薬剤師や医師などの医療資格を証明する「HPKIカード」。HPKIとは「Healthcare Public Key Infrastructure」の略称で、日本語では「保健医療福祉分野公開鍵基盤」と呼ばれます。本記事では、HPKIカードの概要や導入目的、発行するメリットなどを解説した上で、申請方法や発行費用、更新方法についてお伝えします。HPKIカードに関するよくある質問と回答もまとめています。
- 1.HPKIカードとは?
- 1-1.HPKIセカンド電子証明書とは?
- 2.HPKIカードの導入目的とメリット
- 2-1.HPKIカードの導入目的
- 2-2.HPKIカードのメリット
- 3.HPKIカードの申請方法
- 3-1.医療情報システム開発センターへの郵送申請の場合
- 3-2.日本薬剤師会への郵送申請の場合
- 3-3.日本医師会への郵送申請の場合
- 3-4.マイナポータルからのWeb申請の場合
- 4.HPKIカードの発行費用
- 5.HPKIカードの更新方法
- 6.HPKIカードに関するQ&A
- 6-1.PINコード(暗証番号)を忘れてしまったらどうする?
- 6-2.紛失時や氏名変更時などに再発行するには?
- 6-3.HPKIカードの普及率はどのくらい?
- 7. HPKIカードは、電子署名や電子的証明に使用できるカード
1.HPKIカードとは?
HPKIカードとは、医療に関連する国家資格や管理者資格を電子的に証明するカードのことです。カードに内蔵されたICチップに格納されている電子証明書を活用して、電子署名や電子認証を行うことが可能です。
HPKIカードには、以下の情報が記載されています。
● 氏名
● 生年月日
● 資格の登録番号(薬剤師名簿登録番号など)
● 有効期限
● カードID
● 発行日
● 発行者
対象資格として、医師や薬剤師、看護師など27種類の保健医療福祉分野の国家資格と、病院長や管理薬剤師、薬局開設者など5種類の管理者資格があります。
参照:日本薬剤師会認証局・薬剤師資格証について|日本薬剤師会
参照:HPKIの目的・対象資格|医療情報システム開発センター
1-1.HPKIセカンド電子証明書とは?
HPKIセカンド電子証明書とは、HPKIカードの代わりに、モバイルデバイス(生体認証機能付きスマートフォンなど)やマイナンバーカードを通して利用できる電子証明書です。HPKIカードを紛失・破損したときなどでも、電子署名を行えるのが利点といえます。ただし、あらかじめ利用登録が必要です。
HPKIセカンド電子証明書をモバイルデバイスに登録する場合、以下の2つの方法があります。
また、マイナンバーカードをHPKIセカンド電子証明書として利用する場合にも、「HPKIセカンド電子証明書管理・認証プラットフォーム 認証用デバイス/マイナンバーカード登録サイト」にて利用登録が行えます。
参照:セカンド電子証明書|日本薬剤師会
2.HPKIカードの導入目的とメリット
HPKIカードが導入された背景には、電子処方箋の運用などが関わっています。ここからは、HPKIカードの導入目的とメリットを解説します。
2-1.HPKIカードの導入目的
HPKIカードの主な導入目的のひとつが、電子処方箋への電子署名に対応するためです。電子処方箋とは、これまで紙で発行されていた処方箋を電子化したもので、2023年1月から運用が開始されました。
紙の処方箋では、処方箋を発行・調剤する際、責任の所在を明らかにするため、医師や薬剤師による記名・押印が必要です。一方、電子処方箋では、記名・押印の代わりにHPKI電子署名を行います。
電子処方箋は「複数の医療機関や薬局での処方・調剤情報を閲覧できるようになる」などメリットも多く、今後のさらなる普及に伴い、HPKIカードの必要性も増していくでしょう。
参照:電子処方箋における電子署名について【医療機関・薬局の方々へ】|厚生労働省
参照:電子処方せん(国民向け)|厚生労働省
2-2.HPKIカードのメリット
HPKIカードのメリットは、電子文書を取り扱った人の氏名や資格を正確に記録・証明できる点です。
HPKIカードに用いられている仕組み(PKI:公開鍵基盤)によって、電子文書の送信者だけが知っている「秘密鍵」を用いてデータを暗号化し、受信者がそれに紐づく「公開鍵」を使って復号化したものを突合することで、電子文書が改ざんされていないことを証明します。そのため、HPKIカードは本人しか使用できず、その記録を他人が改ざんすることはできません。
HPKIカードによる電子署名は本人によるものである証明となり、その文書を取り扱ったのが誰なのかを正確に記録できます。電子処方箋への電子署名以外にも、電子カルテや診療情報提供書、紹介状の作成における電子的証明にも利用可能です。また、公的機関のみが発行するカードであり、保有資格の証明にも使用できます。
参照:電子処方箋における電子署名について【医療機関・薬局の方々へ】|厚生労働省
参照:HPKIの使い方(例)と活用事例|医療情報システム開発センター

3.HPKIカードの申請方法
2025年2月時点では、医療情報システム開発センター・日本薬剤師会・日本医師会への郵送申請、もしくはマイナポータルからのWeb申請にてHPKIカードの発行手続きを行っています。
申請方法によって、必要書類や交付までの流れが異なるため、注意しましょう。ここからは、申請方法ごとにHPKIカードの申請方法を解説します。
3-1.医療情報システム開発センターへの郵送申請の場合
医療情報システム開発センターでは、医師や薬剤師など資格の種類を問わず、HPKIカードの申請が可能です。新規申請の際は、認定局へ配達記録の取れる方法(書留郵便・簡易書留郵便・配達記録郵便など)で郵送申請を行います。必要書類は以下のとおりです。
○ 実印での押印が必要
● 住民票
○ 申請日から3カ月以内に発行したもの、マイナンバーの記載がないもの、本籍・世帯主名および続柄の記載は省略可
● 本人確認資料のコピー
○ 日本国旅券・運転免許証・住民基本台帳カード(写真付き)・官公庁職員身分証(張り替え防止措置済みの写真付き)・マイナンバーカード(個人番号は隠してコピー)、空欄に実印での押印が必要、有効期間のある資料は有効期間内のもの
● 印鑑登録証明書
○ 申請日から6カ月以内に発行したもの
● 国家資格免許証のコピー(電子処方箋で使用する場合必須)
○ 空欄に実印での押印が必要(鮮明に押印すること)
● 写真
○ 申請日から6カ月以内に撮影したもの、パスポート申請用写真の規格を使用
上記に合わせて、管理者等資格(5種)を申請する場合は、以下のいずれかの書類も提出する必要があります。
【イ】管理権限を有すると公に告知している書類(医療機関等のパンフレットなど)
● 「登記事項証明書」+【ア】+【イ】
● 「開設届の副本のコピー」+【ア】+【イ】
● 「地方厚生局より発行された指定通知書のコピー」+【イ】
● 「各法等で掲示を求められているもののコピー」+【ア】+【イ】
● 「薬局開設許可証のコピー」+【ア】+【イ】
認定局に書類が到着すると、本人確認などの審査が行われます。正当な資格を有する申請者として承認されたら、HPKIカードが発行され、本人限定受取郵便(特例型)で郵送されます。
HPKIカードを受け取ったら、同封されている請求書にて発行費用を支払わなければなりません。振込費用は申請者が負担します。
参照:申し込み方法|医療情報システム開発センター
3-2.日本薬剤師会への郵送申請の場合
薬剤師の場合、日本薬剤師会でも申請可能です。申請の際には、以下の申請書類を簡易書留やレターパックなど追跡できる方法で郵送します。
○ 専用サイトで作成し、印刷後に本人により署名・パスワードを記入
● 住民票
○ 発行日から6カ月以内のもの、マイナンバーが記載されていないもの、コピーは不可
● 本人確認書類のコピー
○ 運転免許証(裏面に記載がある場合、裏面もコピーする)・マイナンバーカード(表面のみ)・日本国旅券(顔写真、旅券番号などが印刷されたページ)・官公庁職員身分証明証(張り替え防止措置済みの写真付き)、有効期間内のもの
● 薬剤師免許証のコピー
○ 縮小コピーやコピー用紙2枚でも可、裏書がある場合には裏面のコピーも提出
● 顔写真
○ 申請書に貼付、写真用紙を使用(プリント用紙不可)、45mm×35mmのパスポート用写真に準拠
書類審査に合格すると、審査結果とともに発行費用の支払いに関するメールが届きます。メールの内容に従い、すみやかに発行費用を支払いましょう。
支払い確認後、HPKIカードが日本薬剤師会から各地域薬剤師会に送付され、ハガキや電話、メールなどで交付準備完了のお知らせが届きます。
指定された日時に本人確認書類(申請時に提出したもの)を持って、地域薬剤師会にて対面でHPKIカードを受け取ります。書類郵送先は申請書別紙を参照してください。
参照:薬剤師資格証の取得方法について|日本薬剤師会認定局
3-3.日本医師会への郵送申請の場合
日本医師会では、医師向けにHPKIカードの発行手続きを行っています。
郵送申請では、日本医師会電子認証センターのホームページ上で、発行申請書を作成し、印刷したものを以下の必要書類とともに日本医師会電子認証センターへ郵送します。
○ 6カ月以内に撮影したもの、パスポート規格に準ずるもの
● 住民票
○ 発行日から6カ月以内のもの、マイナンバー・住民票コードが記載されていないもの、コピーは不可
● 身分証明書のコピー
○ 日本国旅券・運転免許証・運転経歴証明書(2012年4月1日以降に発行されたもの)・住民基本台帳カード・マイナンバーカード(写真付き、表面のみ、通知カードは不可)・官公庁職員身分証(写真付き、張り替え防止措置済みのもの)、有効期間内のもの
● 医師免許証のコピー
○ 裏面に追記がある場合には裏面画像も必要、改姓手続き中は旧姓が分かる公的書類の画像も必要
郵送の際には、簡易書留など送達確認のできる方法をとりましょう。HPKIカードが発行されると、受取場所が記載された発行完了通知がハガキで届きます。必要書類を持参して、指定された受取場所にてHPKIカードを受け取ります。
ただし、所属医師会によっては申請方法や受取方法が異なる場合があるため、詳細は各医師会のホームページなどでも確認してみましょう。
なお、2025年2月時点で、日本医師会ではICカード不足により、HPKIカードの発行を一時停止しています。ICカードの入荷は2025年春・夏頃が見込まれており、それまではHPKIセカンド電子証明書の先行発行にのみ対応しています。
参照:医師資格証(HPKIカード)新規お申込み 1.医師資格証の申請にあたって|日本医師会
参照:医師資格証(HPKIカード)新規お申込み 医師資格証を受取可能な医師会一覧|日本医師会
3-4.マイナポータルからのWeb申請の場合
HPKIカードの発行手続きは、マイナポータルからWeb申請で行うことも可能です。ただし、日本薬剤師会への申請については、2025年2月時点ではHPKIセカンド電子証明書の発行のみに対応しており、HPKIカードの発行には対応していません。
マイナポータルからのWeb申請時に必要なものは、以下のとおりです。
● 顔写真
○ 6カ月以内に撮影したもの、パスポート規格に準ずるもの
● 公的身分証の画像
○ マイナンバーカード(表面のみ、通知カードは不可)・運転免許証・運転経歴証明書(2012年4月1日以降に発行されたもの、裏面に追記がある場合は裏面画像も必要)・日本国旅券(顔写真のあるページ)、有効期間内のもの
● 資格免許証
○ 裏面に追記がある場合には裏面画像も必要、改姓手続き中は旧姓が分かる公的書類の画像も必要
参照:医療等分野の電子署名利用申請について|マイナポータル
参照:マイナポータルを利用したHPKI電子証明書発行申請(マイナポ申請)について|日本薬剤師会認定局
4.HPKIカードの発行費用
HPKIカードの発行費用は申請先や、会員・非会員によって異なります。申請先ごとの発行費用は以下のとおりです。
申請先 | 発行費用(税込) | |
---|---|---|
医療情報システム開発センター | 医師・歯科医師・薬剤師 | 26,950円 |
上記以外 | 55,000円 | |
日本薬剤師会 | 会員 | 19,800円 |
非会員 | 26,400円 | |
日本医師会 | 会員 | 無料 |
非会員 | 5,500円 ※マイナポータルからの新規発行申請は当面の間無料 |
なお、過去には厚生労働省の「保健医療福祉分野の公開鍵基盤(HPKI)普及・啓発事業」への対応として、HPKIカード取得費用に対する補助金がありましたが、2025年2月時点では、HPKIカードの発行に関して補助金の支給は実施されていません。
参照:申し込み方法|医療情報システム開発センター
参照:薬剤師資格証の取得方法について|日本薬剤師会認定局
参照:医師資格証(HPKIカード)新規お申込み 3.料金について|日本医師会 電子認証センター
参照:厚労省HPKI補助金について|日本薬剤師会

5.HPKIカードの更新方法
HPKIカードには、以下の有効期限があります。
発行元 | 有効期限 |
---|---|
医療情報システム開発センター | 発行日から5回目または6回目の誕生日 |
日本薬剤師会 | 2022年9月27日より前に発行したカード:発行日より5年 2022年9月27日以降に発行したカード:発行日より5回目の誕生日 |
日本医師会 | 5年間 |
医療情報システム開発センター・日本薬剤師会でHPKIカードを発行した場合には、有効期限までに更新申請を行わなければなりません。医療情報システム開発センターについては有効期限の60日前から、日本薬剤師会については有効期限の180日前から申請が可能です。
更新に必要な費用はいずれも新規発行時と同様で、必要書類をそろえて郵送で提出します。
日本医師会でHPKIカードを発行した場合は、原則として有効期限の約4カ月前に更新に関するお知らせが届きます。顔写真や姓名、住所の変更がある場合には手続きが必要ですが、変更がない場合の更新手続きは不要です。更新費用は、日本医師会の会員は無料、非会員は5,500円(税込)です。
更新されたHPKIカードは、有効期限の約1カ月前に本人限定受取郵便(特例型)で住民票の住所に郵送されます。
参照:申し込み方法|医療情報システム開発センター
参照:継続申請について|日本薬剤師会認定局
参照:医師資格証 更新について|日本医師会 電子認証センター
6.HPKIカードに関するQ&A
HPKIカードに関するよくある質問について、Q&A形式で回答します。
6-1.PINコード(暗証番号)を忘れてしまったらどうする?
医療情報システム開発センターで発行したHPKIカードの場合、暗証番号を忘れたなどの理由で15回連続して間違えてしまいロックがかかってしまうと、解除するために再発行手続きが必要です。
日本薬剤師会発行のHPKIカードについて、暗証番号を忘れてしまったときには認定局に問い合わせる必要があります。また、日本医師会の場合には、「暗証番号(パスワード)開示手続き」に必要事項を記載して、HPKIカードの表面のコピーとともに日本医師会電子認証センターへ郵送すれば、暗証番号の開示申請を行えます。
参照:お問い合わせ|医療情報システム開発センター
参照:薬剤師資格証に関するよくある質問|日本薬剤師会
参照:利用者向けサービス/各種手続き|日本医師会 電子認証センター
6-2.紛失時や氏名変更時などに再発行するには?
HPKIカードの紛失時や氏名変更時には、現状のHPKIカードの失効や再発行の手続きが必要になります。
具体的な対応方法は、再発行の理由や発行元によっても異なるため、ホームページなどで手順を確認した上で、速やかに手続きを行うようにしましょう。
参照:申し込み方法|医療情報システム開発センター
参照:薬剤師資格証に関するよくある質問|日本薬剤師会
参照:利用者向けサービス/各種手続き|日本医師会 電子認証センター
6-3.HPKIカードの普及率はどのくらい?
日本医師会によると、2025年1月31日時点で、医師資格証(HPKIカード)の保有者数(セカンド電子証明書の先行発行を含む)は全国で101,925人であり、取得率は29.7%でした。
上記は医師資格証に関するデータですが、薬剤師についても、管理薬剤師へHPKIカードを発行したのち、「薬局の2人目の薬剤師」、「その他の薬剤師」へ発行するという段階的な発行計画が立てられており、広く普及するまでは時間を要することが予想されます。
参照:医師資格証 保有者数の推移|日本医師会
参照:医療ICTの全体概要|日本薬剤師会

7.HPKIカードは、電子署名や電子的証明に使用できるカード
HPKIカードとは、薬剤師や医師など医療に関連する国家資格や管理者資格を電子的に証明するカードのことです。電子文書への電子署名や保有資格の証明ができ、電子処方箋の電子署名にも使用できるため、今後、HPKIカードの必要性がさらに増していくことが予想されます。
HPKIカードの発行手続きは、医療情報システム開発センター・日本薬剤師会・日本医師会が行っています。申請先によって、必要書類や交付までの流れ、発行費用が異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。

執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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