感染者の約8割が軽傷とされる新型コロナウイルスは、いかに重症化させないかが重要となるなか、重症化患者さんへの早期対応の助けとなる研究結果が明らかになりました。また、かねてより期待されていた「処方箋なしでのアフターピルの購入販売」を可能とする閣議決定が今年度中にも行われる見込みです。
新型コロナ「重症化予測因子」を同定/処方箋なしでアフターピルの購入が可能に
- Topics 1 新型コロナウイルス感染症「重症化予測因子」を同定
- 新型コロナウイルス感染症の重症化を予測する因子として「CCL17」「IFN-λ3」「IP-10」「IL-6」「CXCL9」の5つが同定されたことを国立医療研究センターの研究グループが発表。重症化への早期対応や重症化を防ぐ治療薬の開発などへの活用が期待される。
⇒詳しく読む
- Topics 2 処方箋なしでアフターピルの購入が可能に
- 医師の診察・処方が必須であったアフターピル(緊急避妊薬)について、処方箋なしでOTC医薬品として購入可能とすることを「男女共同参画基本計画」に明記する方針を、内閣府が明示。専門研修を受けた薬剤師が説明したうえ、対面して服用することが条件となる。
⇒詳しく読む
Topics 1 新型コロナウイルス感染症「重症化予測因子」を同定
2020年9月24日、国立国際医療研究センター(東京都新宿区)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を予測する因子として、「CCL17」「IFN-λ3」「IP-10」「IL-6」「CXCL9」の5つを同定したと発表しました。
同センターの研究グループは、2020年1~3月にCOVID-19で入院した患者さんに対して、50項目以上の血液検査を経時的に実施。その結果、重症化する患者さんでは感染初期の段階からCCL17が基準値より低く、IFN-λ3、IP-10、IL-6、CXCL9は重症化する数日前から異常高値を示すことが明らかになったということです。
新型コロナウイルス感染症対策専門会議の見解では現在のところ、新型コロナウイルスに感染したとしても約80%は軽症であり、無症状のケースも多いとみられています。一方で、高齢者や基礎疾患(慢性肺疾患、糖尿病、がんなど)がある人は重症化しやすいこと、感染者の14%は重症化し、6%は人工呼吸器装着が必要になるなど重篤な状態に陥ることも分かっています。
重症者の半数は回復するとされていますが、COVID-19による感染死を予防するためには、重症化する可能性が高い患者さんを早い段階で見極めて適切な治療を行っていくことが大切です。とはいえ、重症化する患者さんは通常の感冒症状が現れてから5~7日で急激に症状が悪化し、一気に肺炎へ移行するケースが多いことも分かっています(もちろん、高齢者や基礎疾患がない人でも重症化するケースはあります)。
こうしたことから、今回の重症化予測因子の同定は、治療方針の早期決定とCOVID-19による致死率低下に役立つと考えられています。感染が確認された段階でCCL17値を測定して重症化する可能性がある患者さんを絞り、その後に経時的な血液検査でIFN-λ3、IP-10、IL-6、CXCL9の数値変化を追っていけば、重症化への早期対応が可能になるというわけです。また、重症化予測因子を活用することで、適切な医療資源の分配にもつながると考えられます。
さらには、重症化予測因子をもとに「重症化を予防するための治療薬」の開発につながることも期待されています。今後は重症化予測因子がどのようなメカニズムで変動するか解明し、その数値の変動を抑制したり、重症化予測因子を中和したりする薬剤の開発が視野に入ってくるものと思われます。各国のワクチンや治療薬の開発が難航しているなか、今回の研究はそれらにとっても有益な情報となるでしょう。
COVID-19に関する情報は日々更新されますが、薬剤師の皆さんは患者さんに最新の正確な情報を伝えられるよう、チェックを欠かさないようにしましょう。
Topics 2 処方箋なしでアフターピルの購入が可能に
アフターピル(緊急避妊薬)は、「避妊せずに行なわれた性交、または避妊したものの避妊手段が適切かつ十分でなかった性交の後に、緊急避難的に服用する避妊薬」と定義されています。主成分は黄体ホルモンであり、服用することで排卵を遅らせたり、子宮内膜の状態を変化させたりして着床を阻止するとされています。ただし、思い当たる性行為から72時間以内に服用する必要があります。しかも、できるだけ早い段階で服用することが望ましく、24時間以内に服用した場合の妊娠阻止率は95%であるのに対し、49~72時間で服用した場合は58%と大きく低下するとされています(日本産科婦人科学会「緊急避妊法の適正使用に関する指針」平成28年度改定版より)。望まない妊娠を防ぐためには、まさに「時間が勝負」となるのです。
一方で、現状においてアフターピルは医療用医薬品であるため、購入するには医師の診察と処方を受けなければなりません。そのため、アフターピルの服用を希望しつつも、医療機関が近くにない、仕事を休めない、婦人科受診に抵抗がある……といった理由で受診を躊躇している間に72時間を過ぎてしまうケースも少なくありませんでした。
2019年からは初診を含めたアフターピルのオンライン処方が認められることとなりましたが、オンラインツールを持たない場合やオンラインでも心理的負担がぬぐえない側面があり、アフターピルを適正に入手・使用ができる環境は充分とはいえません。
こうした状況に、希望の光ともいえる一報が舞い込んできました。
内閣府は、2020年10月8日、アフターピルをOTC医薬品として処方箋なしで購入可能とすることを「男女共同参画基本計画」に明記する方針を示しました。政府は同計画を今年中には閣議決定する見通しです。海外ではアフターピルが市販されているケースが多く、ようやく日本も同じ方向へ歩み寄ったといえるでしょう。
処方箋なしでアフターピルを販売する際には、専門研修を受けた薬剤師が説明したうえ、対面して服用することが条件とされました。つまりアフターピルがOTC医薬品として販売された場合、患者さんに関わる医療従事者は薬剤師のみであり、非常に重要な役割を担うことになります。医薬の専門家として適切なアドバイスができるよう、また患者さんに親身になって寄り添えるよう、知識面でも精神面でも心構えをしておくことが望まれます。
<参考URL>
・【国立医療センター】重症化予測因子を同定-新型コロナ、初期から鑑別(薬事日報、2020年9月30日)
・処方箋なく緊急避妊薬購入を明記 男女共同参画計画案に内閣府(共同通信、2020年10月8日)
<この記事を読んだ方におすすめ>
2020年度診療報酬改定 手厚くなった薬局の「対人業務」評価の背景は?
成田亜希子(なりた あきこ)