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6年制一本化で志願者増‐薬剤師資格持つ研究者育成

薬+読 編集部からのコメント

薬学生のみなさん、薬剤師国家試験お疲れ様でした!
大阪大学薬学部はこの春から6年制に一本化した新たな薬学教育を開始。これにより、志願者が増加しました。
2018年度以降の4年制入学者は、薬剤師国家試験を受験できなくなったため、新たな6年制教育は受験生に好意的に受け止められているようです。

土井薬学部長
土井薬学部長

 

大阪大学薬学部は今春の入学生から、4年制の「薬科学科」と6年制の「薬学科」を発展的に融合し、6年制に一本化した新たな薬学教育を開始する。薬剤師資格を持ち、医療のことを理解した上で薬学領域の研究を実践できる人材を育成するのが主な狙いだ。新設する3コースのうち、推薦入学者に限定した10年一貫コースには多数の志願者が応募。他の2コースを対象にした一般入試の志願者数も前年度に比べて約1割増加した。2018年度以降の4年制入学者は薬剤師国家試験を受験できなくなったこともあり、創薬研究者を目指しながら薬剤師の能力も修得できる新たな6年制教育体系は、受験生にも好意的に受け止められた格好だ。

 


阪大薬学部の定員は80人。前年度の入学生まで4年制の「薬科学科」は55人、6年制の「薬学科」は25人の定員配分だった。今春の入学生からは「薬科学科」を廃止し、全ての定員を6年制の「薬学科」に一本化する。新6年制では「先進研究」(15人)、「薬学研究」(50人)、「Pharm.D」(15人)の3コースを設定し、新たな方針で人材育成を進める。

 

「先進研究コース」は推薦入試合格者のみを対象としたもの。薬学部と大学院が一体となった10年一貫の新たな独自プログラムを設け、世界水準を凌ぐ力を持った創薬研究力を育成する。3年次から研究室で研究活動を開始し、4年次の終わりには学部を休学して大学院博士課程に飛び入学。修了後に学部5年次に復学する。研究活動を中断せずに約6年半行って研究力を磨く独自の教育体系だ。薬剤師国家試験の受験資格も得られる。

 

同コースの推薦入試志願者数は57人に達し、10人に合格を通知した。10年間に及ぶ長期教育体系を受験者がどう評価するのか、その見通しは不透明だったが、蓋を開けてみれば全国から幅広く応募があり、人気を集めたという。

 

他の2コースの定員65人は一般入試で募集。その志願者数が確定した。前年度は推薦入試枠を除く65人の一般入試枠に201人が応募。倍率は3.1倍となったが、19年度入試では約1割増の223人が応募し、倍率は3.4倍に高まった。

 

多くの国公立薬系大学の志願者数が前年度実績を下回る中、阪大では増加したことについて、土井健史薬学研究科長・薬学部長は、「1年目でどうなるのか全く読めなかったが、私たちのコンセプトを受け止めて志願してくれた受験生もかなりいたと思う。この教育体系に期待している学生が多いと感じた」と手応えを語る。

 

一般入試対象の2コースのうち「Pharm.Dコース」は従来の6年制教育をベースにしたもの。臨床力と研究力を併せ持ち、世界に通じる“研究型高度薬剤師”を育成するコースとして、その教育は既に13年度から開始している。

 

従来の教育体系から大きく変わったのが「薬学研究コース」の設置だ。4年制の上に2年間の大学院修士課程を積み上げ研究者を育成する体系ではなく、6年間の学部教育の中で、医療も分かる研究者を育成する新たな教育体系を設けた。

 

6年間の学部教育でも研究能力を十分育成できるよう同コースでは、事前学習やOSCE、CBTは5年次後半、実務実習は6年次前期に実施する。通常の6年制に比べて約1年遅らせて実施することで、事前学習や実務実習、就職活動によって研究が中断される課題を解消。研究室配属後の2年半、連続して研究に取り組めるようにした。薬剤師国家試験の受験資格も得られるため、薬剤師の資格と能力を併せ持つ研究者の育成につながる。

 

将来の研究者不足に危機感

新たな教育体系への変更に踏み切った背景には二つの理由がある。一つは、薬系大学がこれまで社会に送り出してきた薬剤師資格を有する研究者の数が、薬学教育6年制の開始に伴って大幅に減少したことだ。国公立薬系大学の多くは4年制教育を重視。私立大学が6年制教育の主体となっているが、6年制の上に位置する4年間の博士課程に進む学生は少ないため、以前に比べてその数は急減した。その結果、薬学研究の基盤を支える人材や、薬系大学の教員となる人材が将来不足することへの危機感があったという。

 

もう一つは創薬研究者に対するニーズの変化だ。辻川和丈教授は、「医療の進歩に伴い、病態を十分に知っていなければ創薬研究は難しくなり、臨床の理解が研究者の能力として重要になってきた」と強調する。

 

阪大だけの取り組みにとどまらず、他の薬系大学への波及効果も期待する。平田收正教授は、「阪大は国立大学の役割をしっかり考え、同じ6年制でも私立大学とは違う形の教育体系を構築できると考えた」と話す。全国の薬系大学が横並びの一律的な6年制教育を実施するのではなく、阪大の事例を参考に、6年制の研究者育成を強化したり、それぞれ特徴的な独自の教育体系を構築したりするようになってほしいという。

 

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出典:薬事日報

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