1.第6回みんなで選ぶ薬局アワードはリアルとオンラインで開催
「薬局は薬をもらうだけの場所で、どこも同じようなもの」という誤解を払拭したい――。薬局支援協会代表理事である竹中孝行さんのこうした思いが原点となり、「みんなで選ぶ薬局アワード」は2017年に産声を上げました。
竹中さんは、「今年も予選会から多くの素敵な薬局にエントリーしていただきました。予選会を勝ち抜いた薬局の魅力的な取り組みを知ることで、自分の職場ではどんなことができるか、ぜひ考えてみてください」と、本イベントへの高い期待感を語りました。
オープニング挨拶をする薬局支援協会代表理事の竹中さん
3年ぶりとなる会場での開催。会場は高揚感と熱気に包まれた。
2020年以降は新型コロナウイルス感染症に配慮したオンライン開催が続いていましたが、2022年は満を持してリアル(会場:東京大学本郷キャンパス)とオンラインのハイブリッド開催という新しい形式でのイベントとなりました。
会場のスクリーンにはQRコードが映し出され、スマホで読み込むとコメントやリアクションを送信できる画面に。オンラインでの参加者も一体になって楽しめる仕掛けとなった。
「#薬局アワード」を付けたツイートやハートマークなどのリアクションが会場のスクリーンに流れるなど、会場とオンラインをつなぐ仕組みもあって盛り上がりを見せました。合間には「みんなDE薬局トーク」という定番の人気コーナーも。事前アンケートをもとに、「一般の人が薬局で気になること」「薬剤師が一般の人に知ってほしいこと」というテーマで忌憚ない意見が交わされました。
スクリーンに映し出される参加者のコメントや意外なリアクションがイベントを盛り上げる。
2.第6回みんなで選ぶ薬局アワードの代表6薬局
まずは、予選を勝ち抜き選出された代表薬局6組のプレゼンテーションについて、薬剤師の皆さんに知ってほしいポイントを中心にお伝えしていきます(掲載は発表順)。
代表薬局① 栄さくら薬局(兵庫県神戸市)
「地域の皆様の健康をまもる『こども薬剤師』~処方監査・疑義照会・食事・運動指導~」
発表者:後迫麻衣さん ► 薬局ホームページはこちら
薬局は薬を渡すだけの場所でなく、地域の健康ステーションであることを理解してもらう目的で、医療事務員である後迫さんが中心となり子ども対象のイベントを開催。ジュースやお菓子を使って調剤体験するイメージが強いですが、処方監査、疑義照会、食事・運動指導について伝えることをより重視しました。
未来を担う子どもたちに薬局は命を守る場所だと分かってもらい、イベントの最後には「こども薬剤師修了証」を渡すことで意識を高めてもらう狙いです。
会場を2つに分ける、すべてスタッフが手伝うのではなく保護者の協力を仰ぐといった工夫で、コロナ禍でも感染対策を徹底しながら実施。参加者の満足度は高く、「将来は薬剤師になりたい」と話す子もいたほど。薬剤師はもちろん、すべてのスタッフが地域の健康を守れる存在だと信じ、活動を続けています。
代表薬局② まいづるゆう薬局(京都府舞鶴市)
「まちへ出て、地域と人と健康を繋げる“ゆう薬局カフェ”~社会的処方/健康サポートの実践事例としての5年間+α~」
発表者:船戸一晴さん ► 薬局ホームページはこちら
新人薬剤師の提案をきっかけに、レンタルキッチン付きの会場で「ゆう薬局カフェ」をオープンし、毎月第2土曜日の11~15時に営業。「社会的処方」というキーワードに注目し、地域住民とつながることが大きな目的です。
社内の管理栄養士による減塩を意識したメニューを提供し、食後に意図を説明したりレシピを渡したりするほか、13時半からはミニ講座も開催。コロナ禍においてはオンラインのみで開催し、正しいワクチンの知識などを提供しました。
薬剤師が街に出ることで薬局での関わりが豊かになったほか、地域の人々をつなぐ場となり、社会的処方に近いやりとりが自然に生まれました。
代表薬局③ ワカバ薬局(青森県八戸市)
「地域の中で『必要な時に必要なもの』をいつでも提供できる薬局になりたい」
発表者:阿達昌亮さん ► 薬局ホームページはこちら
どんなときも「開いていて良かった」と患者さんに言ってもらえるような、地域を支える医療インフラでありたいと考え、移転開局の際にかねてから検討してきたアイデアを実現させました。
ゲリラ豪雨などの際も開局しやすいよう、薬局の入り口は道路面より約75cm高く設計。ソーラーパネルや電気自動車からの給電で停電時にも最低限の運営を可能に。
また夜間休日等の時間外には、薬剤師1人でも安心して働けるように環境を整備。日中は広い待合室をフル活用する一方、夜間はシャッターで局内を区切るなどして使用する範囲を最小限に抑えています。
こうした機能を持つ薬局を持続的に運営するためには、経営理念をスタッフと共有し続けることが最も重要だと感じているそう。
また薬局は単独で活動するのではなく、自分たちのできることを持ち寄り、集団で取り組むことで長期的に無理なく地域活動を実現できると信じ、活動を続けています。
代表薬局④ たなべ薬局久保山店(東京都八王子市)
「野菜から広がる地域のふれあい健康『道の駅』 コロナに負けず笑顔の輪を広げたい!」
発表者:川田祐介さん、丸山恵理子さん ► 薬局ホームページはこちら
家にこもりがちなコロナ禍だからこそ薬局が外出のきっかけになればと考え、いつでも気軽に立ち寄れる「道の駅」を参考にサービスを展開。毎週金曜日、朝からスタッフ総出で棚に野菜を並べて販売し、地域住民のふれあいの場となっています。
地域包括支援センターと連携し、月1回は、握力や野菜摂取量の測定などができる健康イベントも開催。健康相談の記録帳はお薬手帳と同じサイズにして、常に健康を意識してもらいやすいよう工夫しました。定期的な来局が服薬コンプライアンスの向上につながった事例は多く、中には10年間引きこもりだった方が受診する契機になったケースもありました。
代表薬局⑤ おがの薬局(埼玉県秩父郡)
「過疎地域の孤立を防ぐサロン活動『キッチンカー出動します!』」
発表者:町田一美さん ► 薬局ホームページはこちら
秩父郡小鹿野町では高齢化・過疎化が進み、移動手段も限られています。コロナ禍で孤立していく高齢患者さんを救いたいと考え、模造紙を囲んでスタッフで作戦会議した結果、キッチンカーというアイデアに至りました。
週1回(約2時間)、中古で購入した車両で山間部を中心に巡回し、社内の管理栄養士が監修したスムージーなどのメニューを100円で提供しています(麦茶は無料)。食べ物や飲み物が話題のきっかけとなるうえ、薬剤師も白衣でなくエプロンを着用し、より身近に感じてもらうことを重視。お薬相談や栄養相談につながっています。
「薬局では忙しそうで話しかけられなかった」という地域の方もいて、薬剤師が地域に出ることで拾える声は多いと実感。キッチンカーには水や電気を積んでいるので、災害時の活用も見込んでいます。
代表薬局⑥ 徳吉薬局さかえまち(鳥取県鳥取市)
「『病児保育室×薬局』モデルで地域課題を解決!」
発表者:徳吉雄三さん ► 薬局ホームページはこちら
薬局に訪れたお母さんから聞いたのは、「病児保育の定員が少なく予約が取れない」という困りごと。鳥取県は共働き世帯が多い一方、病児保育施設が少ないことを知りました。地域の医師や行政からも強く望む声があり、病児保育施設の開設に取り組むことを決意。
看護師の常駐配置が大きなハードルとなりましたが、内閣府の「地方分権改革・提案募集方式」を活用し、近隣の医療機関と連携することで問題をクリア。薬局運営による看護師非常駐の病児保育施設として全国初の、病児保育室とくよし「さかえまち」が2015年12月にオープンしました(利用定員18人、保育士8人)。
鳥取産の杉の木を使用した温かみのある室内で、管理栄養士が献立作成と調理を担当。医師・薬剤師との密な連携が特徴で、保護者には1日2回の写真付きメールを送付しています。2022年11月には、病児保育施設がなかった千代川西側エリアにも新施設をオープン。
3.第6回みんなで選ぶ薬局アワードの最優秀賞は?
熱のこもったプレゼンテーションが続き、会場は大盛り上がり。オンラインでも「愛ある発表ありがとう」「全員優勝!」などのコメントが寄せられました。厳正なる審査を経て受賞した3薬局をご紹介します。
【オーディエンス賞】
コミュニティーカフェを展開した、まいづるゆう薬局(京都府舞鶴市)
船戸さん「まさに感無量です。自分の成果ではなく、ずっと活動に取り組んできたスタッフの成果。協力いただいた地域の方のためにも、こうした場で評価いただけて本当にありがたいです」
【特別審査員賞】
過疎地域にキッチンカーで出動した、おがの薬局(埼玉県秩父郡)
町田さん「感動で泣きそうになっています! 過疎化が進むエリアでは困っている人も多いので、薬剤師として地域に出向いて動き続けたいです」
【最優秀賞】
重要な地域課題である病児保育に挑んだ、徳吉薬局さかえまち(鳥取県鳥取市)
徳吉さん「これをきっかけに、病児保育の取り組みが全国へ広がっていってほしいです。感謝の言葉を伝えたいのは、現場で奮闘している医師や看護師、薬剤師、そして保育士の皆さん。今後も地域のために力を尽くしていきます」
受賞薬局発表の瞬間。会場に緊張が走る。
オーディエンス賞を受賞したまいづるゆう薬局。会場からは温かい拍手が。
前列には代表6薬局の皆さん、後列には薬局支援協会代表理事の竹中孝行さん、特別審査員の皆さん。
野呂瀬崇彦さん(帝京大学薬学部薬学教育推進センター)、広瀬眞之介さん(株式会社遭遇設計 代表取締役/ゲーミフィケーションカオスマップ 編集委員)、流石学さん(株式会社メデュアクト 代表取締役/東京薬科大学薬学部生化学教室 客員准教授)、中平瑛子さん(薬学部5年/医療系学生団体Links-mil 代表)、折口慎一郎さん(株式会社じほう報道局/PHARMACY NEWSBREAK編集部 記者)、薬剤師ヤクヤクさん(TikTokフォロワー15万人)
最後のあいさつでは、薬局アワード特別顧問の新井田純坪さんから「同じような取り組みは難しいと感じても患者さんへの思いは同じであり、事情は違えど共有できるものがあるはず。薬局を自分が育てるのだ、という期待感を持ってほしい」という言葉が。薬剤師として大いに刺激を受けられる本イベントは、来年も同時期に開催予定です!
【過去の薬局アワード・イベントレポートはこちら】
► 薬局アワード・第5回の最優秀賞は?白熱のイベントをレポート!
► 【前回】第4回みんなで選ぶ薬局アワードONLINEのイベントレポート【初のオンライン開催】
► 「みんなで選ぶ薬局アワード」最優秀賞の薬局は?【イベントレポート】
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