薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.12.19 薬剤師のスキルアップ

抗菌化学療法認定薬剤師とは?申請基準や試験問題・テキストについて解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

抗菌化学療法認定薬剤師は、抗菌薬や抗真菌薬、抗ウイルス薬による薬物治療についての知識や技能を習得していることを証明する認定資格です。また、類似したものに感染制御認定薬剤師がありますが、抗菌化学療法認定薬剤師とは目的や役割が少し異なります。本記事では、抗菌化学療法認定薬剤師の概要や感染制御認定薬剤師との違いを解説するとともに、主な仕事内容や新規・更新申請の方法、試験対策のためのテキストなどについてお伝えします。

1.抗菌化学療法認定薬剤師とは?

抗菌化学療法認定薬剤師とは、日本化学療法学会が実施する認定制度で、感染症の種類や病態に応じた抗菌薬の選択・使用方法についての知識とスキルを身に付けた、臨床現場で活躍できるスペシャリストの育成を目的としています。
 
2024年3月1日時点での認定者は1,897名で、日本化学療法学会のウェブサイトから認定者一覧が確認できます。
 
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法|公益社団法人日本化学療法学会
参照:各種制度認定者一覧|公益社団法人日本化学療法学会

 

1-1.感染制御認定薬剤師との違いは?

感染制御認定薬剤師とは、日本病院薬剤師会が実施する認定制度で、感染制御に関する知識や技術、実践能力を身につけることを目的としています。
 
患者さんが安心安全に治療を受けられるよう環境を整備するとともに、感染症治療にかかわる薬物療法が適切かつ安全に実施できるようサポートすることが、感染制御認定薬剤師の主な役割です。
 
抗菌化学療法認定薬剤師は抗菌化学療法についての知識や経験を証明する認定制度であるのに対し、感染制御認定薬剤師の取得にあたっては薬物治療だけでなく環境整備についての知識やスキルも求められる点などが主な違いといえます。

 
🔽 感染制御認定薬剤師について解説した記事はこちら

2.抗菌化学療法認定薬剤師の仕事内容

抗菌化学療法認定薬剤師の主な仕事内容としては、専門的な視点から抗菌薬や抗真菌薬、抗ウイルス薬の選択・使用について医療関係職種に助言をすることが挙げられます。
 
患者さんの腎機能・肝機能に合わせた薬剤や投与量などの提案、薬物血中濃度モニタリングなど、抗菌化学療法のスペシャリストとしての役割が求められます。
 
また、医科診療報酬の感染対策向上加算では、感染制御チーム(ICT)に専任の薬剤師を置くことが定められています。抗菌化学療法認定薬剤師は、ICTのメンバーとして院内の感染制御に携わることも重要な仕事といえるでしょう。
 
参照:令和4年度診療報酬改定の概要 個別改定事項Ⅰ(感染症対策)|厚生労働省
参照:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて|厚生労働省

3.抗菌化学療法認定薬剤師になるには

続いて、抗菌化学療法認定薬剤師になるための方法をお伝えします。

 

3-1.申請基準

抗菌化学療法認定薬剤師の申請をするためには、以下の要件を満たす必要があります。

 

資格・条件 ● 本邦における薬剤師免許
● 日本化学療法学会の正会員
● 薬剤師として優れた人格と抗菌化学療法の見識
証明書 所属する以下のいずれかの者から、薬剤師として抗菌化学療法に5年以上関わっていることを示す証明を得る
● 施設長
● 感染対策委員長
症例報告 医療機関において、以下の業務を通じて感染症患者の治療(処方設計支援を含む)に自ら参加した15例以上の症例報告ができる
● 薬剤管理指導
● TDM(治療薬物モニタリング)
● DI(医薬品情報) など
※新規申請時の症例一覧は15症例分を提出する
研修単位 日本化学療法学会の抗菌薬適正使用生涯教育セミナー・認定委員会が指定する研修プログラムなどで、指定の単位数を取得している

参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法|公益社団法人日本化学療法学会

 

3-2.申請に必要な研修単位

申請に必要な研修単位は、以下のセミナーやプログラムなどに参加し、60単位を取得する必要があります。

 

● 日本化学療法学会が主催するセミナー
● 認定委員会が主催もしくは指定するプログラム
● 学術集会 など

 

上記の中で、以下については参加が必須となっています。

 

1. 抗菌薬適正使用生涯教育セミナーまたはビデオセミナー・e-learning
2. 日本化学療法学会が主催する学術集会

 

1、2の両方に少なくとも1回は参加しなければなりません。
 
単位取得の対象となるセミナーやプログラムなどについて、1回あたりの単位数は以下のとおりです。

 

1.日本化学療法学会が主催する抗菌薬適正使用に関連したプログラム
区分 プログラム 単位
必須
※いずれかの出席で15単位
抗菌薬適正使用生涯教育セミナー
1日コース、半日コース
30単位または15単位
抗菌薬適正使用ビデオセミナー
もしくはe-learning
20単位または30単位
選択 認定委員会が主催するプログラム 10単位
認定委員会が指定するプログラム 10単位

 

2.学術集会参加
区分 プログラム 単位
必須 日本化学療法学会が主催する学術集会 5単位
選択 認定委員会が指定する関連学会の学術集会 2単位

 

3.日本化学療法学会以外が主催する抗菌薬適正使用に関連したプログラム
区分 プログラム 単位
選択 認定委員会が指定するプログラム 5単位
認定学術集会 2単位

 

参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定制度規則・施行細則|公益社団法人日本化学療法学会

 

3-3.申請方法

抗菌化学療法認定薬剤師の申請をする場合は、以下の書類を添えて日本化学療法学会事務局に申請をします。

 

書類 申請期間
1. 抗菌化学療法認定薬剤師認定申請書
2. 薬剤師免許のコピー(裏書のある場合は、裏書も含む。A4サイズに縮小したものを提出)
3. 規定の単位取得証明書(施行細則3参照)
4. 症例一覧15例分
5. 推薦状(施設長または日本化学療法学会評議員)
6. 抗菌化学療法に関わっていることの施設証明書
7. 申請料振り込み控えのコピー
毎年4月1日
~8月31日(必着)
※締め切り期日が土日の場合は締切日当日消印のものまで有効

参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法|公益社団法人日本化学療法学会

 

申請書や書類作成には、以下のような決まりがあります。

 

● 申請書の氏名欄に本人印を捺印する
● 申請書類・各種参加証コピーはA4サイズで向きをそろえて片面印刷する
● 学術集会の参加証明をネームカードで提出する場合、名前が写るようにネームカード全体をコピーする

 

日本化学療法学会のウェブサイトの「抗菌化学療法認定薬剤師制度 申請にあたっての注意事項」に詳しく記載されているため、申請前に確認しましょう。

 

3-4.試験問題・テキスト

試験問題の出題数は50題です。出題範囲は特に定められていませんが、抗菌化学療法に関する領域から広く出題するとされています。
 
ただし、日本化学療法学会のウェブサイトでは、日本化学療法学会が編集をしている書籍「抗菌化学療法認定薬剤師テキスト」や「抗菌薬TDM臨床実践ガイドライン」、抗菌化学療法認定薬剤師講習会の内容などを参考にするよう記載されています。試験対策のためにも講習会の参加に加え、指定の書籍を購入しておくとよいでしょう。
 
なお、抗菌化学療法認定薬剤師の試験は、申請締め切り後に「症例一覧」の書類審査が行われ、12月中旬に受験資格の有無が連絡されます。書類審査を通過した場合に試験を受験することができます。
 
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定薬剤師制度試験|公益社団法人日本化学療法学会
参照:書籍|公益社団法人日本化学療法学会

 

3-5.合格率と難易度

日本化学療法学会のウェブサイトでは、抗菌化学療法認定薬剤師の合格率や、難易度を測る目安となる試験問題などは公表されていません。
 
合否の判定は抗菌化学療法認定薬剤師認定委員会で行われ、受験者には2月下旬~3月上旬に合否通知が送られます。このとき、合格者には認定料(22,000円)の振り込みについて案内があり、認定料の入金が確認されたら、3月1日付の認定証が送付されます。
 
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定薬剤師制度試験|公益社団法人日本化学療法学会
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 認定制度規則・施行細則|公益社団法人日本化学療法学会

4.抗菌化学療法認定薬剤師の症例報告における注意点

症例報告には以下のような注意事項があります。

 

● 同一症例を複数の申請者が使用しない
● 院内の委員会報告、治験、調剤時の疑義解釈などは症例に含まれない

 

その他の注意事項について詳しく見ていきましょう。

 

4-1.症例報告の文字数と内容

以下について、抗菌化学療法に関わる薬剤師としての介入内容が分かるよう具体的に400字程度にまとめます。

 

● 患者さんの基礎疾患
● 病態
● 体重・年齢などの患者背景
● 投与方法
● 用法用量や腎機能の詳細
● どのように関与したか

 

上記について、介入した内容の箇所に必ずアンダーラインを入れることとされています。なお、以下のような症例報告の場合、書類審査で不合格となることがあります。

 

● 記載内容が乏しいもの
● 測定結果のみで介入状況が不明なもの
● 用法用量治療期間の記載がないもの
● 診断・薬剤選択の根拠・理由や変更後の経過の分かりにくいもの

 

上記とは別に、患者さんから学びとられた内容の考察を400字程度にまとめます。記載は単なる感想文ではなく、適宜文献やガイドラインを引用するなど、介入した内容の根拠をできるだけ示すこととされています。

 

4-2.表記の規定

症例報告に使用する表記には、以下のような規定があります。

 

● 検査値などは単位も記載
● 菌名は論文作成と同様に学名で記載
 ※ 要約・考察欄は初回がフルスペル、2回目以降は略記可
 ※ イタリック体表記・非イタリック体表記に注意すること
● 感染症治療薬の名称は日本化学療法学会の指定する略号を使用

 

4-3.症例内容と症例数の規定

症例報告の内容に合わせて症例数が規定されています。

 

内容 症例数
TDMによる投与設計に関与した症例 3例まで
処方変更など感染症治療へ介入した症例 12例以上

 

提出する症例数は合計15例です。TDMによる投与設計については3例までとされていますが、TDMが実施されていても主体が非TDM症例と読み取れるものは「感染症治療へ介入した症例」としてカウントできます。
 
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法|公益社団法人日本化学療法学会

5.抗菌化学療法認定薬剤師の更新方法

抗菌化学療法認定薬剤師の更新に必要な書類は、以下のとおりです。

 

書類 1. 抗菌化学療法認定薬剤師認定申請書
2. 規定の単位取得証明書(施行細則3参照
3. 更新申請料振込み控えのコピー
申請期限 毎年4月1日~12月20日(必着)
※締め切り期日が土日の場合は締切日当日消印のものまで有効

 

更新時は症例報告がありませんが、セミナーやプログラムなどに参加して単位を取得する必要があります。
 
参照:抗菌化学療法認定薬剤師制度 制度概要・申請方法|公益社団法人日本化学療法学会

6.抗菌化学療法認定薬剤師の取得を目指そう

抗菌化学療法認定薬剤師は、抗菌薬や抗真菌薬、抗ウイルス薬に関する知識や技能があることを証明する認定資格です。抗菌化学療法が適切に行えるよう薬剤師が介入することで、患者さんの治療効果の向上や薬剤耐性菌対策が期待されます。抗菌化学療法認定薬剤師の資格を取得し、臨床現場で活躍できる抗菌薬のスペシャリストを目指しましょう。

 
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。