地域フォーミュラリーで医薬品費減‐GE薬切替に加え、先発品も抑制
日本医薬総合研究所が試算
医薬品の使用指針「フォーミュラリー」を地域全体で幅広く導入することによって、単に先発品をジェネリック医薬品(GE薬)に切り替えるだけの場合に比べ、医薬品費削減効果は大きくなる――。日本医薬総合研究所の関こころ氏は25、26日に京都市内で開かれた日本GE薬・バイオシミラー学会学術大会のシンポジウムで、そんな試算結果を発表した。有効性や安全性のほか経済性も含めて同種同効薬を評価し、その薬剤選択基準を明示するフォーミュラリーは、GE薬への切り替え効果に加えて、GE薬が存在しない先発品の使用抑制にもつながるため、経済効果は高いという。
関氏
関氏は、2017年度に日本調剤の各薬局が応需した院外処方箋データの集計値をもとに、4薬効群でフォーミュラリーを導入した場合に医薬品費がどう変化するかを試算した。聖マリアンナ医科大学病院のフォーミュラリーに沿って先発品を同一成分のGE薬に変更したり、先発品を他成分のGE薬に変更したりした場合の医薬品費を算出。GE薬に切り替えるだけの場合に比べ、フォーミュラリー導入時の医薬品費削減額は2倍強に達することが明らかになった。
GE薬に切り替えるだけの場合、その医薬品費削減額は約34.6億円。一方、フォーミュラリー導入時の削減額は約81.6億円となった。日本調剤の院外処方箋応需シェアは数%。算出した削減額を数十倍乗じた金額が、フォーミュラリーを幅広く全国で導入した場合の推計値になる。
今回、導入効果を検討したのは▽プロトンポンプ阻害薬(PPI)経口薬▽ビスホスホネート▽HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)▽ACE阻害薬・アンジオテンシンII受容体拮抗薬――の4薬効群。このうち特にPPI経口薬での医薬品費削減効果が大きかった。
フォーミュラリーが示すPPI経口薬の第1選択薬はオメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾールの各GE薬。第2、第3選択薬には先発品が含まれているが、用量や対象患者は限定されている。
それに沿って先発品を各GE薬に変更し、さらに先発品のエソメプラゾールをランソプラゾールのGE薬に、ボノプラザンをラベプラゾールのGE薬に変更するなどした場合の医薬品費削減額は約48.7億円になった。先発品をGE薬に変更するだけでは削減額は約7.2億円しかないが、フォーミュラリー導入によって大きな削減効果を得られる試算結果になった。
関氏は「GE薬のない先発品の使用量が多い薬効群で、フォーミュラリー導入による医薬品費削減効果は大きくなる。既存の医薬品と類似した新薬の発売時にその必要性を検討し、フォーミュラリーを作成、更新することが医薬品費を増大させないためにも重要」と語った。
今後、地域でフォーミュラリーを導入する際の体制整備として関氏は、医師、歯科医師、薬剤師、保険者の代表などが参加する「地域薬事委員会」の設置を提示した。行政や地域住民をオブザーバーとして巻き込み、地域支援病院が中心になってエビデンスに基づき有効性、安全性、経済性を評価して医薬品の使用優先順位を決定。作成後の管理は薬局薬剤師が主体的に行うことを提案した。
このほか、シンポジウムに登壇した上田彩氏(聖マリアンナ医科大学病院薬剤部)は、入院患者を対象にフォーミュラリーを推進した結果、対象外である外来患者の処方にも「影響が及んでいる」と話した。
同院外来におけるPPI経口薬の処方割合を全国平均と比較したところ、フォーミュラリーで第1選択薬に設定しているランソプラゾールの処方割合は58.6%に達し、全国平均値の35.4%より高かった。全国平均では29.8%に達するエソメプラゾールの処方割合は同院では4.3%にとどまり、同様に全国平均では12.0%に達するボノプラザンの処方割合は1.0%だった。「基幹病院がフォーミュラリーを運用することで外来処方にも大きな影響がある。地域フォーミュラリーの推進につながる」と語った。
一方、安川孝志氏(厚生労働省医薬・生活衛生局総務課薬事企画官)は「地域フォーミュラリーの導入を考えるなら、その前に地域における薬局や医療機関、介護関係者などとの連携が必須。それがないとフォーミュラリーは機能しない。目の前の医療機関だけと連携していては意味がない」と強調。薬局間の連携推進も課題になると呼びかけた。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
日本医薬総合研究所の関こころ氏の試算によると、医薬品の使用指針「フォーミュラリー」を導入することで、単にGE薬に切り替えるだけの場合に比べ、約2倍強の医療費削減効果があることが明らかになりました。特に医薬費削減効果が大きかったのは『プロトンポンプ阻害薬(PPI)経口薬』でした。