薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2024.02.15 薬剤師のためのお役立ちコラム

特定販売とは?できる・できない医薬品の違いや届出などについて解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

ITを活用したシステムやサービスの普及に伴い薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)が改正され、医療業界でもICTを使ったサービスを提供する企業が増えてきました。インターネットを使って一般用医薬品を販売している調剤薬局やドラッグストアが増えたと感じる薬剤師もいるのではないでしょうか。今回は、インターネットなどを利用して一般用医薬品を販売する特定販売について、販売条件や注意事項などをお伝えします。

1.特定販売とは

特定販売とは、店舗で一般用医薬品を販売している調剤薬局やドラッグストアなどが、インターネットやカタログ、電話などを利用して郵送販売することを指します。
 
ほとんどの一般用医薬品は特定販売が可能です。ただし、一部の医薬品は販売が規制されているので、まずは特定販売の対象となる医薬品について確認しておきましょう。

 

1-1.特定販売できる医薬品とできない医薬品

薬機法において、医薬品は「一般用医薬品」、「要指導医薬品」、「医療用医薬品」の大きく3つに分類されています。インターネットで販売可能な医薬品は、薬局製造販売医薬品と一般用医薬品の2つです。
 
一般用医薬品は、第1類医薬品から第3類医薬品の販売が認められています。要指導医薬品(いわゆるスイッチOTC)は、3年を経過すると第1類医薬品に移行し、その後1年間で第1類から第3類のいずれに分類するかの検討・決定が行われます。
 
要指導医薬品は3年後に一般用医薬品になるため、特定販売を行う薬剤師や薬店は、要指導医薬品についての知識を深めるとともに、特定販売をする上での注意点などを事前に学んでおくとスムーズに移行できるでしょう。

薬品 薬局医薬品 医療用医薬品 処方箋医薬品 対面販売
処方箋医薬品以外の
医療用医薬品
薬局製造販売医薬品 インターネット販売可
※毒薬・劇薬を除く
要指導医薬品 対面販売
一般用医薬品 第1類医薬品 インターネット販売可
指定第2類医薬品
第2類医薬品
第3類医薬品

※次項から指定第2類医薬品と第2類医薬品を合わせて第2類医薬品と表記します。
 
参照:一般用医薬品のインターネット販売について|厚生労働省
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則|e-Gov法令検索

2.特定販売を行うための要件

特定販売を行う要件は、実店舗で一般用医薬品を販売するよりも多くの項目が設定されています。ここでは、特定販売を行うための要件について見ていきましょう。

 

2-1.店舗での販売を行っていること

特定販売は、調剤薬局やドラッグストアにおいて販売許可を取得した店舗のみに許可されています。そのため、まずは実店舗での許可を得ておかなければなりません。
 
店舗の構造にも規定があり、購入者の見やすい場所に店名が分かるように標識を作ったり、出入りが簡単にできるような構造にしたりすることが定められています。
 
また、対面や電話での相談体制を整備するとともに、実店舗・インターネットに限らず、購入者が一般用医薬品の購入前後に、いつでも問い合わせができる環境を整える必要があります。

 

2-2.薬剤師などの専門家が販売する

一般用医薬品は種類によって、販売するための資格が異なります。インターネットなどを使った特定販売も店舗での販売と同様に、第1類医薬品は薬剤師のみ、第2類・第3類医薬品は薬剤師と登録販売者による販売が認められています
 
特定販売は、購入者へ情報提供・販売した薬剤師や登録販売者の氏名などを伝達することに加え、販売者や販売時刻などの記録を作成し保存するといった店頭販売と同様の業務を行う義務があります。

 
🔽 登録販売者について解説した記事はこちら

 

2-3.ホームページに必要事項を掲示

特定販売を行う店舗は、厚生労働省が公表する「一般用医薬品の販売サイト一覧」に掲載され、ホームページに必要事項を掲示しなければなりません。
 
対応できる薬剤師や登録販売者の勤務シフト表や氏名、営業時間外を含めた連絡先などを掲示します。
 
加えて、実店舗の写真や店舗での陳列状況が分かる写真、店舗の開店時間・特定販売が可能な時間帯、医薬品の使用期限の掲載も必須です。
 
リスク区分について分かりやすく表示するなど、購入者が安心して一般用医薬品を購入できるようなホームページを作成するよう求められています。

3.特定販売の流れ

一般用医薬品の特定販売では、種類によって対応が異なります。ここでは、特定販売の流れを見ていきましょう。

 

3-1.使用者の状況などの確認

薬剤師や登録販売者はメールなどを利用して、使用者に以下の項目を確認します。

 

● 性別、年齢
● 症状
● 副作用歴の有無やその内容
● 持病の有無やその内容
● 医療機関の受診の有無やその内容
● 妊娠の有無、授乳中であるか否か
● その他気になる事項(自由記載)

 

販売前に基本的な情報を聞き取り、販売する一般用医薬品を使用する上での問題点や注意点などを判断します。
 
ただし、個別の情報提供について第2類は努力義務とされており、第3類は規定がないため、使用者への確認内容は薬剤師や登録販売者の判断に委ねられます。入手した情報を踏まえて販売可能と判断した場合は、情報提供や理解度の確認といった手順を踏まずに販売が可能です。
 
なお、濫用のおそれがある医薬品や指定第2類医薬品は服用薬などの情報を聞き取る必要があります。

 

3-2.医薬品に関する情報提供を行う

第1類医薬品において、使用に問題ないと判断される場合は、メールなどを使用して、以下の点を中心に必要に応じた個別の情報提供を行います。

 

● 用法・用量
● 服用上の留意点
● 服用後注意すべき事項
● 再質問等の有無

 

上述したように、第2類・第3類医薬品は基本的に個別の情報提供の義務がありません。
 
しかし、一般用医薬品は一時的な使用が前提であり、症状が改善されない場合は医療機関を受診するように促すとよいでしょう。購入者から、副作用が現れた時の対処方法など相談があった場合は情報提供を行わなければなりません。

 

3-3.使用者の理解度を確認

第1類医薬品はメールなどを利用して、情報提供した内容の理解度を確認します。用法用量や使用上の注意など、薬に関する理解度に加え、症状が改善されない場合や副作用が現れた時の対処法などについても確認しましょう。
 
また、再質問などがあった場合は、担当する薬剤師や登録販売者が回答した上で、正しく理解できているかなどを確認します。第1類医薬品は再質問やそのほかの相談がないことの確認が取れた段階で、販売が可能です。

 

3-4.濫用などのおそれのある医薬品を販売する時の注意点

濫用のおそれのある医薬品を販売する時は、いくつかの注意点があります。例えば、若年購入者の場合は氏名と年齢を確認し、他薬局などで同じ一般用医薬品の購入歴があるのか、その他に濫用などのおそれがある医薬品の購入状況を聞き取ります。
 
通常の使用量に比べて大量に販売するケースでは、その理由と適正な使用目的であることを確認しなければなりません。これらを確認したうえで、適正使用に必要な数量を販売することとしています。
 
対象品目は、コデイン・ジヒドロコデイン・ジヒドロコデインセキサノール・メチルエフェドリンなど。コデイン・ジヒドロコデインは「鎮咳去痰薬に限る」、メチルエフェドリンは「鎮咳去痰薬のうち、内用液剤に限る」という指定範囲がありましたが、2023年4月からこれらの制限がなくなり、すべて規制対象となりました。
 
適正な使用のために必要と認められる数量は1包装単位とし、1包装を超えて購入を希望する場合は、購入理由の確認が必要です。対象品目については厚生労働省のホームページを確認するようにしましょう。
 
参照:「「濫用等のおそれのある医薬品」 の適正販売に向けた販売者向けのガイドラインと関係団体等に向けた提言」について(情報提供)|厚生労働省
参照:「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第十五条の二の規定に基づき濫用等のおそれのあるものとして厚生労働大臣が指定する医薬品」の改正について|厚生労働省

 

3-5.販売記録の作成と保存

販売記録の作成と保存について、第2類・第3類医薬品は努力義務であるのに対し、第1類医薬品は、以下の項目について書面に記載しなければなりません。

 

● 医薬品名
● 販売した数量
● 販売した日時
● 販売した薬剤師や登録販売者の氏名
● 情報の提供を行った薬剤師や登録販売者の氏名
● 購入者が、情報提供などの内容を理解したことの確認

 

書面の保管期間は2年間です。また、第3類医薬品は情報提供・販売を行った担当者の氏名と理解度の確認は努力義務の対象外とされ、必須ではありません。
 
また、購入者の連絡先の確認は第1類・第2類・第3類医薬品ともに努力義務です。しかし、特定販売では商品を郵送するため、購入者の連絡先を確認するケースがほとんどでしょう。記録に残しておくと、ロット回収などがあった場合に、早急な連絡が可能です。

4.特定販売を行うための届出

特定販売を行うには、保健所へ届け出る必要があります。特定販売を行うことを前提に、調剤薬局やドラッグストアが開設申請をする際は、通信手段や特定販売する医薬品の区分、ホームページのアドレスなどを添付資料に記載しなければなりません。
 
また、開設時に申請した内容を変更する場合は、事前に保健所へ届け出る必要があります。
 
医薬品のインターネット販売は違法なものを販売しているケースもあるため、厚生労働省は違法な販売サイトなどの情報提供を呼び掛けています。
 
※参照:医薬品医療機器等法違反の疑いがあるインターネットサイトの情報をお寄せください|厚生労働省
 
これらの届出をしっかりと行うことで、厚生労働省の「一般用医薬品の販売サイト一覧」に掲載され、消費者の信頼を得ることができるでしょう。

5.特定販売における禁止事項

特定販売にはいくつかの禁止事項があります。それぞれ詳しく見てみましょう。

 

5-1.オークション形式の販売禁止

オークション形式の販売が禁止されているため、インターネットオークションなどで医薬品を出品することは認められていません
 
大量購入した購入者には、オークションへの転売などは禁止されている旨を伝えましょう。

 

5-2.購入者による効能効果についてのレビューなどが禁止

購入者によるレビューや口コミ、レコメンドの掲載も禁止されています。医薬品の広告は薬機法で規制されているため、医薬品使用後の効能効果を口コミなどに書き込むことは認められていません。
 
ただし、販売店の対応など効能効果以外に関するレビューや口コミは認められています。
 
また、インターネットを利用して広告を行う場合、ホームページの利用履歴などから医薬品の購入に関する情報を得て、自動的に特定の医薬品の購入を勧誘するレコメンドも認められません。

 

5-3.問い合わせに対する自動返信などが禁止

特定販売では、質問に対する回答は個別に情報提供することが定められています。
 
そのため、メールに対する自動返信や一律内容の一斉送信は認められません。

6.特定販売を始める前に

特定販売を始めるには、実店舗で一般用医薬品を販売できるよう届け出ることが前提です。その上で、ホームページを作成し、購入者とスムーズに連絡を取れるよう環境整備が求められます。
 
特定販売ならではの禁止事項もあるため、薬剤師としてルールをしっかりと把握し、適切な対応を行いましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。