西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!
第40回 人体をつくる気・血・津液とは(8)気・血・津液の関係
前回は、気・血・津液のうち、「気と血の関係」についてお話しました。
今回は、「気と津液」「血と津液」が互いにどう関わり合っているか、についてお話しします。
気・血・津液はどれも、脾胃(消化器系)が飲食物を消化・吸収してつくった「水穀の精気」からつくられていて、3者は互いに生理的にも病理的にも影響を与え合う関係にあります。
目次
「気と津液の関係」は、「気と血の関係」に似ています
体を温める気は「陽」に属し、体を潤す津液は「陰」に属します。ここでいう「気と津液の関係」は、そのまま「陽と陰の関係」をあらわします。
「気と津液の関係」は、前回お話しした「気と血の関係」と、とてもよく似ています。
津液がつくられ、全身をめぐり、最終的に排泄される過程すべてにおいて、気が働きかけています。
具体的には、気の昇降出入や、気の気化作用・温煦作用・推動作用・固摂作用などが関係しています。(→第34回 人体を作る気・血・津液とは(2)気の働き)
また、無形の気は、血だけでなく津液などの有形のものにくっつき寄り添うことで存在することができます。つまり、津液も気の媒体です。
気と津液のあいだには4つの関係があります。
気が津液を生み、津液を循環させ、津液を固摂する、という3つの“気の津液に対する働き”が、後述する(1)〜(3)にあたります。
また、津液が気を載せるなどの津液の気に対する働きが、(4)にあたります。
(1)気は津液を生む(気能生津)
「第34回」でもお話ししたように、津液は気の気化作用によってつくられます。
津液は、私たちが摂取した飲食物が脾胃(消化器系)の働きによって、消化・吸収されて「水穀の精気」へと変化して、水穀の精気から津液はつくられます。
脾胃のちから(=脾胃の気)がしっかり充実していれば、津液も正常に作られて充足します。反対に消化器系が弱い(=脾胃の気が不足する)と、うまく津液がつくられないため、津液不足を招いてしまいます。このようなケースでは、気の不足と津液の不足の両方がみられます。
このように、気虚ベースの津液不足を治療する際には、津液を補うだけでなく、必ずおおもとの気も同時に補います。
(2)気は津液を循環させる(気能行津)
気が血を巡らせるのと同じく、気は津液も全身をめぐらせます。
津液の代謝と排泄は、主に脾の気・肺の気・腎の気の3つの気に支えられています。津液を全身すみずみにまで行きわたらせて、不必要な水液を体外に排出するのに、気の昇降出入運動が関わっています。気の昇降出入運動がうまくいかないと、津液を全身に届けて排泄するのがうまくいきません。
例えば、気の不足(気虚)や気の滞り(気滞)があると、津液の代謝がうまくいかず、余分な水分の停滞(「水湿/すいしつ」とか「痰飲/たんいん」といいます)が生まれます。
また、余分な水分の停滞があると、気のめぐりも悪くなるため、さらに水分の停滞が生まれるという悪循環に陥ります。
こういったケースでは、ただ利水(りすい/水分を排出)するのではなく、根本的な原因である不足した気を補ったり、気をめぐらせたりしながら、水分代謝を改善していきます。
(3)気は津液を固摂する(気能摂津)
「摂津(せっしん)」とは、「気が津液(体液)を固摂する作用」のことです。詳しくは、第34回の(4)体液や内臓をあるべき場所に保持する 【固摂作用(こせつさよう)】をご覧ください。
気が弱ると(気虚)、固摂作用も弱るため、津液は自分の本来の居場所を離れて好き勝手なところへ流れ出ていってしまいます。例えば、疲れやすい、精神的にも肉体的にもパワー不足などの気の不足が根底にある、多汗症・遺精・尿失禁などがあげられます。こういったケースにおいても、気の固摂する力を強める治療を中心におこないます。
(4)津液は気を載せる(津能載気)
無形の「気」は、有形の「津液や血」に付着することで、体内にとどまることができます。津液も血も、気を運ぶ媒体であり、拠り所です。
例えば、夏の暑い日やたくさん動き回って大量に汗をかくとグッタリしてしまう、という経験は誰でもありますよね。あれは、汗をかくことで、津液とともにそこに宿る「気」を同時に失っているからです。
多汗のほかにも、多尿や激しい下痢・嘔吐では、大量の津液とともに気も奪われます。こういったケースでは、津液だけでなく同時に気も回復していきます。
血と津液の関係「津血同源(しんけつどうげん)」
血と津液はどちらも体内の液状成分で、気が陽に属すのに対して、血と津液は陰に属し、どちらも「滋養と保湿」の作用があります。また、津液は「血の原料」でもあります。
「水穀の精気」からつくられた津液は、血を含む体内のさまざまな液体へと変化します。
津液も血もどちらもおおもとは「水穀の精気」からつくられることから、両者の関係を「津血同源」といいます。平たく言えば、「津液が血脈内に浸透すれば血液成分となり、血液の潤いの部分が脈外に出れば津液に戻る」といったニュアンスです。
病理においても、血と津液は影響し合います。
例えば、大量出血した人は、脈外の津液も脈内に浸透して血の容量不足を補おうとします。そうすると、脈外の津液も不足するため、のどの渇き・尿の減少・皮膚や粘膜の乾燥などの症状があらわれます。つまり、このように血が不足した人は、同時に津液も不足するのです。
中医学には、「汗法(かんほう)」といって、汗をかかせる(=津液を失う)治療法がありますが、以上のことから、「出血した患者には、発汗させてはいけない」という原則があります。
また、同じように、大量に汗をかいたり津液を消耗した人は、血も不足していると考えます。このように、「津液の足りない患者は、血を強く流す治療を軽々しくしてはいけない」という原則があります。
参考文献:
- ・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
- ・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
- ・関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
- ・王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
- ・平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
- ・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年