インタビュー 更新日:2023.05.30公開日:2022.03.29 インタビュー

薬剤師が在宅医療に介入するために必要なこととは?岐阜県高山市の連携事例

地域包括ケアシステムにおける在宅医療への注目が高まる昨今、チーム医療の一員として薬剤師に求められる役割も重要性を増してきました。今回は、岐阜県高山市で互いに、また地域の中で連携しながら在宅医療に取り組む須田病院の定岡先生と、ゆう薬局の中田先生によるクロストークを展開。薬剤師による在宅医療介入の現状や今後についてお話を伺いました。

 

本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医療情報おまとめ便サービス」特集2018年6月号P20-22「薬剤師が在宅医療に介入するために」を再構成したものです。

お話を聞いたのは……
 

(画像左)
合資会社 中田薬店 ゆう薬局
日本病院薬剤師会 精神科薬物療法認定薬剤師
中田 裕介氏(なかだ ゆうすけ)
・岐阜県薬剤師会理事

(画像右)
特定医療法人 生仁会 須田病院
薬剤部長・日本病院薬剤師会精神科専門薬剤師
定岡 邦夫氏(さだおか くにお)
・岐阜県病院薬剤師会理事
・岐阜県病院薬剤師会飛騨ブロック長

高齢化が進む広大な医療圏で、限られた人員の薬剤師たちにできること

Q.現在の高山市の病院・薬局の状況は?

定岡 高山市は市町村面積が全国で最も広く、東京都とほぼ同じくらいの面積です。それに対し人口は9万人を割り込み、5世帯に1世帯が65歳以上の高齢世帯となっており、全国平均と比べると10年から15年前倒しで高齢化が加速している状況です。
 
薬剤師不足が深刻化する状況で、私たち薬剤師はチーム医療の一員として、在宅医療を含め、広域に点在する患者さんをどうやってカバーするのか。そのために病院薬剤師と薬局薬剤師がどのように連携していくかが問われています。

問題解決に向け発想を転換し、全国に先駆けたモデルケースを目指す

Q.在宅医療に取り組むきっかけは何だったのでしょうか?

定岡 以前から在宅医療介入の必要性は感じていましたが、実現は難しいと思っていました。しかし、高山市は少子化も高齢化も加速しています。少子高齢化は全国的な問題ですから、そこは発想の転換で、私たちの取り組みこそ先進的なモデルケースとなり得ると考えるに至りました。これだけ医療資源が枯渇した広大の医療圏でも可能だということは、他の地域でもできると感じていただけるのではないかと思うんです。



 

定岡 それに病院としては退院促進や再入院の抑制をはかる必要もあります。そんな時、薬局薬剤師や他職種との連携がいかに重要であるか、医師の理解を深めていかなければ始まりません。そうした課題の解決に向けて在宅医療への取り組みが始まりました。

 

中田 お互いに意思疎通を深めながら在宅医療に介入し始めたのが2年ほど前です。当薬局は須田病院の近隣に位置することもあり、最近では薬剤部や医局にお邪魔して直接相談をしたり、訪問看護師やケアマネジャーともお互いに行き来する機会も増えてきました。須田病院で開催する病院研修会にも参加させていただいています。

 


 

中田 定岡先生を中心に物理的な距離だけでなく、医療従事者同士の距離も日常の中で少しずつ縮まってきていると感じています。一人で考えていて後回しにしてしまうようなことも、職場や立場が違うとお願いしやすい部分があるので、頼り頼られるという関係性も生まれてきました。以前は無理だと思っていた在宅ですが、お互いに背中を押し合うことで進められているのかなという気がします。

 

地域の病院と薬剤師会の交流を機に、在宅医療における薬薬連携の理想型を模索

Q.具体的にはどのような取り組みをはじめたのでしょうか?

定岡 まずは近隣の飛騨市、下呂市を含めた10施設の病院薬剤師会と地域の薬剤師会が集まり、連携体制を強化して共同歩調を目指す「薬局長会議」や「薬薬連携推進協議会」を立ち上げました。各病院の薬局長や次席、地域の薬剤師会の会長、副会長などキーパーソンとなる方々に参加していただいています。
 
会議の中で印象的なのは、薬局薬剤師の先生方は訪問薬剤管理指導を行うことに前向きではあるものの、やはりマンパワーの少ない中でランダムに医療機関から指示が出された場合に対応できるか不安視する声が多いことです。

 

中田 在宅のスタート時は週に1回、安定してきたら隔週で回るくらいの頻度ですが、続けていくには個々の努力だけでは困難です。いろいろな人を巻き込んで意見や協力を求めながら、病院に頼るべきところは頼る、というようにお互いの役割を精査し効率良く進めていく必要があります。それが、結果的に連携にもつながるのではないでしょうか。現状では、在宅医療介入への意思表示はしているものの、急な依頼に対応するのは難しいという薬局は多いですね。

 

定岡 そこで、病院薬剤師が医師や他職種との間をつなぐコーディネーターとして後方支援すれば円滑に回っていくのではないかと考えました。服薬に問題がある患者など訪問看護師が持っている情報を活用し、薬剤師の在宅医療介入が必要と思われる患者さんを私たちがリストアップします。



 

定岡 独居世帯や高齢世帯など優先順位の高い患者さんから医師に指示を出していただき効率的に薬局薬剤師に依頼をしていくシステムを地域に先駆けて始めることにしました。その際に患者さんの住居や保険の形態、既往歴、薬剤の管理方法、主訴など、会議で皆さんの意見も加味した必要情報をまとめ、提供をしています。

 

中田 私が在宅医療介入を進める上で懸念しているのは、薬局薬剤師の仕事が医療従事者の皆さんにきちんと理解されているのだろうかということです。調製など物の管理だけでなく、患者にまつわる情報管理も重要な仕事です。薬を届けて管理するだけが在宅における薬剤師の役割では無いことを理解してもらえるよう、働きかけていかないといけないとも思っています。

 

他職種ともお互いに補完し合い地域の医療資源を有効活用していく

Q.薬薬連携によって見えてきたこととはなんでしょうか?

定岡 薬薬連携だけでなく、他職種の医療従事者との相互理解も深める必要があると考え、「薬剤師の在宅医療介入を考える会」も発足しました。組織横断的に医師や病院薬剤師をはじめ、他職種や行政の方々とお互いの既存資源を把握し、有効活用することを考えていこうというものです。薬剤師が介入した場合の事例報告などを通じ定期的に膝をつき合わせた意見交換を行っています。

 

中田 その会議の場でもお話しさせていただいたのですが、実際の在宅の現場では、薬剤師が継続的に見守る必要がある患者さんと、キーパーソンとなる方に上手に引き継ぐことによりある程度の期間で終了できる患者さんと2つのパターンがあります。
 
特に後者については薬剤師が在宅医療の介入をしたことで問題が解決したのであれば、その後はご家族や看護師、ケアマネジャーなどに任せ、他の患者さんの在宅に移るというサイクルで進めていくと効率的になると思うんです。

 

定岡 患者さんの状態に応じてキーパーソンに引き継ぎができれば、多くの患者さんが合理的に医療資源を利用できます。すでに「薬剤師を効率的に活用できケアプランが立てやすくなる」というケアマネジャーや、「訪問看護師やケアマネジャーから訪問薬剤管理指導の依頼が増えた」という薬局薬剤師の声も出はじめています。



病院薬剤師から褥瘡ケアを学んでいる様子

 

また高山市の薬剤師会では薬局間の連携促進や、高山赤十字病院でも当院と同様の試みを模索していただいていますし、医師会や歯科医師会などでは在宅医療マップの作成も行っています。地域包括ケアにおいては、他職種の方々と相互補完的な関係性を構築していくことも重要です。それぞれが患者のニーズを最優先に取り組んでいけば、必然的に有機的な連携が可能になると思います。

 

中田 私は以前、須田病院を退院する褥瘡患者の褥瘡ケアを担当することになった際、退院調整会議に参加し、看護師やケアマネジャーとともに外用薬の実技指導の見学をさせてもらいました。研修会で学んでいても、いきなり本番でできるわけではないですから事前に準備できるよう申し出たのです。
 
褥瘡に限らず今後はこのようなケースが増えてくると思います。「病院との距離が近いところがいいよね」と言われることもありますが、距離に関係なく、まずやれることから取り組んでいくことが何より大事ではないでしょうか。

 

病院薬剤師の介在を起点とし、「オール薬剤師」による展開を

Q.今後のポイントや課題はありますか?

中田 私は薬局薬剤師と病院薬剤師には守備範囲の違いがあると考えています。例えば、薬局薬剤師は、入院が必要な重症患者さんを見ることは少ないため、そこでの経験値には差があります。また、精神科のように入退院を繰り返すケースが多い患者さんでは、入院中と退院後の薬剤師の違いにより対応が違ってくれば患者の混乱につながってしまいます。日頃から病院と薬局で患者情報を共有し、「オール薬剤師」として在宅を含めた地域医療を展開することが望ましいと考えています。

 

定岡 そんなシームレスな関係を構築し外来患者に目を向けていくためにも、当院では外来の処方箋チェックや薬歴管理などに注力しています。特に入院時は薬の整理をする良いタイミングです。ポリファーマシーの解決はもちろん、お薬手帳を有効活用するなど退院時の情報提供などの連携も積極的に行っています。
 
また、薬局薬剤師の先生方の要望に合わせ、病院として病名の開示も行うようにしました。薬剤師が病名も分からない状態で薬だけで患者さんをフォローしていくには限界があると判断したからです。



 

中田 病名の開示を求めるのは、自分の知識では対応できない時、患者さんの問診からでは推測しかねるような時などに、誤った服薬指導をしないためです。そんな時は「病名が分からなくて困った」と言っている場合ではないので、いきなりドクターに聞くのが困難であれば、病院薬剤師に聞いてみたら良いと思うのです。薬剤師の責任で誤った治療へ導くわけにはいきませんから。

 

定岡 そういった意味でも、私たち病院薬剤師がコーディネーターとして介在し、連携の形を整え、医師と薬局薬剤師の信頼関係を生むための最初のきっかけづくりをすることが重要な役割になります。大事なのはそこでお互いの強みを活かしながら連携していくことです。市内51の薬局が同じ方向を見据えて共同歩調をとり、意識やスキルをもっと底上げしていく必要があるでしょうね。



 

中田 当薬局のような病院近隣の薬局なら、専門分野に特化した経験値を積むこともできるため、それを地域全体の薬局で共有しレベルアップにつなげれば受け入れ体制を広げていけるはずです。
 
本来、病院近隣に開局するという事は、処方箋を優先応需できるということではなく、当該医療機関の目指す医薬分業を理想的な形で地域に提供するための中継地点であるべきではないかと考えています。
 
とはいえ現場では、こうした連携が進みはじめているものの、そもそも薬局薬剤師が訪問薬剤管理指導を行うことさえ知らない患者さんも多いですので、認知の向上は今後も課題になるところですね。

 

褥瘡ケアや患者の服や服薬情報など、薬剤師だからできる対応・連携の強化を

Q.薬剤師の在宅医療介入によりどのような成果が期待できますか?

定岡 褥瘡を例にしますと、治療困難と診断されてしまうような状態でも、薬剤師が介入することにより、外用薬の使い方次第で治すこともできるんです。他にも薬剤師の介入で治療や入院の期間が短縮され、医療経済効果に貢献しているというデータもありますので、岐阜県をはじめ世の中へもっと発信していく必要があると思います。



 

また、精神科特有の事例として、双極性障害の患者さんが躁状態となりドクターショッピングをしてしまうケースなどがあります。そんな時、薬局薬剤師から情報提供いただき介入していただいたため、外来で対応でき入院せずに済んだという事例がありました。
 
また精神科に再入院される方は、自分自身で服薬調整や中断されている例が8~9割に上るというデータもありますので、服薬支援という形で連携していければより良い成果が見込めるようになると思います。

 

中田 何より、薬剤師は残薬確認のためだけに在宅医療に介入するかのように誤解されることがないと良いなと思います。残薬を見るにしてもケアマネジャーと薬剤師の目線は違いますから、薬剤師の介入による成果の発信は必須ですね。
 
薬薬連携というのは手段であって目的ではありません。いろいろな形で自然発生的な連携が増えていくことを望んでいます。

 

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医療情報おまとめ便サービス」特集2018年6月号