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世界初の免疫増強剤開発へ~創薬研究所を新設

薬+読 編集部からのコメント

青森大学薬学部が設置し、本格的に活動をスタートした同大初の創薬講座「青森ねぶた健康研究所」に注目が集まっています。北海道大学から免疫学の研究者である瀬谷司氏を所長に招へいし、樹状細胞をターゲットとする免疫増強アジュバントの実用化を目指します。炎症反応の副作用がない次世代型アジュバントを「ARNAX」と名付けた瀬谷氏は「ARNAXをヒトに応用すれば、患者さんは苦しまずに生活の質を向上できるのではないか」と話しています。実用化へは巨額な費用がかかりますが、瀬谷氏は国内外の製薬企業へと支援を呼び掛けています。

青森大学薬学部は、免疫創薬を目的とした「青森ねぶた健康研究所」を設置し、本格的な活動をスタートさせた。北海道大学から免疫学の研究者である瀬谷司氏(写真)を所長に招へい。瀬谷氏らが取り組んできた樹状細胞をターゲットとする免疫増強アジュバントの実用化を目指す。抗癌剤「オプジーボ」の成功で癌免疫療法に注目が集まる中、炎症反応の副作用がない世界初の「次世代型アジュバント」を3年後メドに臨床試験へとつなげる計画で、免疫チェックポイント阻害剤、CAR-T療法に続く免疫療法を実現させたい考えだ。


同研究所は、日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」に採択された瀬谷氏の研究成果を実用化するため、青森大初の創薬講座として設置されたもの。瀬谷氏は医学部と薬学部で博士号を取得し、創薬を学んだ免疫学の研究者という異色の経歴を持つ。これまで一貫して免疫創薬に取り組み、アジュバントの研究を進めてきた。

 

ただ、癌免疫療法は、PD-1抗体のオプジーボが初めて医薬品として登場し、その生みの親である本庶佑氏がノーベル生理学・医学賞を受賞して一気に市民権を得たが、未だ成功例はアジュバントを含め数少ないのが現状。

 

免疫を増強するアジュバントも、激しい炎症反応によって免疫が誘導されるため、これまで副作用の強さが壁となって実用化が遅れていた。

 

こうした中で瀬谷氏は、抗原を提示する樹状細胞に着目。炎症反応を起こさずに樹状細胞を活性化し、癌抗原に特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を誘導できるアジュバントを開発した。この新規アジュバントを「ARNAX」と名付け、ARNAXをマウスに投与した動物実験で、炎症の原因になるサイトカインが出るか調べた結果、サイトカイン毒性は見られなかった。癌抗原に特異的なCTLが誘導されることも確認され、ヒトで副作用のない有効なアジュバントになる可能性が考えられた。

 

実際、マウスにARNAXを投与すると生存期間の延長が見られ、PD-1抗体のオプジーボを併用するとさらに生存期間が延長し、ARNAXとオプジーボの併用効果があることが分かった。

 

瀬谷氏は「ARNAXをヒトに応用すれば、患者さんは苦しまずに生活の質を向上できるのではないか」と話す。現在、AMEDの資金を活用し、GMP基準でのスケールアップ製造法の確立や大量合成法開発、非臨床試験でのPOC獲得に向けた取り組みを進めているところだ。

 

瀬谷氏は「これまでのアジュバントは長い時代にわたって炎症という課題があったが、ARNAXはそれを解決できるのではないかと考えている。世界の製薬企業との競争になるが、樹状細胞をターゲットに副作用を起こさず免疫を誘導する次世代のアジュバントとして、何とか治験までつなげたい」と意欲を語る。

 

ARNAXは、世界で初めて炎症を起こさない樹状細胞を標的としたアジュバントで、サイトカイン毒性がないため安全性が高いのが最大の特徴であり、PD-1抗体療法で寛解が難しい固形癌にも適用の可能性がある新しい免疫療法となる。

 

ただ、実用化に向かってのハードルは依然として高い。瀬谷氏は「新規化合物のため巨額の費用がかかる。国内や海外の製薬企業と話し合いを持ち、理解を得る努力をしているが、臨床試験の実施には資金調達が必要。本当にいいシーズを見極めてくれる企業が出てくることを期待している」と支援を呼びかける。

 

AMEDの資金を受け、非臨床試験でのPOC獲得を2~3年後をメドに目指すとしているが、瀬谷氏は「もっと組織的に進めていかなければいけない」と課題を指摘する。

 

その上で、「いま炎症を起こさず副作用のないアジュバントはARNAXだけであり、ARNAXが効く癌に放射線療法やPD-1抗体を併用して奏効率を上げることが重要だ。世界との競争で勝てるとすればそこであり、最初の治験が非常に大事になる」と話している。

 

 

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出典:薬事日報

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