PBPMで抗菌薬適正使用‐中小病院の人員不足カバー
看護師は業務拡大に期待
抗菌薬の適正使用を推進するため、医師と薬剤師を中心に介入する抗菌薬適正使用支援チーム(AST)を機能させる病院が増えているが、多くの市中病院では感染症専門医が不在で、スタッフの人員は限られている。7日に都内で開かれた日本化学療法学会総会では、こうした市中病院で実践しているASTの活動を議論した。薬剤師数が少ない病院においてプロトコルに基づくPBPMの実施が有効だった事例が報告されたほか、感染症看護専門看護師からは「(医政局長通知に示された)特定行為の範囲を広げる活動があっていいのではないか」とさらなる業務拡大に期待感が示された。
前東北労災病院薬剤部の中居肇氏は、地方の中小病院では感染症専門医が少なく、薬剤師も他の業務と感染対策活動を兼務しており、抗菌化学療法認定薬剤師の活動も週に1~2時間程度にとどまっている現状を紹介。こうした中、カルバペネム系抗菌薬のPK-PD理論に基づく適正使用について、院内感染対策委員会主催の勉強会で浸透させたり、パソコンを用いリアルタイムに投与設計を主治医の目の前で行うことで実践した活動を提示。さらに、PK-PD理論を推奨するため、プロトコルに基づくPBPMを実施し、感染症治療の標準化に取り組んだ活動を報告した。
具体的には、抗MRSA薬と血液培養陽性患者に関するプロトコルを作成し、それに基づき初期投与設計や抗MRSA薬のTDM測定、採血ポイントの設計を実施し、化学療法を開始。TDMの結果から再投与設計を行うなどの手順を決めて実践した。中居氏は「PBPMは感染症治療の流れを標準化し、薬剤師の専門能力を医師や他の専門職と協働しながら最大限活用でき、耐性菌抑制など期待できる」と成果を報告した。
一方、東北公済病院感染対策室で「感染症看護専門看護師」として活動する富樫ふみ氏は、専門看護師の立場から薬剤師に対する期待と要望を述べた。富樫氏は、感染症専門医が不在の市中病院で感染対策のチーム活動を行ってきた経験を踏まえ、「抗菌薬自体がせん妄や脳疾患に関連する可能性が高い」と指摘。それだけに適切な抗菌薬使用と患者観察が大切とし、「他の薬を提案してもらえるとありがたい」と求めた。また、看護師と感染対策チームの薬剤師の連携が重要となった症例を示した上で、看護師の抗菌薬に対する知識不足を指摘。「機序に関する知識が乏しく、適切な服薬管理や指導につながっていない」とし、看護師に対する教育を要望した。
さらに、新たに始まった特定看護師制度を紹介。「海外では特定行為の多くが薬剤師の役割になっていることが多い」と指摘。薬剤師に薬剤投与に関する部分で協力を求めつつ、「看護師のフィジカルアセスメント力を活用し、ベッドサイドで患者の変化を感じ取ってほしい」と要望する一方、チーム医療の推進に関する医政局長通知で示された薬剤師に期待される業務を挙げ、「薬剤師もPBPMに基づく特定行為ができる。もっと範囲を広げる活動があっていいのではないか」と、さらなる積極的な業務拡大に期待感を示した。
討論では、まだ抗菌化学療法認定薬剤師、感染制御認定・専門薬剤師の数が少なく、「病院全体の薬剤師が感染症の知識をある程度向上させなければならない」「自ら何ができるか自覚してもらうことが大事」などの声が出て、感染症の知識に関する課題を指摘する意見も上がった。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
2017年4月7日、都内にて日本化学療法学会総会が開催されました。市中病院で実践している抗菌薬適正使用支援チーム(AST)の活動について議論され、地方の中小病院での具体的な取り組み例なども報告されたということです。