薬剤師として海外で働きたいと考える方にとって、その方法や必要な資格、働き方の違いは大きな関心事でしょう。海外で働く方法としては、現地の薬剤師免許を取得するほか、日本の資格を生かせる制度を活用するなど、さまざまな選択肢があります。本記事では、薬剤師が海外で働くための具体的な方法や就職時・転職時に必要なもの、海外で働くメリット、日本と海外の薬剤師の違いについて解説します。

- 1. 薬剤師が海外で働くには?
- 1-1.現地の薬学教育課程を修了して薬剤師資格を取得する
- 1-2.日本の薬剤師免許を生かせる試験制度を利用する
- 1-3.JICAボランティア事業や国境なき医師団の活動に参加する
- 1-4.日本国内の企業に就職・転職して海外駐在員になる
- 2.薬剤師が海外で働くために必要なもの
- 2-1.就労ビザ
- 2-2.薬剤師免許
- 2-3.語学力
- 3.薬剤師が海外で働くメリット
- 3-1.薬剤師としてグローバルな知見が得られる
- 3-2.年収アップを実現できる可能性がある
- 3-3.語学やコミュニケーションのスキルを磨ける
- 3-4.キャリアアップにつながる経験を積める
- 4.日本と海外の薬剤師の違い
- 5.海外でのキャリアに挑戦して、薬剤師としての可能性を広げよう
1.薬剤師が海外で働くには?
薬剤師が海外で働く方法として、以下のようなものが挙げられます。
● 日本の薬剤師免許を生かせる試験制度を利用する
● JICAボランティア事業や国境なき医師団の活動に参加する
● 日本国内の企業に就職・転職して海外駐在員になる
それぞれの方法について、詳しく見ていきましょう。
1-1.現地の薬学教育課程を修了して薬剤師資格を取得する
海外で薬剤師として働くには、現地の薬学教育課程を修了し、国家試験などを経て薬剤師資格を取得する方法があります。
例えばアメリカでは、2年間の一般教育課程と大学院レベルの薬学博士課程(Pharm.D.プログラム)を修了した後、国家試験に合格することで薬剤師資格が与えられます。英国(イングランド)では、4年制の薬学修士課程(MPharm)を終えた後、1年間の実務実習と国家試験を経て取得する流れです。
医療制度や薬事制度は国によって異なり、薬剤師に求められる知識や役割にも違いがあります。そのため、教育内容や実習の形式も各国の制度に応じて設計されています。
参考:令和6年度薬剤師臨床研修の効果的な実施のための調査検討事業 報告書|厚生労働省
1-2.日本の薬剤師免許を生かせる試験制度を利用する
日本の薬剤師免許を持っている場合、現地の薬学部に改めて入学しなくても、資格取得を目指せる制度を設けている国があります。語学力や学歴審査など、厳しい要件を満たす必要はありますが、薬学課程を一から修了する必要がないため、時間や費用は抑えられる傾向にあります。
例えば、NABP(National Association of Boards of Pharmacy)が運営する「FPGEC(Foreign Pharmacy Graduate Examination Committee)」というアメリカの制度では、語学力試験「TOEFL iBT」と薬学の専門知識を問われる「FPGEE」に合格してFPGECの認定を受けた後、各州で定められた実習・試験などを経ることで薬剤師資格を取得できます。
参考:Foreign Pharmacy|NABP
1-3.JICAボランティア事業や国境なき医師団の活動に参加する
現地の薬剤師免許取得にこだわらず、国際協力の分野で自身の専門性を生かす道もあります。JICA海外協力隊や国境なき医師団(MSF)などの活動では、薬剤師としての知識や経験が、発展途上国や紛争地・災害地での医療支援に役立ちます。
JICA海外協力隊の薬剤師案件では、途上国の病院などで医薬品の管理体制を整備したり、現地のスタッフに医薬品の適正使用について指導したりといった役割を担います。また、国境なき医師団では、医療チームの一員として薬局業務全体を監督するだけでなく、医薬品の品質管理やデータ分析、時には現地省庁との交渉など、よりマネジメントに近い業務を担うこともあるでしょう。
これらの活動では、薬剤師としての実務経験や語学力が重視されます。医療インフラが整っていない環境で、異文化の人々と協力しながら課題を解決していく経験は、薬剤師としての視野を大きく広げてくれるはずです。
参考:要請情報概要|JICA海外協力隊
参考:薬剤師|国境なき医師団
1-4.日本国内の企業に就職・転職して海外駐在員になる
臨床現場から離れて、製薬企業などのビジネス領域で海外勤務の機会を得ることも、薬剤師が海外で働く方法のひとつです。グローバル展開している企業では、社員の育成カリキュラムの一環として海外研修制度を設けていることも珍しくありません。
ただし、現地の病院や薬局での臨床業務には携われず、オフィスワークが中心となるケースがあることは理解しておきましょう。
2.薬剤師が海外で働くために必要なもの
海外で薬剤師として働く場合、基本的には就労ビザと現地の薬剤師免許が必要になります。また、現地での業務に支障が出ないよう高度な語学力も求められるでしょう。ここからは、薬剤師が海外で働くために必要なものについてお伝えします。
2-1.就労ビザ
就労ビザとは、外国人がその国で働くために必要な在留資格のことです。ビザには観光用や留学用などさまざまな種類があり、報酬を得て働く場合は、就労を目的としたビザを取得しなければなりません。
取得条件は国や職種によってさまざまです。例えば、一定以上の報酬額や雇用先の要件が課されることもあり、あらかじめ就労先を決めておく必要がある国もあります。
また、ビザの発給までに数カ月かかるケースもあるため、余裕を持った準備が欠かせません。働きたい国が決まったら、大使館や領事館の公式サイトを確認して、早めに手続きを進めましょう。
2-2.薬剤師免許
海外の病院や薬局など、臨床現場で薬剤師として働く場合、日本の薬剤師免許だけでは業務を行えない国がほとんどです。そのため、原則として現地の薬剤師免許を取得する必要があります。
ただし、製薬企業の研究職や国際協力団体での活動など、臨床業務に直接関わらない職種では、薬剤師免許が不要な場合もあります。
2-3.語学力
海外で薬剤師として働くには、現地での業務に支障が出ないよう高度な語学力が必要です。例えば、患者さんから症状やアレルギー歴を正確に聞き取り、薬の効果や副作用を分かりやすく説明する力が求められます。また、医師や看護師など他の医療スタッフと円滑に連携するためにも、専門用語への理解は欠かせません。
さらに、現地の人が話す特有のアクセントや、文化的な背景の違いを理解した上でのコミュニケーション能力も、現場で信頼を得るために重要なスキルです。
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3.薬剤師が海外で働くメリット
海外で働くことは、薬剤師としてのスキルアップやキャリアアップにつながります。また、国や職種によっては年収アップを実現できる場合もあるでしょう。ここからは、薬剤師が海外で働くメリットを解説します。
3-1.薬剤師としてグローバルな知見が得られる
薬剤師が海外で働くメリットのひとつが、グローバルな知見が得られることです。日本ではまだ承認されていない医薬品に触れたり、その国ならではの薬剤師業務を経験したりする中で、国際的な医療基準や治療法を実践的に学べます。こうした経験は、薬剤師としてのスキルを高めるだけでなく、将来日本に帰国した際にも役立つ貴重な財産となるでしょう。
さらに、異なる文化や価値観の中で働くことによって、幅広い視野も養われます。多様な背景を持つ患者さんや医療スタッフと関わることで、物事をより広く、多角的に捉える力を身に付けられるでしょう。
3-2.年収アップを実現できる可能性がある
海外で働く場合、国や働き方によっては日本よりも高い収入を得られる可能性があります。例えばアメリカでは、近年の新卒薬剤師の平均年収は約10万ドルともいわれています。仮に1ドル150円で換算すると、約1,500万円となり、日本の平均を大きく上回る水準です。
高収入の背景には、アメリカ特有の医療制度や薬剤師の社会的な役割が関係しています。アメリカには日本のような国民皆保険制度がないため、薬局薬剤師は多くの人々にとって身近な医療の専門家です。地域住民からの信頼に加え、人口に対する薬剤師の数が比較的少ないことも、好待遇につながっています。
専門性が評価され、高収入を得られることがある点は、海外でキャリアを形成する魅力のひとつといえるでしょう。
参考:令和6年度薬剤師臨床研修の効果的な実施のための調査検討事業 報告書|厚生労働省
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3-3.語学やコミュニケーションのスキルを磨ける
海外での実務経験は、語学力とコミュニケーション能力を大きく伸ばす機会となります。勤務中や日常生活の中で常に現地の言語に触れるため、教科書だけでは身に付かない実践的な語学力が自然と培われるでしょう。専門用語の使い分けや、ネイティブが使う自然な表現などは、実際の現場でこそ学べるものです。
さらに、文化や価値観の違いを踏まえたやり取りを通じて、コミュニケーションスキルも磨かれます。自分の意図を正確に伝えるだけでなく、相手の立場や考え方をくみ取る力も求められるため、より丁寧で誤解を与えない表現の仕方も身に付くでしょう。
3-4.キャリアアップにつながる経験を積める
日本でキャリアを築く場合でも、海外で働き続ける場合でも、その後のキャリア形成において海外での実務経験は大きな強みになるはずです。
日本に帰国した場合には、海外で培った専門性や語学力がアピールポイントとなり、キャリアの幅を広げられます。例えば、外資系製薬企業や国際機関への転職において有利になる可能性があるほか、国内の医療機関でも、外国人患者さんの対応や国際部門の業務など、独自のスキルを生かせるポジションで活躍するチャンスが生まれるでしょう。
一方で、そのまま海外でキャリアを続ける場合は、特定の領域のスペシャリストを目指す道があります。海外では薬剤師の専門分野が細分化されていることがあり、病院でチーム医療に深く関わる専門薬剤師(がんや感染症など)としてスキルを磨くなど、より高度な専門性を持って働く選択肢もあるでしょう。
4.日本と海外の薬剤師の違い
日本では、薬剤師の主な業務は医師の処方箋に基づく調剤や、患者さんへの服薬指導です。一方、海外には、薬剤師がより幅広い領域で医療に携わる国もあります。
例えば英国には「独立型処方権」と呼ばれる制度があり、所定の研修を修了した薬剤師は、自ら診断を行い、治療方針を決めた上で処方箋を発行できます。軽度な症状に限定されるものの、一定の条件を満たせば薬剤師による処方が認められているのが特徴です。また、アメリカやカナダでは、薬剤師がインフルエンザなどの予防接種を行うことも可能です。
このように、海外では日本よりも薬剤師の職域が広く、診療や公衆衛生の分野においても重要な役割を果たしているケースが見られます。
参考:令和6年度薬剤師臨床研修の効果的な実施のための調査検討事業 報告書|厚生労働省
参考:Pharmacy First|NHS England
参考:カナダで薬剤師|日本薬学会
5. 海外でのキャリアに挑戦して、薬剤師としての可能性を広げよう
薬剤師が海外で働くには「現地の薬学教育課程を修了して薬剤師資格を取得する」「日本の薬剤師免許を生かせる試験制度を利用する」「国際協力の分野で活動する」「国内の企業に就職して海外駐在員になる」といった方法が挙げられます。海外で働くためには、就労ビザや現地の薬剤師免許、高度な語学力が必要です。
海外で働くことは、薬剤師としてのスキルアップやキャリアアップにつながり、国や働き方によっては年収アップも期待できます。さらに、語学力や実践的なコミュニケーション能力が磨かれ、日本での転職や、海外で専門薬剤師として働くキャリアにもつながるでしょう。
薬剤師としての可能性を広げたい方は、ぜひ一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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