 消費税増税で薬価は上がる?
消費税が上がることで薬価はどうなるのでしょうか。「消費税分を含んだ薬の値段」と考えると、単純計算で2%の増税分だけ価格が上がってもおかしくありません。しかし、2018年11月14日の中医協の薬価専門部会で行われた議論では「今回の改定は消費税率の引上げに伴い、適正な消費税の転嫁を行う観点から実勢価を踏まえ薬価改定を行うものであり、臨時的な改定であると考えるべきではないか」との見解が示されています。
つまり、消費税増税に加えて現場での販売価格(実勢価)を考慮して薬価を決める、と解釈することができます。2014年に消費税が5%から8%に上がった際も同様の議論が行われ、実勢価をふまえて薬価が決定されました。その結果、全体として薬価は下がり、品目別でみると上がった医薬品もあれば、下がった医薬品もありました。このように、消費税が増税されるからといって必ずしも薬価が上がるというわけではありません。
同様に、今回の改定でも実勢価格が調査され、現行よりも薬価が引き上げられたのは6121品目、引き下げられたのは1万389品目となりました。また、新薬メーカーの平均改定率は0~4%と比較的影響が小さい一方で後発品兼業メーカーでは10%の引き下げとなり、企業によって差が見られます。とくに後発品専業メーカーでは来年4月に予定される通常改定を控えるなかの引き下げとなり、業績への影響は免れ得ないでしょう。
3. 薬価改定への対応【経営層レベル】
薬局によって受ける影響は違うかもしれませんが、多くの薬局で薬価は下がることを考えると、消費税の2%増税によって減益になる可能性が高いでしょう。事前の対策としてまず重要なのは経営層の対応です。医薬品卸と消費税増税にともなう納入価の交渉を行う必要があります。実際のところ、小規模薬局では価格交渉が難しい場合もありますが、交渉以外でも購入卸の変更、採用品の変更、医薬品共同購入など選択肢の幅を広げながら、自分の薬局にあった方法を選択するのがよいでしょう。
4. 薬価改定への対応【現場レベル】
経営層だけでなく、現場で業務を行う薬剤師のみなさんも薬価改定を意識しましょう。薬価改定の最新情報を積極的に収集するのみならず、増税後に購入価格が上がる薬は、増税・薬価改定前に購入しておくといった対応が求められます。ただし、一時的に大量購入してしまうと、そのぶんの支払い金額が上がってしまいますので注意が必要です。結果的にキャッシュフローが悪くなり、経営を圧迫してしまうことも考えられるため、適切に調整しましょう。
また、税込みの購入価格が下がる薬はできるだけ増税・薬価改定前の購入を控え、薬価改定後に購入すると良いでしょう。ただし、在庫量が少なくなるぶん、不足して患者さんに迷惑をかけてしまわないよう配慮を忘れないようにしましょう。
5. 経営層と現場の協力が欠かせない
以上みてきたように、消費税増税に準じた薬価改定は薬局経営に影響を及ぼす重要な変更点です。薬局や病院が長期的に適切な医療を患者さんに提供していく上で、安定した薬局、病院経営は大きな課題となります。一薬剤師としてできることは限られるかもしれませんが、経営層と現場で協力し、よりよい対応を検討しておくことが大切です。
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執筆/加藤鉄也
薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。