口腔ケアで薬剤師職能拡大~広がる日本発の教育成果
日仏で国際共同研究も
日本発の薬剤師を対象とした口腔ケア教育プログラムの成果が国内外で広がりつつある。日本口腔ケア学会は薬剤師が口腔ケアの実技を学べるフィジカルアセスメント研修会を開催し、薬剤師のスキルアップを支援すると共に、薬学生にも教育の裾野を広げる。一方、抗癌剤治療における口腔ケアでは、東京薬科大学の研究グループがフランスの医師・薬剤師と共同で、薬剤師主導の口腔ケア教育プログラムを実装するための国際共同研究を開始した。口腔ケア教育体制の整備を通じて、薬剤師の新たな職能拡大につながる可能性がある。
6月に閣議決定された骨太方針では、「歯科医療機関・医歯薬連携などの多職種連携」が明記された。口腔ケアを通じて全身疾患を予防する重要性が高まる中、同学会は所属の歯科医師監修のもと2023年から薬剤師向けフィジカルアセスメント研修を実施。薬剤師は口腔内にペンライトを当て、疾患に関連するトラブルがないか観察する手技を学び、実践力を身につける。24年からは学会認定資格として「薬剤師4級」「同5級」を創設した。
日本では定期的な歯科受診率の低さが課題となっていたが、同学会薬剤師部会長である慶應義塾大学薬学部の山浦克典教授が研究代表者を務めた24年度の厚生労働科学研究では、薬剤師の介入により歯科受診率が増加する結果が得られた。
また、健康サポート薬局勤務の薬剤師を対象に口腔の健康サポートに特化した研修プログラムを実施したところ、受講者は自信を深め、薬局での口腔ケア提供意識が向上する効果も確認された。
山浦氏は「教育プログラムを全国に拡大したい」と意欲を示す。薬剤師が活用できるリーフレットも作成しており、「知識不足を補う教育体制は整備されてきている。薬剤に起因する口腔内トラブルは薬剤師が第一発見者となり、歯科医師や医師につないでほしい」と期待を語る。
健康サポートのみならず、病院薬剤師主導による口腔ケア教育プログラムを海外に展開する動きも出ている。東京薬科大薬学部医療衛生薬学科・医薬品安全管理学教室の吉田謙介講師と清海杏奈助教らのグループは、抗癌剤治療での口腔粘膜炎対策に注目し、フランスの薬剤師・医師と国際共同研究を開始した。
日本では病院薬剤師主導によるeラーニング形式の口腔ケア教育プログラムを実施し、口腔粘膜炎(グレード2以上)の発生率や発生までの期間が有意に改善する結果が国際共同コホート研究で示されるなど、有用性が実証されている。
フランスでは、薬剤師による癌患者への服薬指導は原則初回のみで、保険制度上選択できる薬剤師が限られるほか、医療従事者のマンパワー不足や口腔ケアの知識不足が課題となっている。日本での実績を基盤にフランスの医療制度や薬剤師の職能に即した教育プログラムを実装し、将来的には他国展開も視野にある。
吉田氏は「日本の口腔ケア教育プログラムは世界的に進んでいることを実感した。国際的に均てん化された口腔ケア教育プログラムの確立を推進したい」と意欲を示している。
出典:薬事日報


薬+読 編集部からのコメント
薬剤師を対象とした日本発の口腔ケア教育プログラムの成果が国内外で広がりつつあります。口腔ケア教育体制の整備を通じて、薬剤師の新たな職能拡大につながる可能性があります。