まるわかり中医学 まるわかり中医学

西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第22回 生薬の性質 ~四気、五味、帰経、昇降浮沈~

【漢方薬・生薬】とは

漢方薬とは、生薬を数種類組み合わせたものをいいます。漢方薬の薬効は、一言でいえば、「配合生薬ひとつひとつの性質が映し出されたもの」です。
中医学の専門家は、漢方薬の効能を知りたいとき、「効能効果の欄」よりも、「配合生薬の種類とグラム数」に着目します。配合生薬の内容をみれば、どの「証(体質・病の本質)」を治療する薬なのか、がわかるからです。

中医学では味や見た目、質感、重さなど、五感で感じるような感覚が薬の効能と深く関係しています。そして一つひとつの生薬が、身体のどこに作用するのかの選択性=帰経(きけい)を持っています。それぞれについて解説していきましょう。

【四気(五性)】とは

「四気(または四性)」とは、「寒・涼・熱・温(かんりょうねつおん)」の4つの性質のことです。生薬や食べ物には身体を温める「温熱性(おんねつせい)」のものと、身体を冷やす「寒涼性(かんりょうせい)」のものがあります。
そして、冷やしも温めもしない性質を「平性(へいせい)」といい、薬膳においては、中医学の四気に「平」を加えて「五性(ごせい)」と呼ぶこともあります。そのほかに、「微温性(びおんせい)」や「微寒性(びかんせい)」なども存在します。

「寒証」には、「熱薬(ねつやく:温熱性の薬)」を、「熱証」には「寒薬(かんやく:寒涼性の薬)」を用いるのが基本です。これを、『以寒治熱、以熱治寒(寒を以って熱を治す、熱を以って寒を治す)』といい、中医学の治療原則・用薬原則です。

図①生薬や食べ物の「四気(五性)」温める 熱性 > 温性 > 微温性 > 平性 < 涼性 < 微寒性 < 寒性 冷やす

【五味(ごみ)】とは

「五味」とは、「酸・苦・甘・辛・鹹(さん・く・かん・しん・かん)」の5つの味のこと。順に「酸っぱい・苦い・甘い・辛い・しおからい」を表し、それぞれに効能があります(表①)。

実際の味とは異なる五味に分類される生薬もあります。これは、“甘い→「甘」”というように「生薬の味から決められた五味」のほかに、“補う作用→「甘」”、“ミネラルが多い→「鹹」”のように「効能によって味が決められた五味」があるためです。

表① 五味の効能と意味
五味 効能 意味
収斂・固渋
(しゅうれん・こじゅう)
汗・尿・大便・精液・帯下・血液・咳など体内の気血津精の流出に対し、引き締めて渋らせ、漏れ出ないようにすること
通泄
(つうせつ)
通便(お通じ)と共に熱を出すこと
清泄
(せいせつ)
冷やして熱を取り除くこと
降泄
(こうせつ)
気を下へ降ろすこと
燥湿
(そうしつ)
乾燥させること
堅陰
(けんいん)
熱をとって陰を守ること
補益
(ほえき)
補うこと
和中
(わちゅう)
中焦(胃腸)の働きを助けること
緩急
(かんきゅう)
急な痛みを和らげること
発散
(はっさん)
邪気を発散して体外へ追い出すこと
行気
(こうき)
気の巡りをよくすること
活血
(かっけつ)
血行をよくすること
瀉下
(しゃげ)
通便により病邪を排出したり、便秘を緩和すること
軟堅散結
(なんけんさんけつ)
しこりを柔らかくし、かたまりを散らしてなくすこと
このほか、渋味・淡味・芳香味などもあります。

【帰経(きけい)】とは

「帰経」とは、生薬が一つあるいは数種類の臓腑・経絡・部位に選択的に作用することを指します。帰経を知れば標的を狙いやすくなり、患部にきちんと薬効を届けられるのでとても重要です。西洋薬学のドラッグデリバリーシステム(DDS)に少し似ているかもしれません。

また一部の生薬には、『引経薬(いんけいやく)』という特別な働きをするものがあります。引経薬は処方中の生薬の薬効をまとめて一緒に、経絡を通してある特定の部位に運んで(引っ張って)いってくれる役割を持っています。
例えば補血(ほけつ:血を補うこと)の方剤「四物湯(しもつとう)」に、引経薬として明目(めいもく、疲れ目や視力回復の効能がある)の「菊花」をプラスしてみます。「菊花」は肝の帰経(肝経)を持つので、「四物湯」の薬効(補血)が肝経に引っ張られ、血虚の疲れ目・ドライアイにより一層効きやすくなります。(「肝気は目に通ず」といい、肝と目は相関関係にあります。いずれ詳しく説明しますね)

【昇降浮沈(しょうこうふちん)】とは

昇降浮沈は、薬物が作用する方向性のことです。

<昇・浮(しょう・ふ)>
体の上方・外側に向かう作用、上向き・外向きの矢印↑のイメージ
病変部位が身体の上部や体表(表:ひょう)にあるときに用いる
<沈・降(ちん・こう)>
体の下方・内側に向かう作用、下向き・内向きの矢印↓のイメージ
病変部位が身体の下部や深部(裏:り)にあるときに用いる

花びらや葉っぱなど、ふわりと軽くて薄い軽質な生薬は、そのイメージ通り昇浮性を持つものが多いとされ、反対に、根・果実・種・骨・貝殻・鉱物など重くてずっしりした、いかにも重質な生薬は沈降性を持つものが多いとされます。

昇降浮沈は薬物の気味(四気五味)とも関係があります。
昇浮薬の大多数は、「温熱性」で「辛」「甘」に属し、沈降薬の大多数は、「寒涼性」で「酸」「苦」「鹹」に属します。

また、生薬の昇浮性と沈降性は、炮製(ほうせい)によって変化するほか、組み合わせる生薬・使用量・煎じる時間などにより、昇浮性と沈降性のバランスを調節できます。

【生薬と陰陽】とは

「四気」「五味」「昇降浮沈、軽・重」「帰経」は陰と陽に分類でき、これは生薬だけでなく食材でもまったく同じことがいえます。

まとめると表②のようになります。

表②陰陽の分類
 
四気 熱・温 寒・涼
五味 辛・甘 酸・苦・鹹
生薬の材質
方向性 昇浮 沈降

「辛苦寒薬」「甘酸温薬」と分類される薬があるように、たったひとつの生薬においても陰と陽の性質が複雑に混ざり合うことがよくあります。漢方処方はいくつもの生薬の組み合わせです。薬物の陰陽の性質をうまく利用して、身体の陰陽の乱れを整えるのが中医治療の特徴です。

なんとなく漢方薬や生薬のイメージがつきましたか?
森羅万象のすべてに陰陽があるように、薬にも陰陽があります。治療において陰陽の考え方は治療方針のみならず、薬物の効能を分類・理解することにも用いられ、薬物治療の指針ともなります。
次回は、五行学説についてお話しします!

炮製(ほうせい):生薬を加工処理することにより、作用を調整すること。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

<PR>満足度NO.1 薬剤師の転職サイト