薬剤師会

【2021年 話題の焦点】需給調査で薬剤師の転換期へ~求められる需要生み出す努力

薬+読 編集部からのコメント

2018年12月末時点の薬剤師届出者数は約31万人。約30年前に比べ2倍以上に増えています。医薬分業の進展を背景に薬剤師の需要は伸び続けてきました。ところが足元では地方を中心に薬剤師不足が続いているものの、中長期的には供給過剰になるとの見込まれています。3月末までに薬剤師の需給調査の結果が提示される予定となっており、厚労省検討会で来年度以降、薬剤師の需給に関する議論が本格化します。議論の結果によっては、政府が薬学部の新設抑制や定員削減などに乗り出す可能性もあり、今年は将来の「薬剤師の需給バランス」を強く意識する年になりそうです。

今年は、将来の薬剤師の需給バランスを強く意識する年になりそうだ。足元では地方を中心に薬剤師不足が続いているが、中長期的には供給過剰になるとの見込みが強い。薬剤師の需給調査の結果が3月末までに示される予定で、厚生労働省の検討会で来年度以降、薬剤師の需給に関する議論が本格化する。議論の結果によっては、政府が薬学部の新設抑制や定員削減などに乗り出すかもしれない。実現すれば、薬剤師は転換期を迎えることになる。

 

将来を占う重要な節目に

医薬分業の進展を背景に薬剤師の需要は伸び続けてきた。2018年12月末時点の薬剤師届出者数は約31万人。右肩上がりで増え、薬剤師数は約30年前に比べ2倍以上になった。増加を牽引してきたのが、全体の6割を占める薬局薬剤師だ。今や約6万軒になった薬局数の増加と歩調を合わせて伸び続け、18万人以上に到達。約30年前に比べて4倍の人数になった。

 

薬剤師の需要の高まりや大学設置基準の緩和を受け、全国各地で薬学部の新設が相次いだ。02年までは46大学だった薬系大学数は、03年以降急増。今年も2大学が薬学部を新設する予定で、薬学部を設置する大学は計77大学に増える。

 

薬剤師不足の声を背景に増え続けてきた薬学部だが、ここにきて急増のひずみが顕著に現れている。入学定員を満たすことができない大学は多く、19年度の入学定員充足率は、私立大学の4割弱では90%以下である。受け皿を増やしても、薬学部を志望する学生が急に増えるわけではない。一部の大学では質の高い学生を集めづらくなっている。

 

大学の教育についていけず、留年する薬学生も多い。6年間で薬学部を卒業し、薬剤師国家試験に合格するストレート合格率は14年度の私立大学入学者で見ると約6割。その数値は大学によって異なり、3割以下の大学もある。

 

薬学部全体の定員増による受験者数の増加で、国試の合格者は以前に比べて多くなった。薬学部新設が増える前には毎年8000~9000人で推移していた合格者数は、近年は1万人前後に増えている。ただ、合格率が以前の8割前後から7割前後へと低下したため、定員の伸びほど合格者数は増えていない。

 

これが薬剤師供給の現状である。薬剤師の質は薬学部への入学時点でいかに質の高い学生を確保できるかによって左右される。「足元の薬剤師不足を解消するためにはある程度の人数が必要だが、だからといって輩出される薬剤師の質が低下することを見過ごすわけにはいかない」――。それが業界関係者に共通する本音だろう。

 

需要の伸び上回る供給

需要の展望はどうか。薬剤師数は増えたものの、需要はこれから先も高いまま維持されるのだろうか。

 

日本全体の人口は減少に転じているものの、高齢者人口は43年のピークまで増え続けると見られる。在宅医療へのシフトも進展する。院外処方箋発行率は70%台に達し、大きな伸びは見込みにくいものの、院外処方箋の枚数は今よりも増えるだろう。高まる医療ニーズは、薬剤師の需要を押し上げる方向に作用する。

 

厚労省の補助金で18年度に実施された「薬剤師の需給動向の予測および薬剤師の専門性確保に必要な研修内容等に関する研究」でも、薬剤師の需要は今後25年間右肩上がりで伸び続けるとの見通しが示された。

 

しかし、長期的に見ると需要の伸びを上回る勢いで薬剤師の供給が増加すると推計しており、研究班は「薬剤師総数の観点では今後、現在の水準以上に薬剤師養成が必要となる状況は考えにくい」と結論づけた。

 

現在、厚労省が詳しい需給調査を進めている。全国の薬剤師総数に加えて地域別の薬剤師数についても45年までの推計を明らかにする考え。投薬対象者数や処方箋枚数などをもとに、将来の医療需要等の変化を推計するだけでなく、対人業務の充実や機械化、ICTの活用による業務効率化等を踏まえて、薬剤師の需要見込みを算出する計画になっている。

 

需給調査の結果は、3月末までにまとまる見通しとなっている。それを受け、業界関係者らが構成員となって昨年7月に立ち上がった「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」で、薬剤師の需給や今後の薬剤師のあり方について本格的な議論が進められ、結論が示される予定だ。

 

検討会がどういう結論を出すかは不透明だが、薬学部入学定員総数等の適正化を求める見解が示された場合、文部科学省や政府がどう対応するかが次の焦点になる。医学部や歯学部の定員は、需給調査に基づく閣議決定等を踏まえて政府がコントロールしている。薬学部でも同様に政府が介入し、新設抑制や定員削減などの方針が示される可能性もある。

 

足元では薬剤師の不足や偏在はまだ解消していない。特に地方の病院で問題は深刻だ。関係者の1人は「ある程度の人数が揃っていれば、病院でもっと薬剤師が持つ力を発揮できるのに」と溜息をつく。入学定員の適正化を進める上では、こうした問題に配慮する必要がある。薬剤師の供給とは切り離した、独立した課題として偏在解消に取り組むことも求められるだろう。

 

薬剤師の需給バランスが適正かどうかは、今回の議論にとどまらず、これから先もずっと問われ続けることになる。供給に比べて需要は変動しやすい。調剤業務の機械化や非薬剤師の活用などが進めば、薬剤師の需要は思ったほど増えないかもしれない。

 

一方、チーム医療や医師のタスクシフト、対人業務、地域包括ケアシステムなどにしっかり対応していけば、薬剤師の需要を予想以上に高められるかもしれない。全ては組織的な戦略や現場の取り組み次第。必要なのは薬剤師の需要を生み出し続ける努力である。

 

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出典:薬事日報

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