停滞する電カルデータ活用~医療情報の基盤整備不十分
認定事業者、苦境に喘ぐ
電子カルテ情報を活用した医療分野の研究開発が停滞している。2018年に次世代医療基盤法が施行され、電子カルテの匿名加工情報を第三者に提供できる認定事業者が誕生したものの、法律施行から2年以上経って浮き彫りになったのは、医療情報の基盤整備が不十分でデータの2次利用が進まないという現実。苦境に喘ぐ認定事業者からは、国に次世代医療基盤法の改正が要望されているが、依然として問題解決の見通しは立っていない。
次世代医療基盤法は、医療分野の研究開発推進を目的に、匿名加工医療情報を作成する事業者の認定や匿名加工医療情報の取り扱いに関する規制を定めている。認定事業者は自身の情報の2次利用について拒否の意思を示せるオプトアウト形式で大量の健康・医療データを収集・匿名加工し、企業やアカデミアなど利活用事業者にデータ提供できる。
内閣府による厳しい認定審査が行われた結果、19年12月に千年カルテプロジェクトの認定事業者であるライフデータイニシアティブ(LDI)、昨年6月には日本医師会医療情報管理機構が取得し、二つの認定事業者が誕生した。
電子カルテのビッグデータを利活用できるようにするのが次世代医療基盤法の大きな目的だ。診療行為の実施に関する情報を含む診療報酬明細書(レセプト)は、診療行為を実施した結果となる情報を含んでいない。次世代医療基盤法の施行により、診療録となるカルテなどアウトカムを含む医療情報の利活用のための仕組みを整備することが求められている。
しかし、電子カルテデータの2次利用は進んでいない。ようやく昨年12月にLDI、NTTデータ、ファイザーが電子カルテ情報を含む医療ビッグデータを解析し、癌患者の臨床アウトカムを評価する方法論の研究を進めると発表したが、次世代医療基盤法施行後の足取りは重い。
認定事業者からは電子カルテベンダーからEHR(電子カルテの集積システム)に出されるデータの構造化が不十分で一部のデータの2次利用が難しいとの指摘が出ている。国内には電子カルテベンダーが多く乱立し、PDFなど構造のないデータ形式で提供され、中にはデータが出力されていないケースもあるという。電子カルテデータをデータセンターに集約できないという構造的問題に直面している。
LDIの吉原博幸代表理事は、千年カルテプロジェクトを運営している中で、「インフラを整備するにも1施設あたり300~400万円かかり、データの2次利用が進まないことで離脱する医療機関も出てきている。研究者からの利用料でビジネスモデルを構築したとしても先行投資だけでは限界がある」と事業の厳しさに危機感を募らせる。
その上で、次世代医療基盤法の改正を要望する。「全ての電子カルテ情報を構造化するよう義務づけ、電子カルテベンダー各社に補助金をつけてデータ出力インターフェースの標準装備をするよう国の関与が必要ではないか」と国主導によるインフラ整備を求めた。
認定事業者にデータを提供する医療機関からは医療情報を提供するメリットが理解されておらず、データ収集に苦しんでいる。吉原氏は「データを提供した医療機関には“2次利用協力加算金”のような形でインセンティブが出せないか」との考えを示した。
一方、認定事業者間での協力体制構築も急務となっている。日本医師会医療情報管理機構と連携し、認定を取得しているICIの工藤憲一社長は、「認定事業者が個々に活動をしていては国民に不利益になる恐れもある。もっと認定事業者同士が話し合い、連携していく場が必要」との考えを示す。
その上で、ビジネスモデルの観点から、「事業者がそれぞれ運営している効率が悪いところを共通化した方がいい部分もある」と指摘。次世代医療基盤法の下で認定事業者の意見を調整する第三者機関などの設置についても改めて検討すべきとした。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
次世代医療基盤法が施行(2018年)がされ、電子カルテの匿名加工情報を第三者に提供できる認定事業者が誕生したものの、施行から2年以上が過ぎた今も電子カルテ情報を活用した医療分野の研究開発が停滞しています。電子カルテのビッグデータを利活用できるようにするのが次世代医療基盤法の大きな目的でしたが、皮肉なことに医療情報の基盤整備が不十分でデータの2次利用が進まないというのが現状です。苦境に喘ぐ認定事業者からは、国に次世代医療基盤法の改正が要望されていますが、依然として問題解決の見通しは立っていません。