医療

「府県跨ぎ」で薬剤師出向~初の事例、大阪から高知へ 大阪赤十字病院薬剤部

薬+読 編集部からのコメント

高知県全域で病院薬剤師が不足していることを受け、大阪赤十字病院薬剤部の薬剤師が高知県立幡多けんみん病院に出向し、薬剤業務を支援する事業がスタートします。薬剤業務向上加算の要件を満たした都道府県を跨ぐ病院薬剤師の出向は全国初となります。

大阪赤十字病院薬剤部の薬剤師が高知県立幡多けんみん病院に出向し、薬剤業務を支援する事業が22日から始まる。来年10月末まで1年間、同院の薬剤師3人が4カ月ごとに交代しながら出向く計画で、成果や課題を踏まえて事業期間の更新も検討する。同事業は高知県の行政と連携しており、大阪赤十字病院は同日から薬剤業務向上加算の算定を開始する。高知県全域で病院薬剤師が不足しているため、県外から支援を受ける形になった。同加算の要件を満たした都道府県を跨ぐ病院薬剤師の出向は全国で初めて。他地域のモデルになりそうだ。

 

出向先の高知県立幡多けんみん病院は、県西南端に位置する幡多地域の急性期病院。救急患者や紹介患者の受け入れを担うなど地域の基幹病院として機能しているが、現在の薬剤師数は322床の病床に対して15人と少ない。最近3年間で毎年1人ずつ薬剤師が退職する一方、求人に応募はなく、全体の人数が減少している。産休や育休の取得も重なって、2022年度途中から病棟薬剤業務実施加算を算定できなくなるなど、マンパワー不足に陥っていた。

 

大阪赤十字病院から、まずは勤務歴12年目の中堅薬剤師が同院に4カ月間出向して基盤整備を支援する。その後、勤務歴5年目の若手薬剤師2人が4カ月ずつ担当して出向く計画だ。

 

高知県立幡多けんみん病院の三浦雅典薬剤科長は「初めてのことで不安もあるが、ワクワクもある。病棟業務の充実や質向上に力を貸してもらいたい。これまで十分ではなかった新人薬剤師の教育のあり方も一緒に考えていければ良い」と期待を語る。

 

都道府県を跨いで出向した場合でも薬剤業務向上加算の算定は可能で、大阪赤十字病院は同加算で年間約2200万円の収入を得られる見込みだが、主な目的は別にあるという。

 

大阪赤十字病院の小林政彦薬剤部長は「薬剤業務向上加算の算定はあくまで副次的なもの。偏在解消の連携強化や当院の薬剤師の学びの機会として、今回の出向を考えている。他病院に出向くことで視野を広げてほしい」と話す。

 

最初に出向する同院の薬剤師、吉良俊彦氏は「お互いの業務の良いところを出し合って支援したい。地域医療への関わり方を現場で見て、そこで得たものを当院に持ち帰りたい」と前を向く。

 

事業が始まったきっかけは3月にあった情報交換の機会だ。大阪赤十字病院の薬剤師と、高知県病院薬剤師会の筒井由佳会長(近森病院薬剤部長)が近況を話し合う中で、他院に出向して薬剤師の育成を図る機会を持ちたい大阪赤十字病院の意向と薬剤師不足に悩む高知県の課題が重なり、「お互いの思いが一致した」(筒井氏)

 

具体的な出向先として、地域の急性期病院を担う基幹病院で、出向する薬剤師の成長にもつながる高知県立幡多けんみん病院を選定した。

 

高知県の行政、薬剤師会、病院薬剤師会の担当者らが集まって薬剤師確保策を話し合う準備段階の会で構想が示され、検討を進めることで合意した。その後、2病院で話し合いを行い実現のメドが立ったとして、7日に初会合を開いた高知県薬剤師確保対策検討会で、ゴーサインが出た。

 

出向する薬剤師の籍は大阪赤十字病院に置いたままで、期間中の給与は高知県立幡多けんみん病院が支払う。期間中の住居として同院近くの官舎が提供される。

 

三浦氏は今後、薬剤師の出向受け入れで「業務の質が高まると期待している。それをアピールすることで薬剤師が就職先として来てくれるのではないか」と展望を語る。

 

高知県薬剤師確保対策検討会で、薬剤師出向の受け入れ事例を他にも増やす方針が固まった。出向受け入れによる基盤整備により、県内の基幹病院で薬剤師の確保を推進し、将来的には県内の基幹病院から地域の病院に薬剤師を出向できる体制を確立したい考えである。

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出典:薬事日報

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