まるわかり中医学 まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第14回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(2)実寒証

陰陽が増えたり減ったりした場合~冷えている人について(1)~

第13回でご説明したように、健康な状態では陰と陽は許容範囲内での微妙な振れ幅がありながらも、ほどよいバランスを保っています。赤点線=陰陽のバランスライン=健康ラインです。

陰と陽がさまざまな原因によって、どちらか一方が他方より勝ったり(赤線を超えて余分に多い)、どちらか一方が他方より負けたりすると(赤線に達せず不足する)、病気になってしまいます。

今回は下のイラスト「パターン③」のように、「陰が赤線を超えて余分に多い場合」について説明します。
“陽(熱)”は火のイメージ、“陰(寒)”は水のイメージととらえると、③は“冷えている人”なのがわかります。陰陽を体温の調節という面からみると、「陰=冷やす」「陽=温める」という意味でしたね。では、「なぜ、冷えてしまったのか?」。その原因を探りましょう。

「赤線を超えるパターン」は「実証」

赤線を超えて、余分に増えることを『実証(じっしょう)』といいます。実証とは、“人体にとって不必要なもの=病邪(びょうじゃ)”が停滞・蓄積した状態です。このイラストで余分に増えているのは、身体にとって有害な、『病邪』あるいは『邪気(じゃき)』と呼ばれるものです。

“身体にとって必要なもの=正気(せいき)”に“陰陽”があるように、“身体にとって不要なもの=邪気”にも“陰陽”があります。

・陰邪(いんじゃ)

陰の性質をもった邪気は『陰邪』といい、パターン③のように赤線を超えた陰がこれにあたります。

・陽邪(ようじゃ)

陽の性質をもった邪気は『陽邪』といい、赤線を超えた陽がこれにあたります。
(今回は、邪気には陽邪と陰邪があるということだけ理解していただければOKです。いずれ「病因」の項目で詳しく説明します)

邪気(病邪)は温度や湿度など気候の変化による影響のほか、血行不良や代謝異常、ストレスなどにより生じた病理産物(病的な物質)、便秘や消化不良などにより消化管に停滞したものなど、すべてを含みます。

陰邪は前回お話ししたように、「寒性で、冷たく、下向き、内向き、静的」な水のイメージをもつ邪気です。したがって、陰邪が人体を襲うと身体は冷たくなります。
(例:寒邪(かんじゃ)、湿邪(しつじゃ)など。)

陽邪は、「陽」の性質を持ち合わせ、「熱性で、温かく、上向き、外向き、動的」な火のイメージをもつ邪気です。したがって、陽邪が人体を襲うと身体は熱くなります。
(例:熱邪(ねつじゃ)、風邪(ふうじゃ)、暑邪(しょじゃ)、燥邪(そうじゃ)、火邪(かじゃ)など。)

③のイラストは陰が赤線を超えて増えています。寒邪などの陰邪が体内に侵入し、悪さをしている状態です。
イラストから2つのことが読み解けます。

まず1つめ。
陽は赤線までなので正常な状態ですが、陰は赤線を超えて余分に増えてしまっています。このように、赤線を超えて余分に増えてしまった分(イラストの斜線部分)は、人体にとって不要なもの=有害なものであるため、“邪気”にあたります。“邪気がある状態”ということは、この状況は“実証”。さて、ここで復習です。

邪気が旺盛で余分なものの停滞・蓄積があり、正気が不足していない状態=実証
正気が不足して、邪気はない状態=虚証

でしたよね。従って、③は実証です。
(参考:第3回 日本漢方と中医学で異なる「虚実」の考え方

さらに、2つめ。
陰と陽を比べたとき、陰(寒)が多ければ『寒証(かんしょう)』、陽(熱)が多ければ『熱証(ねつしょう)』といいます。
③では赤線を超えて陰が増えて(隠邪)いるため、この人は『寒証』です。

以上2つのことから、③の状態の人を、中医学では、
【実証】+【寒証】=【実寒証(じつかんしょう)】といいます。

ちなみに、「寒証」の「寒」、「熱証」の「熱」は本人の感覚によるもので、必ずしも体温測定の結果と同じではありません。ここも西洋医学とは異なる点です。
中医学では、「暑い・熱く感じる/冷える・寒く感じる」などの本人の感覚や自覚症状を重視しながら、最終的には四診(中医学における4つの診察法)の結果をもって判断します。

「実寒証」はどんな状態かというと、例えば「寒気から始まるカゼ」をひいてしまった人です。あの有名な処方、「葛根湯(かっこんとう)」や「麻黄湯(まおうとう)」が必要な状態です。

風寒邪(ふうかんじゃ)に身体が襲われ(気温が低い日や冷房・冷たい飲食により身体が冷えてしまい)、ゾクゾク寒気がする経験って誰でもありますよね。まさにあれは実寒証の典型例です(正式には風寒表実証(ふうかんひょうじつしょう)・外感風寒証(がいかんふうかんしょう)などといいます)。葛根湯や麻黄湯で身体を温めて、冷えの邪気を発散させて治します。

次回は、同じ冷えている人(寒証)でも陽が不足しているパターン「虚寒証(きょかんしょう)」を紹介します。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。
薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。
東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

<PR>満足度NO.1 薬剤師の転職サイト