第50回 成井繁 先生
「精神科領域の薬物療法が苦手」、「服薬指導に自信がない」という薬剤師は少なくないようです。そんな苦手意識を克服し、もう一歩踏み込んだ服薬指導を実践していくためにはどうすればいいのでしょうか。
今回は薬局薬剤師として初となる精神科薬物療法認定薬剤師の認定を受け、精神科の患者さんへの意欲的な服薬指導を実践している、成井繁先生にお話をうかがいました。全5回のシリーズです。
原稿/高垣育(薬剤師・ライター)
※商品名は種類が多いため、一部の先発品のみの記載となっています。
※商品名は種類が多いため、一部の先発品のみの記載となっています。
患者さんが薬物療法中に抱えるストレスは主に2つあります。
1つ目は「なぜ服薬をしなければならないのかというストレス」です。
せっかく薬物療法を開始したのにも関わらず、副作用のために患者さんのQOLが損なわれている場合があります。
また、服薬自体に疑問や拒否感を持っている患者さんもいますから、服薬の意義を理解して、前向きに薬物療法に参加してもらえるよう手助けをします。
2つ目は、「精神的身体的なつらい症状によるストレス」です。
服薬を開始してもなかなか症状が改善されないと訴える患者さんの場合は、その症状をよく聞き取ります。必要があればさらに医師にも患者さんの状況を伝え、つらい症状が限りなくゼロに近づくように尽力しましょう。
こうしたストレスを患者さんが抱えているかどうかは、来局されるたびに薬歴から前回からの変化について尋ねることで拾い上げます。
私が以前に経験した症例を紹介しましょう。
在宅で執筆業をしている統合失調症の患者さんから来局時に「最近疲れやすい。やる気が起きず、仕事も思うように進まない。幻聴にも困っている」という訴えがありました。
よく聞いてみると、その方は休憩もせずに3~4時間も執筆作業をしているようでした。
そこで「それはやりすぎだから、ちゃんと休むことも大事ですよ。1時間作業したら、少し身体を動かすなどしてみませんか。疲れがとれて、頭がすっきりすれば、仕事もはかどりますよ」とお話ししたところ、次の来局時には「先生の言うとおりにしたら、1日に20ページも書けたよ!」と嬉しそうに語ってくれました。その患者さんは、自身の体験談をもとに、本の出版をすることができました。患者さんの訴えをよく聞くことで不調の原因を探り当て、問題解決のための提案をできた事例です。
このように患者さんのストレスをマネジメントするのも、薬剤師の大切な役割のひとつといえるでしょう。
精神科の患者さんが来局する薬局では、ときには「死にたい」と自殺企図を訴える患者さんに出会うこともあります。
もし来局時や、夜中に電話などでこうした訴えを受けた場合には、まずどうしてそのように思ったのかを聞き、受け止めます。そのうえで、「今すぐに答えが出る問題ではないから、明日受診して医師にもう一度その話をしてみましょう。そして、一緒にどうしたらいいのかを考えましょう」と、自殺をすることを引き留め、落ち着かせることが大切です。
さらに「明日は午前中に病院に行けそうですか?」など、次の約束を取りつけるようにします。
薬局にはしばしば深刻なSOSのサインを発する患者さんが訪れることがありますが、そんなときは決して慌てずに、患者さんの訴えをよく聞いて、まずは気持ちを落ち着かせてもらいましょう。そしてその場ですぐに答えを出さず、自分の気持ちを見つめ直す時間を作ってあげることが重要です。
患者さんが薬物療法中に抱えるストレスは主に2つあります。
1つ目は「なぜ服薬をしなければならないのかというストレス」です。
せっかく薬物療法を開始したのにも関わらず、副作用のために患者さんのQOLが損なわれている場合があります。
また、服薬自体に疑問や拒否感を持っている患者さんもいますから、服薬の意義を理解して、前向きに薬物療法に参加してもらえるよう手助けをします。
2つ目は、「精神的身体的なつらい症状によるストレス」です。
服薬を開始してもなかなか症状が改善されないと訴える患者さんの場合は、その症状をよく聞き取ります。必要があればさらに医師にも患者さんの状況を伝え、つらい症状が限りなくゼロに近づくように尽力しましょう。
こうしたストレスを患者さんが抱えているかどうかは、来局されるたびに薬歴から前回からの変化について尋ねることで拾い上げます。
私が以前に経験した症例を紹介しましょう。
在宅で執筆業をしている統合失調症の患者さんから来局時に「最近疲れやすい。やる気が起きず、仕事も思うように進まない。幻聴にも困っている」という訴えがありました。
よく聞いてみると、その方は休憩もせずに3~4時間も執筆作業をしているようでした。
そこで「それはやりすぎだから、ちゃんと休むことも大事ですよ。1時間作業したら、少し身体を動かすなどしてみませんか。疲れがとれて、頭がすっきりすれば、仕事もはかどりますよ」とお話ししたところ、次の来局時には「先生の言うとおりにしたら、1日に20ページも書けたよ!」と嬉しそうに語ってくれました。その患者さんは、自身の体験談をもとに、本の出版をすることができました。患者さんの訴えをよく聞くことで不調の原因を探り当て、問題解決のための提案をできた事例です。
このように患者さんのストレスをマネジメントするのも、薬剤師の大切な役割のひとつといえるでしょう。
精神科の患者さんが来局する薬局では、ときには「死にたい」と自殺企図を訴える患者さんに出会うこともあります。
もし来局時や、夜中に電話などでこうした訴えを受けた場合には、まずどうしてそのように思ったのかを聞き、受け止めます。そのうえで、「今すぐに答えが出る問題ではないから、明日受診して医師にもう一度その話をしてみましょう。そして、一緒にどうしたらいいのかを考えましょう」と、自殺をすることを引き留め、落ち着かせることが大切です。
さらに「明日は午前中に病院に行けそうですか?」など、次の約束を取りつけるようにします。
薬局にはしばしば深刻なSOSのサインを発する患者さんが訪れることがありますが、そんなときは決して慌てずに、患者さんの訴えをよく聞いて、まずは気持ちを落ち着かせてもらいましょう。そしてその場ですぐに答えを出さず、自分の気持ちを見つめ直す時間を作ってあげることが重要です。
1989年明治薬科大学卒業。2015年10月に日本病院薬剤師会が認定する「精神科薬物療法認定薬剤師」の認定を薬局薬剤師として初めて受け、特に精神科領域の患者さんへの薬物治療に尽力し、地域医療に貢献している。