「リモート型」MR活動強化～製薬各社、基盤整備急ぐ

■コロナ禍でデジタル化拍車

新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、製薬各社は医師に対する医薬品情報提供手段として、電子メールなどを用いたリモート型の情報提供を強化している。対面での情報提供活動が制限される中、電話や電子メールなどのツールを状況に応じて活用し、営業パフォーマンスの低下を回避しているようだ。医療機関側からも抵抗感があったリモート型情報提供に対する理解が得られつつあり、各社はインフラ整備を通じた多様な情報提供手段の確立や、医師のニーズに応じてデジタルツールを活用できるMRの育成に乗り出している。

製薬各社は、これまでも電話や電子メール、ウェブ会議システムなどを用いたリモート型情報提供を実施していたが、新型コロナウイルス感染症の拡大で一気に加速している。IQVIAが4月第3週における医師への情報提供量を前年同期との比較で分析したところ、日本は対面型が63％減った一方で、リモート型が34％増加し、情報提供活動全体ではわずか2％減にとどめていた。

また、米国が23％減、フランスが51％減と世界的に活動が低下する中、日本が最も影響を受けていなかった。対面型とリモート型のシェアで見ると、昨年はリモート型が4割、対面型が6割の比率だったが、4月時点ではリモート型が全体の9割を占めていた。

アステラス製薬は今月、エムスリーが運営する医療従事者専門サイト上でMRとターゲット医師が直接情報のやり取りを行えるデジタルソリューション「myMR君」の導入を決めた。MR1700人の業務に同ソリューションを取り入れていく方針である。

「myMR君」では、過活動膀胱治療薬「ベタニス」や2型糖尿病治療薬「スーグラ」、骨粗鬆症治療薬「イベニティ」などの情報提供活動を対象としている。今後、他社と競争が激しく、MRのリソースを投入できない領域で活用し、MRの情報提供活動を補いたい考え。

日本イーライリリーは、過去10年間にわたって電子メールなどのデジタル手法を活用した情報提供を実施してきた。昨年は顧客全体の76％に対し、デジタル手法を用いた情報提供・収集活動を実施した経験がある。

4月には全てのMRが全国の医師にオンラインで情報提供可能な体制を構築したほか、リモート型情報提供に特化したMRも配置している。

武田薬品は、全社的にリモートワークを最優先に掲げ、対面でなくてもできる情報提供はデジタル手法を活用している。重点とする希少疾患領域では、一般的な疾患に比べ患者数が少なく全国に点在し、地域での患者密度が小さいため、対面型の情報提供では非効率だった。リモート型の情報提供により、全国の医師に情報提供が即時に行える体制の構築を目指す。

ファイザーは、対面での情報提供活動を完全自粛していることを利用し、MR教育を強化した。1日の業務時間を大きく三つに分け、▽製品知識や地域医療情報を理解するための自己学習▽医療従事者に対するメールでの情報提供▽営業所・支店のチーム単位でメンバー間での知識確認や医療機関向け勉強会での意見交換――を実施し、デジタルに対応したMRの底上げを図った。

中外製薬も医師の利用する情報入手ツールに応じた対応策を構築したほか、リモート面談によるビジネス研修を強化し、医療関係者へのスムーズな情報提供を図っている。

さらに、国内内資系大手は外部の医療系ポータルサイトを活用し、自社製品関連コンテンツに加え、コロナ禍で役立つ関連コンテンツの提供やウェブセミナーを開催した。

ただ、リモート型情報提供は、対面でのMR活動に比べて医師との信頼関係の構築に時間を要し、配置転換のタイミングによる関係の希薄化が想定されることなどが課題として指摘されている。

医療機関の状況、医師のニーズに応じて対面型とリモート型を使い分けていく必要性も挙げられており、製薬各社はこの数カ月間の取り組みから課題と成果を検証し、デジタルを活用した新たなMR業務を検討していく方向だ。

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