専門薬剤師の資格取得を目指すなら、資格の種類や専門薬剤師の役割、取得する方法などを把握しておくことが大切です。専門薬剤師の資格にはさまざまな種類があり、自身の得意分野や興味のある分野を選択できるため、意欲的に専門領域のスキルアップを目指せるでしょう。本記事では、専門薬剤師の概要や役割、認定薬剤師との違いについて解説するとともに、種類一覧やメリット、資格を取得するための方法についてもお伝えします。
1.専門薬剤師とは?
専門薬剤師とは、以下のような知識やスキルなどを有することが認められた薬剤師のことです。
● 医療従事者と協働・連携して質の高い薬剤師業務を実践していること
● 専門領域において教育や研究活動を行っていること
また、上記のような活動をするためのコミュニケーション能力も求められるでしょう。
参照:6年制薬剤師の輩出を踏まえた薬剤師の生涯学習プログラムに関する研究 平成25年度 総括・分担研究報告書|厚生労働科学研究成果データベース
1-1.専門薬剤師と認定薬剤師の違い
認定薬剤師とは、特定の専門領域などについて、一定の知識やスキルを身に付けていることを証明する資格です。中には、学会発表や研究に取り組むことが要件となっているものもあります。
専門薬剤師は、資格によっても要件が異なるものの、専門領域についての高度な知識やスキルが求められるだけでなく、認定薬剤師や医療従事者への指導的な役割を担ったり、研究活動を積極的に行ったりすることが求められます。
また、症例報告や学術論文についての要件など、資格取得の要件が認定薬剤師と比較して厳しい傾向にあることから、求められる活動内容も異なるといえるでしょう。
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら
2.専門薬剤師の役割
専門薬剤師の役割のひとつに、自身の専門領域について医師と協働して薬物治療に参画することが挙げられます。例えば、副作用をモニタリングするために、バイタルサインを確認したり、臨床検査や薬物血中濃度測定のオーダーをしたりするなど、特定の医師の業務を代わって行うことが期待されています。さらに、副作用の重篤化回避などのために、処方提案や処方設計といった一歩踏み込んだ薬物治療への参画も求められます。
また、医師と協力して専門領域について研究を行うことも重要な役割でしょう。薬物治療がより安全・安心で有効なものになるよう取り組むことが期待されています。
参照:専門薬剤師の必要性と今後の発展 -医療の質の向上を支えるために-|日本学術会議 薬学委員会 専門薬剤師分科会

3.専門薬剤師の種類一覧
専門薬剤師の種類には、以下のようなものがあります。
認定組織 | 専門薬剤師等 |
---|---|
日本医療薬学会 | 薬物療法専門薬剤師 |
がん専門薬剤師 | |
医療薬学専門薬剤師 | |
地域薬学ケア専門薬剤師 | |
日本病院薬剤師会 | がん薬物療法専門薬剤師 |
感染制御専門薬剤師 | |
精神科専門薬剤師 | |
妊婦・授乳婦専門薬剤師 | |
HIV感染症専門薬剤師 | |
日本臨床腫瘍薬学会 | 外来がん治療専門薬剤師 |
日本腎臓病薬物療法学会 | 腎臓病薬物療法専門薬剤師 |
日本緩和医療薬学会 | 緩和医療専門薬剤師 |
日本臨床救急医学会 | 救急専門薬剤師 |
日本医薬品情報学会 | 医薬品情報専門薬剤師 |
日本女性医学学会 | 認定女性ヘルスケア専門薬剤師 |
日本禁煙学会 | 禁煙認定専門指導者 |
参照:国民のニーズに応える薬剤師の専門性のあり方に関する調査研究 資料1-1 主な領域別認定・専門薬剤師|厚生労働科学研究成果データベース
これらの専門薬剤師のうち、主な資格について解説します。
3-1.薬物療法専門薬剤師
薬物療法専門薬剤師とは、日本医療薬学会が認定する資格です。さまざまな薬物療法について、薬剤師としての高度な知識やスキル、臨床能力があり、多職種と協働して医療現場で活躍している薬剤師を認定します。
薬物療法専門薬剤師は、がんや精神科といった専門領域が決められておらず、幅広い領域の薬物治療の知見が求められるのが特徴です。幅広く知識を習得し、医療従事者と協働して薬物治療や研究活動をすることが期待されています。
参照:薬物療法専門薬剤師制度|日本医療薬学会
3-2.感染制御専門薬剤師
感染制御専門薬剤師とは、日本病院薬剤師会が認定する資格です。感染制御に関する高度な知識やスキル、実践能力があり、患者さんが安心・安全に薬物治療を受けられるよう貢献しているほか、感染制御領域に関する研究能力がある薬剤師を認定します。
感染制御専門薬剤師は、感染制御に必要な消毒薬や微生物、耐性菌などについての基礎知識を有していることが求められるため、仕事内容は患者さんの薬物治療に携わることだけではありません。院内や地域の衛生に関する管理やチェック、指導、周知活動などを行います。パンデミックなどが発生した場合には、中心となって感染拡大防止のための対策・対応をするのが役割です。
参照:感染制御 専門薬剤師・認定薬剤師|日本病院薬剤師会
🔽 感染制御認定薬剤師・感染制御専門薬剤師について解説した記事はこちら
3-3.精神科専門薬剤師
精神科専門薬剤師とは、日本病院薬剤師会が認定する資格です。精神科領域の薬物療法について、高度な知識やスキルがあり、精神疾患の患者さんの治療と社会復帰に貢献することに加え、精神科薬物療法の研究ができる薬剤師を認定します。
精神科専門薬剤師の仕事は、精神疾患の患者さんの薬物治療が適切に行われているかチェックしたり、副作用やアドヒアランスを確認したりすることです。また、医師への処方提案や看護師などの医療従事者への助言なども重要な役割です。
参照:精神科 専門薬剤師・認定薬剤師|日本病院薬剤師会
🔽 精神科薬物療法認定薬剤師・精神科専門薬剤師について解説した記事はこちら
3-4.がん専門薬剤師
がん専門薬剤師とは、日本医療薬学会が認定する資格です。がん領域の薬物療法について高度な知識やスキル、臨床経験があり、多職種と連携して薬物治療を実践するとともに、研究活動ができる薬剤師を認定します。
がん専門薬剤師は、医療現場で適切に薬物治療が行われているかをチェックしたり、患者さんに寄り添ってケアをしたりします。また、薬剤師や医療従事者への指導者としての役割も担います。
参照:がん専門薬剤師制度|日本医療薬学会
🔽 がん専門薬剤師について解説した記事はこちら
3-5.地域薬学ケア専門薬剤師
地域薬学ケア専門薬剤師とは、日本医療薬学会が認定する資格です。薬局薬剤師が取得できる専門薬剤師として、2020年1月に発足されました。地域医療や介護などの現場における薬学ケアに対応するための高度な知識や技能、臨床能力を備えている薬剤師を認定します。
また、地域薬学ケア専門薬剤師には副領域があり、2025年3月時点では「がん」の専門性を有する専門薬剤師も認定しています。副領域を標榜する場合は、がん専門薬剤師集中教育講座に1回以上参加するなどの要件を満たすことが必要です。
参照:地域薬学ケア専門薬剤師制度|日本医療薬学会
3-6.救急専門薬剤師
救急専門薬剤師とは、日本臨床救急医学会が認定する資格です。救急医療における薬物療法の高度な知識やスキル、研究能力、教育能力などを有する薬剤師を認定します。
救急専門薬剤師の主な仕事としては、救急医療における薬剤業務や災害現場での医療活動などが挙げられるでしょう。病院の救命救急センターや集中治療室などでは、患者さんの薬物治療について処方提案や処方監査、麻薬管理などを行います。災害時には、被災者のトリアージや、避難所・医療機関の医薬品・衛生管理などを行い、自衛隊や医療従事者と連携しながら業務に当たる重要な役割を担います。
参照:救急専門・認定薬剤師について|日本臨床救急医学会
🔽 救急認定薬剤師・救急専門薬剤師について解説した記事はこちら
4.専門薬剤師になるには?
専門薬剤師になるための要件は、資格によって異なります。しかし、専門薬剤師に求められる知識やスキル、活動実績などについては、おおむね共通しているところもあります。
例えば、実務経験や症例報告、学会発表、学術論文などの活動実績は、多くの専門薬剤師で求められています。加えて、団体が指定する研修会や講習会、勉強会などへの参加などが要件となっています。
また、下位資格が設けられている資格は、下位資格の取得が申請時の必須要件となっていることがほとんどでしょう。下位資格がない場合は、他団体の認定資格を要件としている場合もあり、専門薬剤師は段階的に経験や実績を積んだ薬剤師が目指す資格といえます。

5.専門薬剤師になるメリット
専門薬剤師は、継続的に自己研鑽をするだけでなく、薬物治療に対する課題を見つけ出し研究活動を行うことが求められます。そのため、忍耐力や継続力、向上心、探究心などが必要です。
専門薬剤師は簡単に取得できる資格ではありませんが、取得することで仕事にやりがいを感じたり、キャリアアップにつながったりします。ここでは、専門薬剤師になるメリットについてお伝えします。
5-1.キャリアの選択肢が広がる
専門薬剤師を取得する過程で、さまざまな経験をする機会が得られるでしょう。実務経験を積めるのはもちろん、学会や学術論文の発表なども行います。後輩薬剤師や他職種に対して教育・指導をする役割を担うこともあるでしょう。
このような経験を通じて、臨床現場で活躍するのか、研究職の道に進むのか、薬剤師などの医療従事者を育てる教育現場で働くのかといったキャリアの選択肢を広げることができます。
5-2.年収アップにつながる
専門薬剤師の資格取得により手当を設けている職場では、年収アップにつながります。手当のない職場であっても、専門性の高さから任される業務が増えるでしょう。
職場への貢献度が高くなることで、自身の評価も向上すれば、ボーナスや賞与への反映が期待できます。そのため、専門薬剤師の資格取得は年収アップにつながる可能性があるといえます。
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら
5-3.転職時のスキルの証明に役立つ
転職時には、自身のスキルを証明することが求められます。専門薬剤師は、薬剤師としてのスキルや知識、専門性を証明できる資格です。
取得難易度も高いため、転職志望先へのアピールとして役立つでしょう。
5-4.多職種や患者さんからの信用を得やすくなる
専門薬剤師は、高い専門性と最新の知識やスキルを身に付け、実務経験を積むことで取得できる資格です。そのため、資格を取得すれば、多職種や患者さんからのさまざまな相談や質問に対応することができるようになるでしょう。
深く広い知見を持つ頼りになる薬剤師として認識されることで、薬のエキスパートとしての信用を得やすくなるのもメリットといえます。

6.専門薬剤師の資格取得を目標にしよう
専門薬剤師の資格を取得するためには、多くの場合、認定薬剤師の取得が要件となります。認定薬剤師を取得していない場合は、興味のある分野や得意分野、需要が高まりそうな分野などを探してみてはいかがでしょうか。認定薬剤師を取得したら、その分野のエキスパートになれるよう自己研鑽を積み重ねていきましょう。

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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