薬剤師の働き方 公開日:2024.05.21 薬剤師の働き方

スポーツファーマシストとは?資格取得の流れや仕事内容を解説

文:篠原奨規(薬剤師)

スポーツファーマシストは近年、薬剤師から人気の認定資格のひとつです。公式サイトによると、2024年4月1日時点でスポーツファーマシストの認定者数は12,929名に上っており、認定者は年々増えています。特にスポーツが好きな方は、スポーツに関わることができる薬剤師資格として関心を持っているかもしれません。本記事では、スポーツファーマシストの資格を取得するまでの流れや仕事内容について解説し、仕事のやりがい、向いている人などについてもお伝えします。

1.スポーツファーマシストとは?

スポーツファーマシストとは、アンチ・ドーピング規則に関する医療知識を身につけた認定薬剤師のことです。ドーピングはスポーツ競技において重大なルール違反となるだけではなく、人の健康に悪影響を及ぼします。1960年のローマ・オリンピックにおいて、ドーピングによるアスリートの死亡事故が起きたことをきっかけに、ドーピングを取り締まる動きが世界的に活発化しました。
 
そうした背景から、日本でも2001年にアンチ・ドーピング活動のマネジメント行う機関として「日本アンチ・ドーピング機構(JADA)」が設立され、2009年にはJADAによりスポーツファーマシストの認定制度が開始されました。
 
参照:アンチ・ドーピングの歴史|日本アンチ・ドーピング機構

 
🔽 ドーピングの歴史について解説した記事はこちら

2.スポーツファーマシストになるには

スポーツファーマシストになるには、公認スポーツファーマシスト認定を受ける必要があります。認定を受けるために知っておきたい資格の受験要件や難易度、資格取得までの流れについて解説します。また、資格の更新方法についてもお伝えします。
 
参照:公認スポーツファーマシスト認定制度概要|JADA

 

2-1.資格の受験要件

認定取得に必要な基礎講習会を受講し、受験するには、薬剤師資格が必要です。年齢や薬剤師経験は問われないので、薬剤師資格を持っていればいつでも挑戦できます。
 
ただし、あくまで薬剤師資格を取得していることが前提であり、薬学生は資格要件を満たさないため注意が必要です。

 

2-2.資格の難易度

公式サイトでは、試験の合格率は公表されていませんが、受験にあたって薬剤師としての実務経験などは問われず、基礎講習会と実務講習の知識到達度確認として行われる試験であるため、高度な専門性が求められる認定試験などと比較すると、難易度はそれほど高くないと考えられます。
 
ドーピングに関する法律や制度について学ぶ必要がありますが、試験前に受講する基礎講習会と実務講習で学んだ内容をしっかり復習していれば問題なく合格できるでしょう。

 

2-3.資格を取得するまでの流れ

スポーツファーマシストの資格を取得するには、基礎講習会と実務講習を受講し、知識到達度確認試験に合格する必要があります。
 
スポーツファーマシストの新規募集は1年に1回行われ、毎年3月になると公式サイト上に募集要項が告知されます。4月~5月ごろには受講者の募集受付が始まります。受講料7,700円が必要なため、準備しておきましょう。
 
7月~8月ごろに基礎講習会を受講した後、11月~12月ごろに実務講習の申し込みを行い、12月~翌年1月ごろに受講します。
 
実務講習の受講後に知識到達度確認試験を受験し、合格したら認定料22,000円とともに認定申請を行います。認定申請が問題なく受理されれば、新年度となる4月1日にスポーツファーマシストとして認定されます。
 
参照:よくあるご質問|公認スポーツファーマシスト
参照:スポーツファーマシストとは|公認スポーツファーマシスト

 

2-4.資格の更新方法

資格を取得した後も、毎年実務講習を受講する必要があります。さらに、スポーツファーマシストの資格は4年おきの更新が必要です。
 
認定更新するためには、資格の有効期限内の4年目に基礎講習と実務講習を受講し、知識到達度確認試験に合格しなければなりません。

3.スポーツファーマシストの資格を取得するメリット

スポーツファーマシストの資格を取得すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 

3-1.ドーピングに関する知識を身につけられる

スポーツファーマシストの資格を取得するための過程で、アンチ・ドーピングに関する講習を受講するため、ドーピングに関連する薬学的知識や関連法規を学ぶことができます。
 
また、資格を取得した後も継続的に講習の受講や確認試験が必要となるため、最新の知識を身につけたり、スキルアップにつなげたりできるでしょう。

 

3-2.スポーツ選手が抱える悩みを解決できるようになる

ドーピング禁止物質は、一般的にイメージされる「男性ホルモン」や「筋肉増強剤」の摂取だけではなく、病院から処方される医薬品やドラッグストアで購入できる市販薬やサプリメントにも含まれている場合があります。
 
近年、スポーツ選手がドーピング禁止物質と知らずに医薬品を摂取していまい、アンチ・ドーピング規則違反となる「意図しないドーピング(うっかりドーピング)」が問題となっています。
 
スポーツファーマシストの資格を取得すれば、どの医薬品がドーピング禁止物質に該当するのか分からず困っているスポーツ選手に対して、適切な指導を行うことができます。
 
参照:意図しないドーピング(うっかりドーピング)を防止しよう 一般・選手向けページ|東京都薬剤師会

 

3-3.転職活動やキャリア面談で自己研鑽をしているアピールになる

薬剤師には、「漢方薬・生薬認定薬剤師」や「研修認定薬剤師」などさまざまな認定制度があります。認定薬剤師は、各分野の知識やスキルを身につけている専門性の高い薬剤師であることの証明になります。
 
転職活動やキャリア面談において、認定資格のひとつであるスポーツファーマシストを取得していることを伝えられると、薬剤師として人のために働き、自己研鑽していることをアピールできます。
 
その結果、より良い転職先を見つけられたり、自身の希望するキャリアに進むチャンスを手に入れられたりする可能性もあるでしょう。

 
🔽 薬剤師に役立つ資格一覧はこちら

4.スポーツファーマシストの仕事内容

スポーツファーマシストの仕事といえば、スポーツ選手からの問い合わせ対応をイメージしがちですが、他にもさまざまな業務や役割があります。スポーツファーマシストの実際の仕事内容について解説します。

 

4-1.スポーツ選手からの問い合わせ対応や競技団体への講習会の実施

意図しないドーピング(うっかりドーピング)を防ぐために、スポーツ選手からの個別相談に対応します。スポーツ選手がアンチ・ドーピング規則違反とならないように、薬の適正使用を支援するのがスポーツファーマシストの仕事です。処方されている医薬品が禁止物質に該当しないかを確認し、服用の可否を判断します。治療に不可欠な医薬品が禁止物質に該当する場合には、治療使用特例(TUE)を取得することで治療を続けられるため、手続きをしてもらえるよう案内する必要があります。
 
また、2023年度から国民スポーツ大会(国民体育大会)に出場する選手に対して、アンチ・ドーピング教育の受講が義務化されました。世界的な競技大会だけではなく、国内の大会でもアンチ・ドーピングへの意識が高まっていることから、スポーツファーマシストが競技団体向けに講習会を実施する機会も今後増えていくかもしれません。
 
参照:処方の前に確認を!患者さんがもし・・・アスリートだったら?|日本アンチ・ドーピング機構
参照:アンチ・ドーピング教育|日本スポーツ協会

 

4-2.教育現場でのアンチ・ドーピング活動

スポーツファーマシストは、学校教育におけるアンチ・ドーピング活動も重要な役割のひとつです。アンチ・ドーピングはスポーツ業界での活動と思われがちですが、近年では学校を対象とした教育プログラムも作成されています。
 
2013年度には、高等学校指導要領にアンチ・ドーピングの項目が明記されました。学生がスポーツにおけるフェアプレーについて理解を深めたり、社会や生き方に対する価値観を育てたりするために、スポーツファーマシストが教育現場においてアンチ・ドーピング活動を行うことが求められています。
 
参照:アンチ・ドーピング活動|北海道薬剤師会
参照:教育|日本アンチ・ドーピング機構

5.スポーツファーマシストのやりがい

スポーツファーマシストの仕事では、スポーツ選手が抱えるドーピングの懸念に対して適切なアドバイスを行い、最大限のパフォーマンスで成果をあげる手助けができることに、大きなやりがいを感じられることでしょう。
 
スポーツ選手はアンチ・ドーピング規則違反をしてしまうと、「競技成績の失効」や「大会への参加資格停止」といったペナルティが与えられます。ペナルティはスポーツ選手にとって競技を続ける上で大きな不利益となるため、意図しないドーピング(うっかりドーピング)は必ず避けたいものです。スポーツファーマシストの適切な支援によってうっかりドーピングを回避することは、スポーツ選手のキャリアを支えるためにも重要といえます。
 
また、講習会やアンチ・ドーピング活動を通じて地域貢献をすることがやりがいにつながる方もいるでしょう。

 
🔽 スポーツファーマシストのやりがいについてのインタビュー記事はこちら

6.スポーツファーマシストに向いている人

スポーツファーマシストは、主にスポーツ選手と関わる職業です。スポーツが好きで関心が高い方や、スポーツ選手をサポートしたい方、専門性を活かしてスポーツ業界に貢献したい方におすすめです。
 
また、スポーツ本来の楽しさや公正さを守るために、アンチ・ドーピングは重要な取り組みです。スポーツが好きな方ほど、アンチ・ドーピング活動を通じてスポーツ業界に貢献できることにやりがいを感じられるでしょう。
 
ただし、資格を維持・更新するためには、4年ごとに講習を受講し、知識をアップデートする必要があります。そのため自己研鑽を日々行い、継続的に学び成長する姿勢が求められます。

7.スポーツファーマシストの資格を取得し、スポーツ選手の役に立とう

スポーツファーマシストとは、アンチ・ドーピングに関する専門知識を身につけた認定薬剤師のことです。所定の講習を受講し、知識到達度確認試験に合格することで公認スポーツファーマシスト認定を受けられます。
 
スポーツファーマシストの仕事内容として、スポーツ選手への問い合わせ対応や教育現場でのアンチ・ドーピング活動があります。スポーツ選手にとって不利益となる意図しないドーピング(うっかりドーピング)を防ぐことは、競技生活を続けていくために重要なので、スポーツファーマシストとして大きなやりがいにつながります。
 
薬剤師としての専門性をスポーツ業界に活かせるため、スポーツが好きな方やスポーツ選手をサポートしたい方は、積極的に資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。

 
🔽 薬剤師の認定資格に関する記事はこちら




執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。