学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

5月5日はなぜ「薬の日」なのか?薬に関する記念日とその由来
世の中には多くの記念日があります。日本記念日協会によれば、現在登録されている記念日は約2900件とのことで、平均すると一年のどの日も8つくらいの記念日であるということになります。
記念日といっても、「猫の日」(2月22日)、「母の日」(5月第2日曜日)など比較的有名なものから、「パンツゼロでリラックスの日」(8月20日)、「大判焼きの名前を皆で議論する日」(7月28日)などの珍妙なものまで、様々な記念日が定められています。

薬の日は5月5日
医薬品に関するものも、もちろんたくさんあります。中でも最も知られているものは、そのものズバリ「薬の日」(5月5日)でしょう。これは、西暦611年5月5日に、推古天皇が百官を率いて、菟田野(現・奈良県宇陀市)で薬になる草や木を採取する「薬狩り」を催したという故事に由来します。
5月5日といえば端午の節句であり、中国ではこの日に菖蒲を刻んで酒に混ぜて飲み、厄除けとする習慣がありました。推古天皇もこの菖蒲やヨモギなどを採取したとされ、これらを風呂に入れて入浴することで、疫病や邪気を払ったといいます。
ただし、菖蒲といってイメージする紫色の花はアヤメ科のハナショウブであり、薬草として使われるショウブ科(旧来の分類はサトイモ科)のショウブとは別物なのだそうです。その葉を煎じたものは神経痛やリウマチなどに効果があるとされ、現代の目からも医薬として根拠のないものでは決してありません。そうした面から見ても、5月5日は「薬の日」にふさわしい由緒を持つといえるでしょう。

医薬に関する記念日いろいろ
薬の日に次ぐ知名度がありそうなのは、「ジェネリック医薬品の日」(12月22日)でしょうか。NPO法人ジェネリック医薬品協議会により、「ジェネリック医薬品の正しい理解を広めるとともに、意義や役割を多くの人に知ってもらう」ことを目的に、2019年に制定されました。
この日付は、ジェネリック医薬品承認のための科学的基準を厚生労働省が定めた日である、1997年12月22日にちなんだものです。この日の付近に、記念講演会やパネルディスカッションが開催されるなど、ジェネリック医薬品のPRに活用されています。
記念日には、「いい夫婦の日」(11月22日)や「肉の日」(毎月29日)のように、語呂合わせで決められたものが多くあります。医薬分野では、8月1日が「配置薬の日」に指定されています。もちろん、「は(8)いち(1)」の語呂合わせです。
富山の置き薬は、江戸時代に始まって現在まで続く、独特の商法です。配置薬の日は、その有効性や利便性をアピールするために、富山県医薬品配置協議会が2019年に取り決めました。この日の前後に、献血事業などの社会貢献活動に取り組んでいるとのことです。
置き薬は、今でいうセルフメディケーションの先駆けともいえます。実は「セルフメディケーションの日」も存在しており、7月24日が指定されています。日本では2017年に制定されましたが、実は海外では以前から「国際セルフケアデー」として、この日を中心に各種イベントが執り行われていました。
英語には「24/7」という言い回しがあり、「24時間、週に7日ずっと休みなく」という意味合いがあります。セルフメディケーションも毎日途切れなく行うものであることから、この日が選ばれたとのことです。
以前、本連載でデジタルメディスン(治療アプリ)について取り上げたことがあります。これを記念した「治療アプリの日」(8月21日)も、2021年に制定されています。これは、ニコチン依存症を対象とした治療アプリが、2020年8月21日に日本で初めて承認を受けたことを記念したものです。
🔽 デジタルメディスン(治療アプリ)について解説した記事はこちら
新たな記念日?
これらを見てお気付きの通り、医薬に関する記念日は、比較的最近制定されたものが多くあります。世間への知名度アップのために、記念日を創設してアピールを行うことが、定番のPR手法として広がっているためです。こうした日に合わせてイベントを行えば、マスコミなどにも取り上げられやすく、注目を集めるために有効なのでしょう。実際、いくつかのOTC薬にも、記念日が制定されているものがあります。
ただし、こうした商業的な意味合いから離れた記念日もあってよさそうに思えます。たとえば、元が創薬研究者であった筆者などからすれば、「創薬の日」があってもよさそうな気はします。医薬品を創出することの意義を周知するためには、有効なアプローチではと思います。日付はいつがいいか難しいところですが、1909年にエールリッヒと秦佐八郎がサルバルサンの特許を取得した、6月10日あたりが候補になるでしょうか。
ちなみに薬剤師の記念日もちゃんとあり、9月25日が世界薬剤師デーと定められています。ただし、日本ではあまり知られておらず、大きなイベントなども行われていないようです。せっかくの記念日ですから、もう少し活かす道を考えてもよいように思います。
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