法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。
第5回 OTC医薬品販売時に薬剤師が行うべき「情報提供」とは
1. はじめに
2016年2月12日に医薬品医療機器等法施行規則が改正になり、「健康サポート薬局」と表示するための基準が定められました。この基準では、「要指導医薬品等の使用に関する相談及び健康の保持増進に関する相談に適切に対応した上で、そのやり取りを通じて、必要に応じ医療機関への受診勧奨を行うこと」など、いわゆるOTC医薬品への対応が求められています。また、厚生労働省が発表した「『患者のための薬局ビジョン』~『門前』から『かかりつけ』、そして 『地域 』へ~」(平成27年10月23日厚生労働省)においても、「要指導医薬品等や健康食品の購入目的で来局した利用者からの相談はもとより、地域住民からの健康に関する相談に適切に対応」することが求められています。
これに加えて、近年セルフメディケーションが推進されていることもあり、今まで以上に薬局において、要指導医薬品や一般用医薬品を販売する機会が増えることが想定されます。そこで今回は、OTC医薬品を販売する際に情報提供などが適切ではなかった場合の薬剤師の責任について説明します。
2. 要指導医薬品及び一般用医薬品
一般的に「OTC医薬品」とは、「要指導医薬品」と「一般用医薬品」のことです。
「要指導医薬品」とは、特定の医薬品のうち「効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであつて、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり、かつ、その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして、厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するもの」(医薬品医療機器等法第4条5項3号)とされています。
「一般用医薬品」とは、「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの(要指導医薬品を除く)」(医薬品医療機器等法第4条5項4号)とされています。
「要指導医薬品」と「一般用医薬品」は、具体的には以下のとおり区分され、販売方法などが規制されています。
要指導医薬品 | 一般用医薬品 | |||
---|---|---|---|---|
第一類 | 第二類 | 第三類 | ||
販売形態 | 店舗販売 対面販売のみ |
店舗販売 特定販売(インターネット販売など)可 |
店舗販売 特定販売(インターネット販売など)可 |
店舗販売 特定販売(インターネット販売など)可 |
販売者 | 薬剤師 | 薬剤師 | 薬剤師又は登録販売者 | 薬剤師又は登録販売者 |
年齢・他の薬剤の使用状況等の確認義務 | 義務 | 義務 | 努力義務 | 規定なし |
情報提供及び指導義務 | 情報提供及び指導義務 | 情報提供義務 (購入者から不要の旨の意思表示があった場合には適用なし。但し、適正に使用されると認める時に限る) |
情報提供の努力義務 | 規定なし |
3. 薬剤師等の情報提供等の義務
この定義では、いずれも「需要者の選択により」とされており、消費者が選択して使用する医薬品となっています。そのため、何か健康被害が起こっても、販売者は責任を負わないと考えられるかもしれません。
しかし一方で、「医薬関係者から提供された情報に基づく」ことが前提とされており、薬剤師や登録販売者からの情報提供などに問題があれば、責任を問われる可能性があります。
4. 薬剤師等の損害賠償責任
薬剤師等が問われる可能性のある損害賠償責任について、医薬品の区分に従って検討してみましょう。
[1] 要指導医薬品
要指導医薬品においては、薬剤師の情報提供及び指導が義務づけられていること(医薬品医療機器等法36条の6第1項)に加え、年齢や他の医薬品の使用状況などを確認する義務(同法第36条の6第2項)が課せられています。そのため、薬剤師が間違った情報提供や指導をした、禁忌症等の情報を得たにもかかわらず適切な対応を怠った、禁忌症などの有無を一切確認しなかった、情報提供や指導を一切行わなかったことなどが原因で、消費者に健康被害が起きた場合、薬剤師は損害賠償責任(民法第709条)を負う可能性が高いと考えられます。たとえ添付文書などに禁忌症の記載があるとしても同様です。仮に、消費者にも落ち度が認められる場合は、過失相殺(被害者に過失があったときに、裁判所がそれを考慮して賠償額を減額すること)されることになります。
[2] 第一類医薬品
第一類医薬品については、指導義務はありません。ただし、情報提供義務や確認義務が課せられていますので(医薬品医療機器等法第36条の10第1項及び2項)、適切にこれらを行っていなければ、同様に損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。また、消費者から情報提供が不要な旨の申し出があったとしても、適正に使用されると認める場合でなければ情報提供義務は免除されませんので、注意が必要です(医薬品医療機器等法第36条の10第6項)。
[3]第二類医薬品
第二類医薬品に関しては、情報提供や確認義務は努力義務となっていますが、義務規定がないからといって、一切しなくてよいわけではありません。情報提供の必要の有無を確認し、情報提供を要求されたときに、間違った情報提供をしたり、申し出があったのにもかかわらず禁忌症であることを見逃してしまったりすれば、やはり損害賠償責任を問われる可能性が高いでしょう。また、情報提供の必要性を確認すること自体を怠り、それが原因で健康被害が起きた場合には、消費者などの状況によっては、損害賠償責任が発生する可能性があるといえます。
[4] 第三類医薬品
第三類医薬品については、情報提供義務はないので情報提供を積極的に行わなかったことによって責任を問われる可能性は少ないと思われます。ただし、消費者から相談があった場合には、相談を応需する義務があります。このようなとき、間違った回答などをしてしまえば、同様に損害賠償責任を問われる可能性が高いでしょう。
5. その他の責任
情報提供などに不備があり、消費者に健康被害が起きてしまった場合、上記のように損害賠償責任を負うことがあります。同時に、使用者責任(民法715条)または契約責任(民法415条)によって、経営をしている会社や薬局開設者も同様の責任を問われる場合が多いと思われます。
その他、結果が重大であれば業務上過失傷害罪(刑法211条1項)をはじめ刑事責任や行政責任も問われる可能性があります。
6. 最後に
国民の利便性を考慮しつつ、医薬品の適正使用および安全性を確保した上で、OTC医薬品の販売を行うためには、医療関係者が情報提供等を適切に行っていくことが極めて重要です。冒頭で説明したとおり、このような役割は、今まで以上に薬局や薬剤師に期待されています。薬剤師の正しい情報提供がなければ、OTC医薬品の正しい使用は実現できません。正しく情報提供等を行い、OTC医薬品を適切に販売し、使用してもらうことは薬剤師の重要な任務のひとつです。いっそう意識して取り組んでいく必要があるでしょう。