薬剤師の将来はどうなる? 未来の薬剤師の姿とは。薬局、病院、企業での今後の薬剤師の働き方とは――。医薬品医療機器等法(薬機法)・薬剤師法の改正案が国会に提出されましたが、薬剤師の仕事には今後どんな影響があるでしょうか。浜松医科大学教授・附属病院薬剤部長であり、日本薬剤師会と日本病院薬剤師会では副会長を務めている川上純一先生を直撃しました。
■薬機法が変わると今後の薬剤師の働き方はどうなる?
►2016年度の診療報酬改定から変わった薬剤師の働き方
►薬剤師の働き方が変わるのは2040年が焦点に
■将来どうなる!? 今後薬剤師に必要となる相互連携
►医療機能が分化し、相互連携が求められる
薬機法が変わると今後の薬剤師の働き方はどうなる?
大きな変化を続ける医療界にあって、薬剤師はどのように自身のキャリアを構築していけばよいのでしょうか――。
浜松医科大学医学部附属病院薬学剤部の教授・薬剤部長であり、中央社会保険医療協議会をはじめ厚生労働省における各審議会等の委員として数々の政策にも携わっている川上純一先生に、お話を伺いました。
今回のテーマは“薬剤師を取り巻く時代の流れと、変わりゆく薬剤師の役割”です。
►2016年度の診療報酬改定から変わった薬剤師の働き方
――2018年4月には診療報酬および介護報酬の同時改定があり、2019年には薬機法と薬剤師法の改正が予定されます。今後、薬剤師を取り巻く環境はどうなっていくでしょうか。
2012年ごろまで、診療報酬改定の主眼は充実が求められる分野を適切に評価していく視点、すなわち「不足しているものを満たす」ことに置かれていました。救命救急などの急性期や小児科、産婦人科等を中心に医療崩壊の危機が叫ばれた時期でもあり、チーム医療の推進により医療の質・安全性の向上を図って成り立たせようとしたわけです。
2010年4月に医政局長通知が発出され、薬剤師にもプロトコルに基づき医師と共働して薬物治療を行うPBPM(※)の取り組みが推進されるなど、「多職種連携」や「対物から対人へ」の動きが強くなった時期でした。
こうした流れが変わったのは、2016年度の診療報酬改定からです。「地域包括ケアシステムの構築」が重点課題とされ、医療機能の分化・強化、連携を促す方向性が打ち出されました。
2018年度改定でも同じ視点に基づき、入院料の体系が再編され、各病院が地域で果たすべき役割が明確になってきました。
団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」解決に向けての舵取りは今後も必要で、2020年を超えても暫くは同じ流れが続くと考えられます。
※PBPM (Protocol Based Pharmacotherapy Management)
日本病院薬剤師会や日本医療薬学会が推奨するプロトコルに基づく薬物治療管理。
►薬剤師の働き方が変わるのは2040年が焦点に
さらにその先を考えると、団塊ジュニア世代が65歳前後となる2040年が焦点になります。1.5人の高齢者を1人の現役世代が支える人口構成となり、社会保障の財源をめぐるニーズが今以上に高まるでしょう。
それに対応すべく、ICT・ロボット・AIの実用化促進、働き方改革やタスクシフティング、健康寿命の延伸といったテーマが活発に議論されています。
医療費の適正化を図るため、ジェネリック医薬品やバイオシミラーの活用もますます推し進められるでしょう。将来にわたり国民皆保険制度を維持し、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革も求められるはずです。
将来どうなる!? 今後薬剤師に必要となる相互連携
――今後の薬剤師に求められる役割はどう変わりますか。
病院薬剤師であれば、高度急性期、急性期、回復期、慢性期など、自分が所属する医療機関や病棟が担う役割を前提として動きます。これが「医療機能の分化・強化」への対応です。そして、それぞれのステージの薬剤師が自らの機能をしっかりと果たした上で、医療機能を超えて連携を図ることが重要なのです。
►医療機能が分化し、相互連携が求められる
例えば、急性期病院の薬剤師であっても、「病院で治療を受けている間」だけを考えればいいわけではありません。
PFM(※)の考え方に基づき、患者さんが入院前にどのような薬物治療を受けていて、どのような薬剤を持参して継続あるいは中止するのか、本人だけでなく薬局からも情報収集し、入院中の処方を組み立てることが重要です。
また、退院後にも継続的な服薬が可能になるように指導したり、退院時の処方内容を調整して、それを薬局へ情報共有したりする必要もあるでしょう。
これらは、2018年度診療報酬改定で新設された「入院時支援加算」での要件となった業務や、「退院時薬剤情報管理指導料」の留意事項通知で明示されるようになった内容でもあります。
本質的に重要なのは「薬剤師が関わることで医療の質や安全性が高まる」こと。それを診療報酬上の評価で財政的にも後押しする仕組みが構築されつつあることは喜ばしいと思います。
※PFM (Patient Flow Management)
入院前の外来時から患者の状態を把握して入退院を支援する考え方や病院内の組織。
薬機法改正で薬局薬剤師の働き方・就職、転職はどう変わる?
――薬局の薬剤師についてはどうでしょうか。
2019年の薬機法改正では、薬局や薬局薬剤師にも焦点が当たっています。具体的には、入退院時の医療機関等との密接な情報連携や在宅医療等に一元的・継続的に対応できる薬局と、がん等の専門性が高い薬学管理に対応できる薬局など、患者が自身に適した薬局を選択しやすい環境整備としての薬局制度が導入されます。
病院薬剤師と同じように、自分の働いている薬局が地域でどのような機能を果たすべきか、自分がかかりつけ薬剤師としてどんな役割を担うのか、十分に理解した上で業務に当たる必要があります。就職や転職をする時には、「その薬局ならではの機能」をより意識する必要があるでしょう。
►継続的な服薬指導に対する記録の義務化も
薬剤の交付時に限らず、服用期間を通じて継続的に必要な服薬状況の把握や服薬指導を行い、調剤録にその内容を記すことも義務化されるかと思います。本来、「薬を渡した後」まで目を向けることは、薬剤師として当然やらなければならないことでした。
この部分にしっかり目を向けるとともに、対人業務の適切性を証明するためにも、薬剤師の指導内容を記録することは重要です。
病院薬剤師の病棟薬剤業務や薬剤管理指導には記録がありましたが、薬局薬剤師にも必要な業務として法制化されることの意義は大きいと思います。今後はICTも活用できるので、処方箋の検査値印字やカルテ閲覧だけでなく、薬局薬剤師の記録を医療機関側の医師や薬剤師が参照できることが当たり前の時代になることを期待しています。
薬剤師が生き残っていくうえで必要なものとは
――新時代への過渡期ともいえる今、薬剤師は自身のキャリア構築に対してどう向き合うべきでしょうか。
これまで話してきた医療政策や今後の流れをふまえて、これからの時代に薬剤師には何が求められるのか理解を深めてください。その上で自分は何をすべきか、どんな薬剤師になりたいのかを考えることが、病院薬剤師にとっても薬局薬剤師にとっても大切なことです。
►薬局でも病院でも必要なのは仕事への前向きな姿勢
ここまでは変化する社会環境への対応を中心に強調してきましたが、逆に、いつの時代でも変わらず必要とされることもあります。例えば、ビジネスパーソンとして学び続けることや、人と協調して目的を達成する能力など、いわば仕事への前向きな姿勢です。
ライセンスに基づいた高度な専門職に従事する人は、「自分の専門領域」という狭い世界でレベルアップすることだけにとらわれがちです。薬剤師であれば、調剤や病棟業務等を中心とする現場ニーズでのスキルアップだけを考えてしまうのです。
しかし、専門性さえ高めれば「理想的な薬剤師」になれるわけではありません。このことをよく理解して、時代の流れに応じて変えていかなければならないこと、逆に変わらず求められることを峻別し、自ら描いたキャリアの実現に向けて一歩一歩進んでほしいと思います。
次回は、薬剤師の学びとキャリア形成についてお話を伺います。
撮影/櫻井健司
川上純一(かわかみ・じゅんいち)