高齢者高血圧に診療指針‐虚弱抑制へ降圧治療を推奨
日本老年医学会は、65歳以上の高齢者の生活機能を踏まえた血圧管理を目的とした「高齢者高血圧診療ガイドライン」の2017年度版をまとめ公表した。高齢者の降圧治療は、脳心血管予防による虚弱(フレイル)への移行を抑制する観点から推奨されるとし、降圧目標を原則65~74歳は140/90mmHg未満、75歳以上は150/90mmHg未満に設定する積極的な降圧を推奨。第一選択薬は若年者と同様に、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬と位置づけた。また、終末期の高齢者には降圧薬の中止も積極的に検討することを推奨した。
同学会は、高齢者の生活習慣病管理ガイドラインの作成を進めているところで、各ガイドラインは臨床的疑問を設定し、系統的レビューを行った推奨される診療ステップが記載されている。今回、高血圧編を「高齢者高血圧診療ガイドライン2017」として公表したもの。高齢者高血圧の診断では、血圧動揺性が大きく、白衣高血圧や仮面高血圧の頻度が高いことを考慮して行うとし、家庭血圧を含めた複数回の血圧測定で確認することを推奨した。降圧薬治療については、フレイルへの影響に関して、脳心血管疾患の予防を通じたフレイルへの移行や増悪を抑制する観点から強く推奨されるとした。
降圧目標については、65~74歳には140/90mmHg以上の血圧レベルを降圧薬の開始基準とし、管理目標を140/90mmHg未満にすることを推奨。75歳以上では、150/90mmHgを当初目標としつつ、忍容性があれば140/90mmHg未満を降圧目標とすることを推奨した。
また、身体能力が低下した患者や認知症の患者には目標を設定せずに個別判断するとし、介護施設入所者に対する降圧治療は、高度な身体機能低下を伴う場合、厳格な降圧療法が予後を悪化させる可能性がある一方で、比較的壮健な人では予後を改善させる可能性もあるため、個別に判断することを推奨した。
糖尿病、蛋白尿がある慢性腎臓病(CKD)、脳心血管病既往患者では、年齢の降圧目標より高い血圧値を降圧薬の開始基準とし、まず年齢の降圧目標を達成して忍容性があれば、過度に降圧しないよう注意しながら、より低い値を目指すとした。さらに終末期の高齢者の降圧療法は、予後改善を目的とした適応はないため、薬の中止も積極的に検討することを推奨した。
降圧治療の第一選択薬としては、心血管病予防の観点から若年者と同様にカルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬を強く推奨。心不全、頻脈、労作性狭心症、心筋梗塞後の高齢者高血圧患者に対しては、β遮断薬を第一選択薬として考慮するよう推奨した。
降圧薬の減量や中止の判断をめぐっては、高齢者高血圧患者で基準となる一律の血圧値は設定できないとしつつ、降圧によって臓器虚血症状や副作用が出た場合に降圧薬の減量や中止、変更を考慮するよう強く推奨した。多剤併用(ポリファーマシー)があるときの降圧治療については、降圧目標の達成が第一目標とし、併用療法で薬剤数の上限はないものの、一般論として5~6剤以上を目安として注意するよう促した。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
「高齢者高血圧診療ガイドライン」の2017年度版を日本老年医学会が発表しました。原則65~74歳は140/90mmHg未満など、年齢別の降圧目標値を設定。
高血圧の第一選択薬として、若年層へと同様、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬などを推奨。終末期の高齢者には薬の使用の中止も積極的に検討するよう推奨しています。
多剤併用(ポリファーマシー)の降圧治療では、降圧目標の達成が第一目標ですが、薬剤数の上限はないものの、一般論として5~6剤以上の場合を目安として注意するよう促しています。