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買収で振り返る今年の製薬業界[2]~アッヴィが収益多様化へ動く

薬+読 編集部からのコメント

さまざまな買収劇が業界を揺るがせた2019年、巨額買収案件として大きな話題となったのが米アッヴィ社がアイルランドのアラガン社を約630億ドル(約6兆7600億円)にて買収合意に至ったニュースです。アッヴィは超大型製品である自己免疫疾患治療薬「ヒュミラ」の特許切れ対策としてアラガンを買収しただけでなく、美容医療に強く、年間売上高約30億ドル超を誇るしわ取り薬「ボトックス」を扱う同社を取り込むことにより、美容医療を含めた多疾患領域に拡大していくというM&A戦略を提示しました。

米ブリストル・マイヤーズスクイブが米セルジーンを約8兆円で買収すると発表した半年後、もう一つの巨額買収案件がまとまった。米アッヴィが約630億ドル(約6兆7600億円)でアイルランドのアラガンを買収することに合意したのである。アッヴィは主力製品の自己免疫疾患治療薬「ヒュミラ」の特許切れを控える中、アラガンの買収で収益構造の多様化を狙った。両社の年間合算売上高では480億ドル(5兆1570億円)に達し、世界第4位に浮上。製薬業界の勢力図を塗り替える買収となった。

 

アッヴィは、2018年売上高が前年比15%増の327億ドルとIQVIAの企業別売上ランキング6位の業界大手だ。もともとは13年にアボットから分社化し、バイオ新薬に特化した製薬企業として誕生した経緯がある。

 

超大型製品であるヒュミラの特許切れ対策がアラガン買収の大きな目的である。売上全体の約6割超を占め、昨年は1剤で売上2兆円以上を稼ぎ出したが、23年に物質特許期間が満了する。今年は前年比で売上減となっており、大きな事業課題となっていた。

 

アラガンは約100カ国で事業を展開し、中枢神経系領域や美容医療、眼科、消化器系領域などをカバーし、売上規模では業界20位に位置している。過去にはファイザーが約20兆円で買収に合意するなど世界の製薬大手が標的にしていた企業の一つだった。

 

アッヴィは、アラガン買収で世界第4位の事業規模に加え、収益構造の多様化を実現する。アッヴィが重点領域とする免疫、中枢神経系、感染症、癌、ウイメンズヘルスの中で中枢神経系領域だけが重なり、事業領域を拡大した。

 

アラガンの最大の特色は美容医療。売上約30億ドル超の大型製品であるしわ取り薬「ボトックス」など、特徴的な製品を多く扱っており、世界でもリーディングカンパニーだ。製薬企業が未参入で潜在的な市場が眠っており、ウイメンズヘルスとの相乗効果や再生医療も適用できる可能性がある。アッヴィは製薬企業にとって新たな市場に参入できる機会を得た。

 

設立当初からヒュミラの特許切れを見据え、積極的にM&Aを仕掛けてきた。武田薬品が買収したアイルランド・シャイアーとは、14年に320億ポンドで買収に合意するも、米国外への本社移転が米政府の租税回避規制の対象となったことで破談となった。

 

それ以後は癌領域に強い企業の買収を進めた。15年3月には米ファーマサイクリックスを総額210億ドル(約2兆5382億円)、16年には癌に強い米ステムセントルクスを58億ドル(約6300億円)で買収。ファーマサイクリックスから獲得した血液癌治療薬「インブルビカ」はグローバルで大きく成長し、40億ドル超の売上高も視野に入れている。

 

癌領域の強化から始まり、美容医療を含めた多疾患領域に拡大していくM&A戦略は、事業の選択と集中を進め、領域強化型の買収を行う他社とは一線を画していると言えるだろう。

 

 

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出典:薬事日報

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