”漢方”に強くなる! まるわかり中医学 更新日:2024.01.16公開日:2017.06.29 ”漢方”に強くなる! まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第23回 五行学説とは(木火土金水の特性)

「世界は5つの要素(木・火・土・金・水)で成り立っている」 by古代人

古代中国の人々は、飲食・料理・農耕・武器や道具の加工など日々の生活・生産活動のなかで、「木・火・土・金・水(もく・か・ど・こん・すい)の5つの要素が、欠かすことができない基本物質だ!」と気がつきました。これを「五材」といい、五行学説のそもそもの始まりになります。

その後、「五材」を基に、「五行説」がつくられました。五行とは、この「木・火・土・金・水」の5つの物質関係のことをいい、「五行学説」では万物は木・火・土・金・水の運動と変化によって生成されていると考えます。

5つの基本物質の間には「生み出す関係=相生(そうせい)」「破壊・抑制する関係=相剋(そうこく)」があり、古代中国の哲学者たちは、この2つの関係性によって、世界のあらゆるもののバランスが保たれていると理論を発展させていきました。(「相生と相剋」に関しては、次回以降お話しします)

五行の特性

古代中国の「木火土金水」についての素朴な認識は、例えば「木」は「木そのもの」でなく、「上へ外へ向かって伸びやかでしなやかな物事や様子」といったように、しだいに抽象化されるようになりました。
木・火・土・金・水それぞれの特性は以下の表1のようになります。本来の性質からはみ出して、さらに広い意味を持つものもあります。

表1 【五行の特性】 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年 より改変
  特性 性質・作用・現象
曲直(きょくちょく):
木が成長する様子。幹や枝は、ぐねぐね曲がりながらも、太陽へむかって真っ直ぐに、上へ外へ、ぐんぐん伸びていく。
生長、伸びやか
昇発(しょうはつ:上昇・発散)
柔和(にゅうわ:潤いを持ち、柔軟性があり、しなやかに曲がる。曲がっても折れない)
条達(じょうたつ:伸ばすこと)
炎上(えんじょう):
炎が燃え上がる様子。
温熱
上昇
明るい
稼穡(かしょく):
土が作物を育てたり、取り入れを助けること。「稼」とは、農作物を植え付けること。「穡」とは、農作物を取り入れること。
生化(せいか:生長と変化)
承載(しょうさい:ものを載せる)
受納(じゅのう:ものを受け入れる)など
土は五行の中で重要な位置づけであり、「万物は地中から生まれ、万物は土の中に滅びる」「土は万物の母である」「土は四行(土を除いた五行)を載せる」とされる。
従革(じゅうかく)=変革、変化:
たやすく変化する、常に変化していくこと。
清涼
清潔
粛降(しゅくこう:下へ降ろす)
収斂(しゅうれん)など
潤下(じゅんか・じゅんげ):
潤し、下に向かうこと。
寒涼
滋潤(じじゅん:潤す・湿らせる)
下行(かこう:下へ行く、降りていく)など

五行学説の医学への応用

陰陽学説の項でもお話ししましたが「人間(小宇宙)は自然界(大宇宙)の一部であり、すべては同じ法則に従う」と中医学では考えます。これを、「整体観(せいたいかん)」「天人合一(てんじんごういつ)」などといいます。
中医学ではこの5つのイメージ「木・火・土・金・水」に人間の身体をあてはめ、人体の生理・病理の理解、病気の診断や治療に応用しました。

中医学では五臓や器官をはじめ、人体の生理や病理に関係する様々な事柄を「木・火・土・金・水」の特性に合わせて5つに分類し、帰属させました。それを大まかにあらわしたのが表2「五行分類表」です。

表2【五行分類表】 ※代表的な項目のみ掲載しました。ご興味のある方は、調べてみてくださいね。
   
五季 長夏
五方 中央 西
五気 湿
五穀 (もちきび) (たかきび)
五色
五味 (しおからい)
五臓
五腑 小腸 大腸 膀胱
五官
五体 皮毛
五華
五志 憂・悲 恐・驚
五神

例として木の行を見てみましょう。
「肝」は「木」の特性を持つので、表1に記載したように「木々のように伸び伸びと全身の気を巡らす機能を持ち、抑鬱を嫌い」ます。

自然界では、「」になると、木々が枝葉を伸ばし、春一番などの「」がよく起こります。
人体において春は「」の働きが活発になる季節で、肝と深い関わりがある精神情緒系や自律神経系の乱れが表れやすくなります。肝にトラブルがあると、「りっぽい」、イライラ、気分が落ち込む、憂鬱、焦燥感などの、気分の浮き沈みといった症状が目立つようになります。“五月病”なんていう言葉もありますよね。

そのほか、「肝」にトラブルがある人は顔色が「」黒っぽくなったり、青筋が出やすく、「」に当たることを嫌い、「」が疲れやすい、ショボつく、ドライアイ、視力減退などの「目」に関わる症状・疾患が表れやすくなります。

また、「肝」に貯蔵されている血液(肝血:かんけつ)が不足すると、「(腱のこと)」を養えないため、こむら返り、足のつり、痙攣などが表れるほか、「」がもろく割れやすくなります。肝にトラブルがあるとっぱいものを欲しがります。

人体の五行については今後別の回で、もう少し詳しくお話ししたいと思います。ちなみに文献によって食材の項は内容が違ったりすることもありますが、それは五行に当てはめるため、数ある食材から無理に5つ選んでいるからです。それでも五行学説は陰陽学説の不足を補ってくれる、とても大切な学説といえるでしょう。

次回は、「木火土金水の関係(相生と相剋)」についてお話しします。お楽しみに!

長夏(ちょうか):夏土用(なつどよう)ともいう。夏の終わりの湿気の多い時期(大暑・立秋・処暑・白露)を本来は指すが、日本の梅雨の時季に気候が似ているため、日本では梅雨に当てはめて考えることが多い。高温多湿な気候。

<参考文献>

  • 戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
  • 王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
  • 小金井信宏『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
  • 平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
  • 平馬直樹、浅川要、辰巳洋『オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書』ナツメ社 2014年

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、医学気功整体師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
恵泉女学園、東京薬科大学薬学部を卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学にて中国研修、国立北京中医薬大学日本校などで中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/