
学べば学ぶほど、奥が深い薬の世界。もと製薬企業研究員のサイエンスライター・佐藤健太郎氏が、そんな「薬」についてのあらゆる雑学を綴るコラムです。

バイオシミラーとは?ジェネリックとの違いや加算新設の背景
2026年度診療報酬改定で、「バイオ後続品調剤体制加算」が設けられることになりました。(この「バイオ後続品」は、通常は「バイオシミラー」という言葉が広く使われているので、本稿では以降こちらを用います)。ということで、今回はこのバイオシミラーについて、改めて解説していこうと思います。
バイオシミラーとジェネリックの違い
バイオシミラーの定義を見ると、「先行バイオ医薬品と同等/同質の品質、安全性および有効性を有し、異なる製造販売業者により開発される医薬品」(日本バイオシミラー協議会ウェブサイト)となっています。
参考:バイオシミラー(バイオ後続品)とは|日本バイオシミラー協議会
実際には、抗体医薬などのバイオ医薬が特許切れとなった後、他のメーカーがこれと同等の医薬を売り出すものであり、低分子医薬でいうジェネリック医薬に当たるものです。しかしわざわざ別の名称が用いられ、別のカテゴリーに分けられているのは、それなりの理由があります。
通常の低分子医薬は、有機合成の技術によって作り出されるため、有効成分が全く同一の物質であることを示すのは容易です。結晶化工程などで溶解度に差が出ることがありますが、このあたりの試験を行うだけで、医薬品として発売することが可能です。
一方、バイオ医薬はその名の通りバイオ技術で生産されるものであり、成分もタンパク質などの高分子です。このため、先発品と全く同一の成分、同一の品質であることを証明することは簡単ではなく、ジェネリックの場合のような、比較的簡素な試験だけで承認を得ることはできません。
まずバイオシミラーは、先行品と構造を比較して、アミノ酸配列や糖鎖修飾、高次構造が同一であることなどを証明する必要があります。また、不純物プロファイル、安定性、経時変化などについても詳細に分析を行い、品質も同等であることを徹底的に証明しなければなりません。
また、非臨床試験で受容体への結合能の確認、場合によって動物実験なども行われます(近年は、動物実験はなるべく省略・簡素化される傾向にあります)。また、バイオ医薬特有の大きなリスクである、抗薬物抗体の発生の有無なども厳しくチェックされます。
そして、バイオシミラーが最もジェネリックとは異なるのは、臨床試験を行う必要もある点です。原則として、国内ですでに承認を受けている先行品を対照薬とした試験を行い、同等の効能・安全性を持つことを示す必要があります。
通常、第II相~第III相臨床試験のような多くの被験者を対象とした試験までは行われませんが、それでもジェネリック医薬とは段違いの厳しさです。メーカーとしては、相応の負担を覚悟する必要があります。
参考:バイオシミラーの品質確保(同等性評価)の進め方|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構

バイオシミラーの市場
このように、発売までに相当の経費がかかりますので、その分はどうしても薬価に乗せられることになります。このため、ジェネリック医薬では先行品の2割~6割程度の価格で販売されますが、バイオシミラーでは原則として先行品の7割に設定されます(10%まで加算されることもあります)。
参考:バイオ医薬品・バイオシミラーの基礎知識|厚生労働省
また、通常の低分子医薬では、先行品の特許が切れるとかなりの速さでジェネリック医薬に入れ替わってゆきます。しかしバイオシミラーでは、そこまで先行品の市場を一気に奪ってしまうわけではありません。
ひとつには、先行した企業が値下げや新製剤の開発などで、市場を守りに来るからです。また前述のように、抗体医薬ではわずかな構造の差で、大きく薬効や安全性が変わってしまうことがありえます。対象疾患もがんやリウマチなど重篤なものが多いですから、医師としてもバイオシミラーへの切り替えは簡単にはしにくい面があります。
このようにバイオシミラーを発売しても、開発経費は相当に必要で、それを回収するには時間がかかります。こうしたこともあり、先行品の特許が切れても、バイオシミラーを発売するのは数社程度にとどまることがほとんどです。
バイオシミラーへの切り替え促進
こうした状況は、医療費抑制に躍起になっている行政側には都合の悪い話です。冒頭で述べた「バイオ後続品調剤体制加算」は、バイオシミラーへの切り替えをなるべく促進していこうという意図で導入されるものです。
要は、バイオシミラーを使うと医療機関側にもプラスがあるよう、診療報酬上の加算がつくことになるわけです。実際のところバイオシミラーへの切り替えには、患者さんへの説明・同意取得、事務手続きなど時間と手間が必要ですから、加算はあってしかるべきともいえます。
国としては、「2029年度末までに、バイオシミラーに80%以上置き換わった成分数が、全体の成分数の60%以上とする」という数値目標を立てています。とはいえバイオシミラーという言葉の認知度はまだまだ低く、薬局を訪れる患者さんのうち、知っているのは20%未満という調査もあります。今後の普及のためには、まずバイオシミラー周知の努力が必要になりそうです。
参考:後発医薬品(ジェネリック医薬品)及びバイオ後続品(バイオシミラー)の使用促進について|厚生労働省
参考:後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書(案)<概要>|厚生労働省







