薬剤師の働き方 更新日:2024.02.07公開日:2024.02.06 薬剤師の働き方

零売薬局とは?処方せんなしで医薬品の販売ができる条件と、薬局の課題を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬局では処方せんなしで医療用医薬品を販売することが認められています。零売や分割販売と呼ばれ、運用上「やむを得ない場合」に限り、一部の医療用医薬品について一般の人への販売が認められている制度です。現在は、零売を中心とした薬局運営を行う「零売薬局」もあり、その運営方法についてさまざまな議論が行われてきました。今回は、零売薬局について詳しく解説するとともに、零売を行うメリットや零売薬局の現状、課題についてお伝えします。

1.処方せんなしで販売できる零売薬局とは?

零売薬局とは、患者さんに処方せんなしで医療用医薬品を販売する薬局のことです。医療用医薬品は「処方箋医薬品」と「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に分類され、零売薬局ではそのうち「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」を取り扱います。
 
厚生労働省が公表する資料によると、2020年7月時点で医療用医薬品は約20000品目あり、そのうち、約7000品目が「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に区分されます。
 
2023年2月22に厚生労働省が行った「医薬品の販売制度に関する検討会」では、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の販売について議論がされており、そこで使用された資料には、零売について以下のように示されています。

 

“「零売」とは(個々の顧客の求めに応じた)「分割販売」を意味する言葉であり、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品を処方に基づかず販売すること」を指す用語ではない”

 

零売を行うためには、さまざまなルールや注意点があり、処方せんなしで販売できる医薬品が必ず販売できるとは限りません。零売薬局では、患者さんが希望する薬をただ販売しているのではなく、ヒアリングを行い、市販薬で対応できる場合には市販薬の推奨を、医師の診断が必要と判断できる場合は受診の推奨を行います

1-1.なぜ薬局で医療用医薬品を処方せんなしで販売(零売)ができるのか?

医療用医薬品は、本来、医師の処方を受けて提供するものであり、零売が法的に認められているのか疑問に思う人もいるのではないでしょうか。

実は、零売の歴史は古く、主に薬局間で行う医薬品の分割販売のことを指していました。昔は、医薬品のパッケージが大包装のものしかなかったことから、薬局同士で医薬品を融通し合う零売が行われていたようです。現在でも、使用頻度の低い医薬品や在庫のない医薬品などについて、近隣の薬局間でやり取りを行うケースがあるのではないでしょうか。
 
一般の人向けに処方せんなしで医療用医薬品が販売されるようになった背景として考えられるのが、2005年(平成17年)3月に厚生労働省医薬食品局長が通知した処方せん医薬品の取り扱いについて」の内容です。この通知には「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」について処方せんに基づく交付を原則としていることに加え、以下の内容が記載されています。

 

「一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨を行った上で、次に掲げる事項を遵守すること」

 

この文言は、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」についてのみ記載されており、また一定条件下であれば広義において処方せんなしでの販売が認められるように解釈できます。
 
2014年(平成26年)の法改正により薬局医薬品の取り扱いが変更になりましたが、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」については大きな変更はありませんでした。そうした経緯から、薬局では「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」に限り、零売が認められると解釈されてきたのです。

しかし、2017年(平成29年)6月9日の国会答弁で、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」が「処方せんなしで、本来、処方せんがなければ買えない薬が買えます」という謳い文句で販売されていたり、インターネットで大々的に広告を出していたりするケースが取り上げられ、零売を行う薬局へ適切な指導を行う流れとなりました
 
(参考:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について
 
2022年(令和4年)8月5日には、厚生労働省より「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」が通知され、処方せんなしで医療用医薬品を販売する零売についてのルールや不適切な事例が明確化されています。
 
【関連ニュース】零売の不適切事例を整理~処方箋なし購入可とPR【厚労省】

 

1-2.処方せんなしで販売できる医療用医薬品の販売条件

処方せんなしで販売できる医療用医薬品は、処方せんが必要な医療用医薬品と同じように使用されることを前提として供給されています。例えば、医療用医薬品の添付文書には、医師、薬剤師など専門的な知識や技術を身に付けた医療従事者が、患者さんへ安全かつ効果的に薬物治療を提供するために必要な情報が記載されています。
 
また、同じ成分を使用した医療用医薬品と市販薬であっても、添付文書に記載されている内容が異なる場合もあります。医療用医薬品は、医療従事者の管理の下で扱われることを前提としているため、基本的に処方せんに基づいて交付することとされています。

ただし、「一般用医薬品の販売による対応を考慮したにもかかわらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合などにおいては、必要な受診勧奨等を行い販売することが可能」と、先にも紹介した資料「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」に示されており、ヒアリングや指導などを適切に行った上で薬剤師による対面販売をするのであれば、現時点では法的に問題がありません
 
また、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」を処方せんなしで販売する際には、以下の点について留意することとされています。

 

● 販売数量については、適正な使用のために必要と認められる数量に限ること。
● 必要に応じて、他の医薬品(一般用医薬品等)の使用を勧めること。
● 必要に応じて、医師または歯科医師の診断を受けることを勧めること(受診勧奨)。
● 販売した薬剤師の氏名、薬局の名称および電話番号その他連絡先を伝えること。
● 品名、数量、販売の日時等を書面に記載し、2年間保存すること。
● 購入した者の連絡先を書面に記載し、これを保存するよう努めること。


(参考:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省

 

薬局で零売を行う際は、受診の必要性を判断し、要指導医薬品または一般用医薬品での対応を検討したうえで、やむを得ないと判断されるケースが該当します。その際、販売した相手や担当した薬剤師などの情報を書面で記録・保存しておくよう求められています。

 
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1-3.処方せんなしで販売できる医療用医薬品と市販薬

ここで改めて、処方せんなしで販売できる医療用医薬品と市販薬の違いについて確認しましょう。
 
市販薬とは、要指導医薬品と一般用医薬品の総称で、OTC医薬品(over the counter)とも呼ばれています。市販薬の中には、医療用医薬品と同じ成分が含まれているものがありますが、添付文書の内容やパッケージなどは異なるものが使用されています。

添付文書やパッケージなどが医療用医薬品と市販薬で異なる理由として、使用を判断する人に違いがある点が挙げられます。医療用医薬品は、医師や薬剤師などの医療従事者が扱うことを前提に添付文書などが作成されているのに対し、市販薬は一般の人が自ら使用を判断しなければなりません。そのため、医薬品の知識がない人でも理解できるように説明書やパッケージを作成する必要があります。例えば、効能効果の表記については、以下のような違いがあります。

 

■医療用医薬品と市販薬の表記の違い
医療用医薬品 市販薬
効能・効果
医師の診断・治療による疾患名
【例】
▶胃潰瘍
▶十二指腸潰瘍
▶胃炎
一般の人が自ら判断できる症状
【例】
▶胃痛
▶胸やけ
▶もたれ
▶むかつき

用法用量や注意事項についても、同じ成分を使用した医療用医薬品と市販薬では、表記内容が異なっている点は大きな違いと言えるでしょう。
 
参考:医療用医薬品と一般用医薬品の比較について |厚生労働省

2.薬局で処方せんなしで医療用医薬品を販売(零売)するメリット

処方せんなしで医薬品を販売する零売は、「やむを得ない場合」に限り認められています。「やむを得ない場合」として、以下のようなものが考えられます。

 

● 病院へ受診ができない。
● 市販薬での対応が難しい。
● 数日服用を中止すると健康・治療上の問題が発生する。

 

上記のような状況の場合に限り、零売ができると言えるでしょう。
零売を行う状況として次のようなケースが考えられます。
 
「30日分処方されていた処方薬が切れてしまった。今日は日曜日で近隣の病院は休みのため薬はもらえないが、体調を考えるとすぐにでも服用したい」
 
年末年始やゴールデンウイークなどに起こりやすい状況かもしれません。あるいは、医療資源の少ないへき地や無医村などでも考えられるでしょう。こういったケースでは、最小限度の数量で零売を行うことが可能とされており、処方せんなしで医療用医薬品を販売できるメリットと言えます。
 
(参考:第1回医薬品の販売制度に関する検討会:議事録

3.処方せんなしで医薬品を販売できる零売薬局の現状

2022年時点で、医療機関が発行する処方せんを受け付けず、処方せんなしで医薬品を販売することを生業とする零売薬局は、全国に60店舗以上あるといわれています。ここでは、零売薬局の現状について見ていきましょう。

 

3-1.零売薬局で販売できない医薬品がある

零売薬局で対応できない薬として、以下のようなものがあります。

 

● 抗生物質
● 高血圧の薬
● 睡眠薬・向精神薬
● 脂質異常症の薬
● 糖尿病の薬


(参考:厚生労働省_医薬品販売制度検討委員会資料20230222ver2[零売協会]

 

処方せんなしで販売できる医療用医薬品には、市販薬としてドラックストアやインターネットで購入できるものがあるため、土日祝日に限らず入手できる可能性があります。また、ネット環境が整っていれば、オンライン診療やオンライン服薬指導を受けることもできるでしょう。そのため、上記のような医療用医薬品の零売ができないことを考えると、処方せんなしで医療用医薬品を販売するケースは、非常に少ないのではないでしょうか。

 
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3-2.零売薬局の現状を問題視する声も

零売薬局では、零売を行う前提となる「やむを得ない場合」について広義に解釈されている傾向があります。また、自社のホームページに医薬品等適正広告基準に抵触するような表現を使用しているケースも見られているようです。中には、適応外での使用を推進するような例もあるため、零売薬局の現状に問題視する声が上がっています。

零売を行うケースは少ないと考えられるにも関わらず、零売を生業としている薬局がある背景には、次のような様態があるといわれています。

 

● 日常的に医療用医薬品の販売を行っている。
● 「処方せんなしでお薬が買える」「病院に行かなくてもお薬が買える」「市販薬より効果が高い」「病院に行くより価格が安い」等の広告を行っている。
● ウェブサイトやSNSなどで具体的な製品写真や効能効果を掲示して宣伝を行っている事例や、「美肌セット(トラネキサム酸とビタミンC)」といったセット割引を提供している事例が見受けられる。
● 「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」の販売に特化し、処方せんに基づく調剤を行わない薬局がある。


(参考:処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について|厚生労働省

 

「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」を日常的に販売することは、医薬品の不適切な使用や乱用の助長につながる可能性があります。患者さんの健康と安全を守るためにも、零売をするうえで、「処方箋医薬品以外の医療用医薬品」を日常的に販売したり、誤解を生む表現を使ったりすることは避けなければなりません。
 
【関連ニュース】零売薬局の横行を問題視~「規制強化が必要」との声も

4.零売する際に薬局が抱える課題

ここでは、薬局が零売を行う上での課題について考えてみましょう。

 

4-1.医薬品副作用被害救済制度の補償対象と安全性についての懸念

薬の副作用は誰にでも起こる可能性は否めません。万全を期していても、副作用の発生を完全に防止することは難しいため、正しい方法で服用して発生した副作用に対しては、「医薬品副作用被害救済制度」の補償が受けられます。
 
入院を要するほどの健康被害や日常生活が著しく制限される障害が生じた場合、医療費や年金などの給付を受けられる公的な制度ですが、気になるのがその対象範囲です。
 
この制度では、薬局等で購入した医薬品も補償対象とされていますが、使用目的・方法が適正であったと認められない場合は救済の対象になりません(医薬品医療機器総合機構「医薬品副作用被害救済制度Q&A」より)。処方せんを介して購入した医薬品や一般用医薬品での副作用は補償対象であることがはっきりと記載されていますが、零売については明記されていないため補償対象にならない可能性があります。

また、零売は、医師の指示なしに薬剤師の判断で医療用医薬品を販売することになります。やむを得ない場合に必要最小限の数量を販売するとはいえ、問診や簡単な検査のみで医療用医薬品を販売するため、安全性についても懸念が残るでしょう。

 

4-2.利益につながりにくい

処方せんによる医療用医薬品の交付を行う際は、薬の種類や処方日数に関わらず調剤基本料や薬学管理料などの調剤報酬を得ることができるため、ある程度の収益を担保できるでしょう。
 
一方、零売専門の薬局は保険制度を利用しないため、調剤基本料などを得られないことから、相談料や卸価格との差額で売り上げを得なければなりません。また、薬価の高い医療用医薬品は零売よりも、保険制度を利用して購入した方が安価になりやすいため、販売頻度が低くなりがちです。人件費やシステム利用費などのコストを考えると、薬局としての利益につながりにくいこともあるでしょう。薬局の売り上げが確保できなければ、薬剤師の給料にも影響があるかもしれません。

 
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4-3.薬剤師の責任が大きく問われる

零売では、医師の診察を受けずに医療用医薬品を販売するため、通常の保険調剤のように医師が聞き取れなかったことを薬剤師が聞き取るというダブルチェックの機能がありません

また、ほとんどの調剤薬局は血液検査などの詳しい検査を行えないため、患者さんからの聞き取りと薬局内で実施可能な簡単な検査によって、薬剤師の責任の下、医療用医薬品を販売することになるでしょう。零売を行う際は、責任の重さを十分に理解しておく必要があります。

5.「零売」には課題も多い。今後の動向に注目しよう

現在、零売に関するさまざまな議論がされています。いずれは、零売が認められる「やむを得ない場合」について明確に提示されるかもしれません。零売を巡る今後の動向に注目しておきましょう


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。