薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.01.25 薬剤師のスキルアップ

認定実務実習指導薬剤師とは?資格取得の要件や更新方法を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師免許(薬剤師試験の受験資格)が4年制では取得できないため、6年制の薬学部の実習内容は4年制と比べて大きく変わりました。より多くの臨床経験を積むためのカリキュラムが組まれ、薬学生を指導する立場の薬剤師にも知識や経験が求められます。今回は、認定実務実習指導薬剤師制度について解説するとともに、資格を取得するメリットをお伝えします。

1.認定実務実習指導薬剤師とは?

認定実務実習指導薬剤師とは、6年制薬学教育制度下の薬学生に対して、薬剤師が医療現場で実務実習の指導をするための認定資格です。薬学生に薬剤師として現場で必要な知識や考え方、社会人としてのマナーなどを指導します。

 

認定実務実習指導薬剤師制度は、2022年度から一般社団法人薬学教育協議会が運営しています。2005年度から2009年度までは厚生労働省補助事業として実施され、2010年度から2021年度までは公益財団法人日本薬剤師研修センターの独自事業として実施されていました。

 

参照:認定実務実習指導薬剤師制度|日本薬剤師研修センター

2.認定実務実習指導薬剤師に求められる素養

薬学生にとって「薬剤師の印象」を左右する認定実務実習指導薬剤師は、ある程度の素養を持ち合わせる人材が求められます。認定の資格要件となっている「認定実務実習指導薬剤師となるための基本的な素養等」は以下の6項目です。

 

1.十分な実務経験を有し薬剤師としての本来の業務を日常的に行っていること。
2.薬剤師を志す学生に対する実習指導に情熱を持っていること。
3.常日頃から職能の向上に努めていること。
4.実習の成果について適正な評価ができること。
5.認定取得後も継続的かつ日常的に薬剤師実務に従事する見込みがあること。
6.実務実習生の受入期間中、恒常的に指導することができること。

 
参照:認定実務実習指導薬剤師認定制度実施要領|薬学教育協議会

 

認定実務実習指導薬剤師は、日頃から医療に従事しながら知識や経験を蓄積するとともに、薬学生が薬剤師として活躍できるように育てるという「情熱」が資格要件に含まれています。

 

実務実習を行う薬学生は、大なり小なり理想の薬剤師像を描いているものです。薬剤師が患者さんや医療に貢献している姿を思い描きながら、実習現場にやって来ることでしょう。

医療現場で実際に働く薬剤師を見て、自身も薬剤師として活躍したいと思うか、薬剤師としての将来に不安を感じるかは、認定実務実習指導薬剤師を含めた先輩薬剤師の働く姿勢が少なからず影響するでしょう。

 

医療現場で最初に薬学生の指導につく薬剤師は、薬剤師としての未来像を示すことにもなります。単なるスキルや経験だけではなく、薬剤師という仕事の魅力を伝えられる人材が求められているのではないでしょうか。

 
🔽 実務実習の指導におけるコミュニケーション術を解説した記事はこちら

3.認定実務実習指導薬剤師の認定要件

認定実務実習指導薬剤師になるには、講習会形式とワークショップ形式の2つの研修を受講しなければなりません。ここではそれぞれの研修について見ていきましょう。

 

3-1.講習会形式の研修の受講

新規で認定を取得する場合、講習会で行われる講座を以下の番号順に受講します。講座内容は以下の3つです。

 

講座①:薬剤師の理念
講座②:薬学教育モデル・コアカリキュラム及び薬学実務実習に関するガイドライン
講座③:学生の指導(法的問題)、学生の指導(薬局関係)及び学生の指導(病院関係)

 

講習会への参加・申し込みについて問い合わせる場合は、薬学教育協議会が作成する「認定実務実習指導薬剤師養成講習会」の開催予定一覧に記載されている問い合わせ先に直接連絡する必要があります。

 

参照:認定実務実習指導薬剤師養成研修(講習会/ワークショップ)|薬学教育協議会

 

3-2.ワークショップ形式の研修の修了

ワークショップ形式の研修会は、薬剤師会や病院薬剤師会などが開催地ごとに参加者の調整を行っています。

 

ワークショップへの参加・申し込みについて問い合わせるには、講習会形式の研修と同じく、一般社団法人薬学教育協議会が作成している「認定実務実習指導薬剤師養成ワークショップ」の開催予定一覧に記載されている問い合わせ先に連絡してください。

 

参照:認定実務実習指導薬剤師養成研修(講習会/ワークショップ)|薬学教育協議会

 

なお、2018年3月31日以前に受講した講習会の受講証およびワークショップの修了証は無効になっています。

 

また、2018年4月1日以降に受講した講習会の受講証およびワークショップの修了証の有効期限は、それぞれの受講日・修了日から6年間です。認定実務実習指導薬剤師の資格取得を目指す際は、有効期限についても注意する必要があります。

 

3-3.申請時点での勤務要件を満たしていること

上記2つの研修に加え、後述する認定申請の際に、病院または薬局において直近1年以上継続的に薬剤師実務に従事していることも認定要件です。勤務時間についても「1週間当たり3日以上かつ20時間以上」という指定があります。

 

また、産前・産後休暇や育児休暇、病気療養などで一時的に休業した場合、勤務実績としては認められない点にも注意しましょう。

 

参照:よくあるお問い合わせ(FAQ) ~認定実務実習指導薬剤師認定制度~|薬学教育協議会

4.認定実務実習指導薬剤師養成研修の受講資格

認定実務実習指導薬剤師養成研修では、薬剤師としての経験年数も一定水準をクリアする必要があります。ここでは認定実務実習指導薬剤師の受講資格を見てみましょう。

 

4-1.実務経験

認定実務実習指導薬剤師養成研修を受講するためには、薬剤師としての実務経験が5年以上、6年制薬学部卒の場合は3年以上であれば受講できます。

 

ただし、薬剤師実務経験が5年以上でなければ申請できません。受講と申請のタイミングが異なる場合は、講習会の受講証とワークショップの修了証の有効期限に注意しましょう。

 

4-2.勤務状況

受講する時点で、薬剤師実務経験が継続して3年以上あることに加え、同時点で病院または薬局に勤務していることも条件の1つです。

 

勤務時間数にも指定があり、1週間当たり3日以上かつ20時間以上の場合にかぎります。

 

4-3.勤務先と薬剤師に求める条件

認定実務実習指導薬剤師養成研修では、受講の必須条件ではありませんが「満たしていることが望ましいと考えられている条件」についても言及されています。

 

ここでは、勤務先となる病院・薬局への条件と、薬剤師個人に求められる条件について見ていきましょう。

 

4-3-1.病院

勤務先となる病院は、病棟薬剤業務実施加算の届け出を行っていることや、一般社団法人日本病院薬剤師会賠償責任保険(施設契約)またはこれと同等の賠償責任保険に加入していることが望ましいとされています。

 

加えて、薬剤管理指導業務を行い、院外処方箋の発行を推進していることも望まれています。

 

院外処方箋を発行することで、病院薬剤師は外来患者さんへの対応時間が短縮され、入院患者さんの薬剤管理に集中できます。薬学生は病院での業務を学ぶ時間が増え、実務実習を充実させることができるでしょう。

 

4-3-2.薬局

薬局は、地域保健、医療、福祉等に関する業務を積極的に行い、「健康サポート薬局」の基準と同等の体制を有していることが望まれています。薬局実習は薬剤師が地域医療に貢献する姿を見る絶好の機会です。そのため、薬局も地域に根付いた活動が望まれています。

 
🔽 健康サポート薬局について解説した記事はこちら

 

また、がん・高血圧症・糖尿病・心疾患・脳血管障害・精神神経疾患・免疫・アレルギー疾患・感染症に関する症例に触れられる機会があることも望ましい条件の1つです。加えて、病院と同様に薬剤師賠償責任保険などに加入していることも望まれています。

 

4-3-3.薬剤師

認定実務実習指導薬剤師の取得を目指す薬剤師は、公益財団法人日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師などの生涯学習システムに参加または認定を取得している薬剤師であることが望ましいとされています。必須の条件ではありませんが、事前に検討しておくとよいでしょう。

5.認定実務実習指導薬剤師の申請方法

認定実務実習指導薬剤師の申請にあたっては、認定申請審査料として5,500円を振込支払いします。新規申請に必要な書類は、以下の5点です。

 

1.薬剤師免許証
2.講習会の受講証
3.ワークショップの修了証
4.勤務証明書
5.認定申請審査料の振込明細

 

なお、申請は薬学教育協議会のWebサイトにある申請システムから行うため、上記の書類は事前にPDFや画像データの形式にしておくとスムーズに手続きできます。

 

新規認定申請のためには、ユーザー登録をしてから職歴や研修情報などを入力する必要があります。詳細は薬学教育協議会のWebサイトから確認しましょう。

 

参照:認定実務実習指導薬剤師〖新規〗認定申請手続き説明書|薬学教育協議会

6.認定実務実習指導薬剤師の更新方法

認定実務実習指導薬剤師は、通常6年間が有効期間となっています。認定期間中に実務実習生を指導した実績がある、所定の勤務要件を満たしている、更新講習を受講もしくは薬学教育協議会が認めたアドバンストワークショップを修了しているなど、条件を満たしている場合は更新手続きを行うことが可能です。

 

更新に必要な書類は以下の4点で、申請は新規と同じく薬学教育協議会のWebサイトにある申請システムから行います。認定申請審査料5,500円の振込支払いも必要です。

 

1.薬剤師免許証
2.以下のいずれかの書類
 ①更新講習会の受講証
 ②アドバンストワークショップの修了証
 ③日本薬剤師研修センターが実施していたeラーニング単位証明書
3.勤務証明書
4.認定申請審査料の振込明細

 

参照:認定実務実習指導薬剤師〖更新〗認定申請手続き説明書|薬学教育協議会

7.認定実務実習指導薬剤師になるメリット

認定実務実習指導薬剤師になるには、それなりの時間や経験が必要です。実際に資格を取得することで得られるものはあるのでしょうか。ここではメリットについて考えてみましょう。

 

7-1.知識の習得・再確認につながる

認定実務実習指導薬剤師として薬学生に薬剤師の業務を伝えるには、自身が培ってきた知識や経験を棚卸する作業が必要です。

 

その過程で、自身に不足している知識や記憶があいまいになっていた情報などが明らかになり、勉強する機会も増えるでしょう。教える立場になることは、自身を振り返るきっかけになり、自然と薬剤師としてのレベルアップにつながります

 
🔽 薬剤師の勉強方法について解説した記事はこちら

 

7-2.コミュニケーションスキルの向上

さまざまな薬学生と接することでコミュニケーションスキルの向上につながります。疑問に思ったことを質問できずにいる学生もいれば、物怖じせずなんでも質問できる学生もいて、性格もさまざまです。

 

個々の学生に合わせた指導を行い、性格によらず平等に薬剤師としての経験や知識を伝えるためには、指導薬剤師としてのコミュニケーションスキルが必要でしょう。

 

多くの学生と接するうちに、自然とコミュニケーションスキルが向上し、患者さんや医療従事者と話す時に相手の立場や考え方、性格などに合わせて接するスキルが身につきやすくなります

 
🔽 薬剤師がコミュニケーションスキルを向上させる方法を解説した記事はこちら

 

7-3.転職時のアピールポイントになる

認定実務実習指導薬剤師は、講習会の開催日程やワークショップの予約枠がかぎられていることもあり、受講が難しい資格です。そのため、認定実務実習指導薬剤師の資格を持つ薬剤師はとても貴重です。

 

加えて、前述した通り、薬学生を指導した経験は知識の習得や再確認、コミュニケーションスキルの向上につながり、薬剤師としてのスキルを裏付けすることにもなるでしょう。

 

実習生の受け入れを考えていたり、スキルの高い薬剤師を求めていたりする調剤薬局や病院にとって、魅力的な人材と言えます。

8.認定実務実習指導薬剤師はスキルアップにつながる

認定実務実習指導薬剤師になりさまざまな薬学生と触れ合うことで、コミュニケーションスキルが向上し、知識や経験の積み重ねることができます。

 

薬学生を指導する機会は、薬剤師人生のなかでもかぎられています。チャンスがあれば、認定実務実習指導薬剤師の取得にチャレンジして、薬剤師としてのスキル向上を目指しましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。