デジタルカメラの普及によって、フィルムカメラ市場は急速に縮小しました。著者が富士フイルムの社長に就任した2000年には、写真の多くがデジタルに切り替わり始め、この年をピークに写真フィルム事業は縮小を続けます。同社は1970年代からデジタルカメラの研究を続けていたこともあり、デジカメ事業では好調な販売を続けてシェアを拡大しますが、価格競争が激しく、それだけで写真フィルムの収益減少をカバーすることはできませんでした。
このような状況の中、著者は「第二の創業」と位置づけた大胆な改革を決行します。世界中の工場の再編や現像所を集約し、さらに5000人規模のリストラも行いました。その後は、写真フィルム事業で培ってきた技術を光学デバイスやデジタル印刷用機材などに活かし、事業を広げていきます。
同社はもともとレントゲンフィルムや画像診断用機器を手がけてきましたが、そこから機能性化粧品やサプリメントといった分野にも事業を広げ、さらに医薬品事業にも参入しました。
これらの改革によって2008年には過去最高の売上を記録するものの、その後リーマンショックや欧州危機、東日本大震災などのさまざまな災難に見舞われます。しかし、そのたびごとに新たな判断をし、対応していくのです。
時代の変化によって危機が訪れたり、これまでのやり方を変えざるを得なくなったりすることは、富士フイルムのような大企業の経営に限らず、自分の職場、あるいは個人としての働き方や生き方においても起こることでしょう。危機にどのように対応していくか、移り変わる時代にどう向き合っていくかを考えることは、どのような人にとっても重要なことです。
著者は「世の中のすべては競争であり、それが社会の原理である」として、戦うことの大切さを強調しています。そして、このような「強さ」と同時に、ただ勝つだけでなく、誰かのために勝つ、大切なものを守るために勝つという意識や「優しさ」が必要だといいます。数多くの危機に直面し、そのたびに強さと優しさでそれに対応してきた著者の物語は、激しく変化を続ける時代を生き抜くための指南書となるでしょう。