石原さとみさん主演のドラマが絶賛放送中の原作、薬剤師マンガ『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ・著、富野浩充・医療原案、コアミックス・刊)。その名シーンをもとに、病院薬剤師と薬局薬剤師が意見交換を繰り広げる――そんな魅力的なイベント「アンサングを病院×薬局薬剤師で語る会 ver.1」が、2020年7月5日(日)にオンラインで開催されました。パネリストたちによる白熱したトークに、チャット機能で自身の病院や薬局の事情について続々とコメントを投稿する視聴者たち。大盛況のうちに幕を閉じた新しい形の薬剤師イベントの様子をレポートします。
「アンサングシンデレラ」を病院薬剤師と薬局薬剤師で大激論! 薬剤師の本音とは?
- 2020年7月5日(日)に「アンサングを病院✕薬局薬剤師で語る会 ver.1」がオンライン開催され、250名を超える参加者が集結。11の名シーンについて、さまざまなキャリアの薬剤師から意見が交わされ、2時間以上にも及ぶイベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
約250人が集結! オンラインならではの交流
©荒井ママレ/コアミックス
薬剤師のリアルな日常を描くマンガ『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』。最新刊となる5巻が2020年6月に発売された。
病院と薬局……勤務先の垣根を越えて薬剤師同士の交流を深めたい——そんな思いからこのイベントは企画されました。「ぜひ、マンガを手元に置いてご参加ください!」という主催者・竹中孝行さん(株式会社バンブー)の言葉からスタートした本イベントには、事前申込みをした現役薬剤師や薬学生、さらには薬剤師を志望する高校生らおよそ250人がオンライン上に集いました。
今回パネリストとして参加したのは、『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(コアミックス・刊、1〜5巻発売中)の医療原案を担当する富野浩充さん、病院薬剤師の木村浩一さん、薬局薬剤師の児島悠史さんなど第一線で活躍する錚々たる顔ぶれです。さらにはもうひとりの主催者であるみどりや薬局(静岡県島田市)の清水雅之さんや、学生コメンテーターのあゆみさんとひろむさんをまじえて「このシーンは実際にあり得る?」「それぞれの現場ではどう?」といった本音を語り合いました。
イベントは終始和気あいあいとした雰囲気で、オンラインと感じさせない一体感があった。清水雅之さん(上段左)、竹中孝行さん(上段右)、富野浩充さん(中段左)、木村浩一さん(中段右)、児島悠史さん(下段左)
参加者からは、チャット機能で投稿できるコメントやTwitterでハッシュタグ「♯アンサングを語る会」の投稿が相次ぐなど、オンラインならではの双方向の交流が生まれる新感覚のイベントとなりました。
<登壇した薬剤師プロフィール>
・清水雅之さん(主催):みどりや薬局店主(薬剤師)。ドーピング違反の予防について学べるカードゲーム「ドーピングガーディアン」を開発。
・竹中孝行さん(主催):株式会社バンブー代表取締役(薬剤師)。一般社団法人薬局支援協会の代表理事として「みんなで選ぶ薬局アワード」を開催。
・富野浩充さん(特別パネリスト):『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』の医療原案を担当。焼津市立総合病院薬剤科に勤務する現役薬剤師。
・木村浩一さん(特別パネリスト):病院薬剤師としてICUなどで勤務する傍ら、iPhone向けアプリ「薬Quiz」を開発。
・児島悠史さん(特別パネリスト):薬局勤務。Fizz-DI代表、株式会社sing取締役。著書に『薬局ですぐに役立つ 薬の比較と使い分け100』(羊土社)など。
マンガで紹介されていた薬剤師の年収は本当?
イベントの打ち合わせ段階では、登壇者から「語りたいシーン」として数十ものシーンがピックアップされたといいます。そこから厳選に厳選を重ね、この日は11の名シーンとテーマについてトークが繰り広げられました。
盛り上がったテーマのひとつが「薬剤師の給与について」。マンガの中で、病院薬剤師であるみどりの推定年収は380万円。一方、友人たちの推定年収は、薬局勤務で440万円、ドラッグストア勤務で480万円、製薬会社勤務(MR)で590万円と描かれています。この年収はどのくらい実態に近いのでしょうか。
©荒井ママレ/コアミックス
大学時代の友人たち(薬剤師)と飲み会をする主人公のみどり。仕事について語るうちに年収の話題になるが、総合病院に勤めるみどりの発言に友人たちは驚く(単行本2巻第6話「薬も積もれば」より)。
「病院勤務の薬剤師の実態に照らせば、年収400万円以下というのは現実的にあり得るラインではないでしょうか。病院ならではの当直手当も医師に比べるとずいぶん低い……という実態を描いています」(医療原案・富野さん)。実際、かつて薬局勤務だった木村さんも、病院に転職して年収が100万円ほどダウンした経験があるといいます。薬局勤務の児島さんも、「地域差は大きいものの、薬局の相場も的外れではないと思います。ところが世間からは、『薬剤師はもっとたくさんお給料をもらっている!』と思われがちなんですよね……」と話していました。こうした認識のギャップも、マンガやドラマを通して埋まっていくのかもしれません。
「スポーツファーマシスト」の資格取得後、どう生かす?
「様々な場で活躍する薬剤師」というテーマでは在宅医療への取り組みとスポーツファーマシストについて取り上げられました。薬局や病院などの定番の勤務場所に加えて、まだ人数自体はそれほど多くないものの、重要な役割を担う薬剤師はたくさんいることがわかります。「病院に薬剤部があるように、地域の薬剤部の機能を果たしているのがマンガにでてくる『笹の葉薬局』なんですよね。マンガが作られる際にも熱心に取材していただいたのですが、『笹の葉薬局』には実際の取り組みや考え方を反映していただいていて。病院で24時間対応が当たり前なように、在宅医療への取り組みではチーム医療として地域に貢献できるように、ということを意識してやっています」(竹中さん)
スポーツファーマシストの実態について話してくれたのは、ドーピング違反の予防について学べるカードゲーム「ドーピングガーディアン」を開発するなど、スポーツファーマシストとして精力的に活躍する清水さん。実際にマンガのように問い合わせがあった経験があるといい、「手術前に薬がドーピングにひっかからないかどうか、病院のスポーツファーマシストさんから連絡があって急いで調べて回答したり。抜歯の直前に患者さんがアスリートだとわかり、切羽詰まった歯科医院さんから連絡が入ったこともあります」(清水さん)
©荒井ママレ/コアミックス
靭帯再建手術のために入院した中学生から、「ドーピング検査に引っかからないと確認できるまで薬は飲まない」と言われたみどり。説明できるよう調べるうちに、スポーツファーマシストの仕事に興味を持ち始める(単行本5巻第24話「頼られる人」より)。
東京五輪をきっかけに注目度が高まっている資格ですが、「スポーツファーマシストの資格を取得しても、活用していない薬剤師を見てきた」(学生コメンテーター・ひろむさん)という現状もあります。そんな中、スポーツファーマシストとして精力的に活動を続ける清水さんは専門家同士で相談し合えるネットワークの重要性を指摘します。
「資格を取得すればアスリートからたくさん相談が来るのではないかと身がまえるけど、ほぼ100%誰も相談してこない(笑)。そんな中にいかに自分がスポーツファーマシストだということをPRしていくかが大事で、地域の高校を回ったり、SNSで発信したり、各地のスポーツファーマシストに会いに行ったりしました。そうするとだんだんネットワークができてきて、他職種にもつながっていきます。アンチドーピングは薬剤師だけで完結してはいけない問題で、栄養士、スポーツドクター、柔道整復師、トレーナーなどの職種と一緒に取り組んでいくことが大事です」(清水さん)
どうすればうまくいく?「薬薬連携」のリアル
本イベントの主題でもある「薬薬連携について」では、マンガの単行本4巻でみどりの働きかけもあって少しずつ地域の薬局とのつながりが生まれていくシーンが取り上げられました。しかし、現実にはマンガのような連携は難しい現状も浮かび上がりました。医療原案として関わる富野さんは、「編集部から『理想の姿を描いて』と言われ、試行錯誤しながら生まれたストーリー。現実的には、両者の交流はまだ少ないですよね。診療報酬の後押しも大切ですが、まずは顔の見える関係になることから始めなくては」と話していました。
©荒井ママレ/コアミックス
オーバードーズで搬送されてきた患者さんの退院後のことを考え、薬局との連携を検討するみどりたち。しかし、話し合いのなかで、「院外の薬局」の事情を自分たちが理解していないことに思い至る(単行本4巻第18話「与えられた『役割』」)。
木村さんは病院薬剤師の立場から、「めざすところはひとつなのにうまくいかないのは、情報不足と方向性の不一致が原因。マンガにあるように、異なる立場や職種のスタッフでカンファレンスを行い、ひとりの患者さんについて考えることが大切では?」と指摘します。一方、児島さんは薬局薬剤師の立場から、「『担当の患者さんが知らない間に入院していた』というのはよくあること。『紆余曲折の末にたどり着いたのであろう妙な処方』を目にすることも多い。患者さんの治療に関わる経緯や途中経過を、薬局の側にも伝えてもらいたいです」と希望していました。
薬薬連携についてはとくにチャット欄への投稿が相次ぎ、「病院薬剤部からの情報開示が少ないように感じていますが、何をオープンにすれば連携が進むのでしょう」「トレーシングレポートがペーパーレスになるともっとハードルが下がりそう」「薬剤のことだけでなく、医療機器や医療材料についても考える必要があるのでは?」といった様々な意見が飛び交いました。
同じ薬剤師であるにもかかわらず、お互いの状況を理解し合うことすら容易ではありません。さまざまな立場から意見が交わされたこの時間こそが「薬薬連携」の第一歩となった、といえるかもしれません。
薬剤師としての成長の鍵は「どこまで考え抜けるか」
マンガでは、命と向き合うエピソードも登場します。がんと闘う患者さんの治療に際して「覚悟をもって/最後まで/自分に何ができるのか考えて」と先輩薬剤師がみどりに語りかけるシーンをめぐっては、パネリストの熱い思いがほとばしりました。このシーンを取り上げることを熱望していた児島さんは、「この物語を通して伝わってくるのが、『全力で患者さんと向かい合い続ける』ことの大切さ。『現時点で何を知っているか』よりも、わからなくても責任をもって調べる姿勢が大事だし、勉強して問い続けることができる人は成長していける。明確な答えがないことも多い医療現場だからこそ、どこまで考え抜けるかという点に力量が表れるのでは?」と話していました。
©荒井ママレ/コアミックス
誤嚥性肺炎のため、抗がん剤治療の中断が決まる場面。みどりは「患者さんの死への覚悟」を、あらためて問われることになる(単行本3巻第15話「最期の砦」より)。
2時間の予定をオーバーするほどの盛り上がりをみせた本イベント。作中で先輩薬剤師の瀬野がみどりに対して言った「自分で自分の立ち位置決めちまったら/そっから進めなくなるぞ?」(単行本1巻第1話「『普通』のために」)というセリフをふまえ、「すべての薬剤師にとって、『自分の立ち位置を決め付けない』ことが大切。自身の職場で薬剤師として何ができるのか、ぜひ考え続けてほしいです」という竹中さんの言葉で締めくくられました。
©荒井ママレ/コアミックス
「薬剤師っていらなくない?」と自問自答するみどり。1巻第1話の冒頭に登場するこの言葉は強烈な印象を残す(単行本1巻第1話「『普通』のために」より)。
そして現在、フジテレビ木曜劇場「アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋」(毎週木曜22時~放送)が絶賛放送中です。原作の医療原案・富野さんが「一般の人にとって、いまだに薬剤師のイメージは『薬を出す人』のまま。マンガやドラマを通して、薬剤師という仕事の魅力がもっと多くの人に伝われば……と願っています」と話すように、薬剤師の仕事についてより理解が広がることが期待されます。薬剤師を主人公にした連続テレビドラマは、なんと日本で初めて。作中で薬剤師の姿がどのように描かれるのか、ぜひチェックしてみてくださいね。
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