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西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!

第27回 五行学説の中医学への応用 (1)五行と五臓の関係

ここまで、五行の正常な関係をあらわす「相生」と「相剋」(第24回)についてと、五行のバランスを崩した関係をあらわす「相乗」と「相侮」(第25回第26回)についてお話ししました。
今回からは、五行学説の人体への応用について学んでいきます。

1. 五行と五臓の関係

中医学では、五行に五臓(ごぞう)を当てはめて考えます。「木火土金水」のイメージが、そのまま「肝・心・脾・肺・腎」の五臓のイメージにつながっています。

中医学の五臓のうち「肝(かん)・心(しん)・肺(はい)・腎(じん)」の4つは、西洋医学の「肝臓・心臓・肺・腎臓」と似た働きもありますが、異なる部分もあります。
特に残りのひとつ、「脾(ひ)」は主に消化器系のことを指し、西洋医学の「脾臓」とは異なりますので注意が必要です(肝・心・脾・肺・腎の詳しい内容は、今後別の回でお話しします)。

西洋医学の「肝臓・心臓・脾臓・肺・腎臓」などは、臓器そのものを指し、「解剖学的な分類」であるのに対し、中医学の「肝・心・脾・肺・腎」は、解剖学的な分類ではなく、体の中でどういう働きをするかという「機能の名称」を指します。二者は指している内容が異なるので注意が必要です。
見分け方としては、「肝」や「心」の後に「臓」がつけば現代医学の臓器の話、「臓」がつかなければ中医学の五臓六腑の話、として良いかと思います。

なぜ、このような混乱をまねく事態になってしまったのかというと、江戸時代に杉田玄白らが翻訳した「解体新書」がそもそもの始まり……と言われています。
当時、日本には中国から伝来した中医学が既にあり、「肝・心・脾・肺・腎」などの中医学用語が先にあった用語でした。そこへ、オランダ語の解剖図「ターヘル・アナトミア」を杉田玄白らが翻訳する際、解剖図に書かれた「臓器名」に相当する言葉が日本になかったため、中医学の五臓六腑から拝借したのです。それ以降、現代に至るまでややこしい状態が続いています。

・木=肝のイメージ

中医学の「肝」は、「血(けつ:血液)」を貯蔵し、「肝血(かんけつ:肝に貯蔵された血液)」で全身を潤して栄養を与える働きのほか、「全身の気や血を巡らせる働き」があるとされています。

肝血が充分にあると、体の隅々まで栄養がいきわたり、髪の毛や肌もパサつかずに潤い、筋肉や腱の伸び縮みもスムーズにおこなえます。

また、肝の働きは精神情緒系の安定や自律神経系の調節と深く関係しているため、ストレスフルな人は、ダイレクトに肝に影響があらわれます。肝が健康であれば、気や血は滞りなくサラサラと流れ、気持ちもスッキリと過ごすことができます。

古代中国の人々はこういった肝の働きに、樹木の伸びやかに生長する・よく曲がるけれど折れないイメージを重ねました。

・火=心のイメージ

中医学の「心」は、全身に血液を送り出すポンプとして、血液循環の“要(かなめ)的存在”であるほか、思考や精神活動としての「心(こころ)」を司っているとされています。
また、心陽(しんよう:心の陽気)は人体の陽のなかで、とても重要な存在です。

一方、光や熱を意味する「火」は、自然界の動植物にとっては無くてはならない存在です。そういった自然界における火のイメージが、人体における心のイメージと重なったのでしょう。

・土=脾のイメージ

中医学の「脾」はおもに消化器系を指し、「気血生化(きけつせいか:気・血を生み出す)の源」とされています。

飲食物を消化・吸収する脾の働きは「大地がすべてを受け入れ、万物を生み出す源であるイメージ」にとてもよく似ています。

・金=肺のイメージ

中医学の「肺」は空気が出入りしているところ、空気の触れる場所をすべて含みます。西洋医学の「肺」はもちろん、鼻・粘膜・気管支・皮膚なども「肺」の一部です。

肺は外気と通じているため、外気の影響を受けやすく、清潔な状態を好みます。空気が冷たかったり汚かったりすると、気管支炎・カゼ・アレルギー症状など、「肺」のトラブルがあらわれます。

このような肺の特徴は、外気の影響を受けて変色などの変化が起きやすく、清潔な状態を好む金属のイメージと重なります。

・水=腎のイメージ

中医学の「腎」は、生命活動を維持するエネルギー源である「精(せい)」を貯蔵し、体内の水分代謝をコントロールする働きなどがあります。

一方、水は、冷たく潤し、低きに流れて下行し、しまい込む性質があります。このような水の性質と腎の働きがよく似ていることから、「腎」は「水」に属します。

このように、人体の内臓を五行に分類することで、五行の特性によって五臓の生理機能を説明することができます。

次回は、五臓間の相互の生理作用(健康な状態)について、お話しします。お楽しみに!

<閑話休題> 美人薄命

一度は耳にしたことがある「美人薄命」という言葉。意味は、「美しい人は、病弱であったり、数奇な運命だったり、短命な者が多いこと」らしいです。竹久夢二が描くようなほっそりした柳腰の色白女性のイメージが近いかもしれません。

さて、肺結核の女性の患者さんは色が白くてきれいだった、と耳にしたことがあります。
中医学的には、色白は“肺経絡の弱さ”をあらわします(ちなみに、貧血により色が白い場合は、唇や瞼の裏まで白くなるのが特徴です)。
鼻・気管支・肺・皮膚・粘膜・大腸が弱く、花粉などのアレルゲンや細菌・ウィルスなどの外界からの刺激に影響されやすく、「カゼなどの感染症にかかりやすい・アレルギー性鼻炎・皮膚が弱い・アトピー性皮膚炎・気管支が弱い・喘息など」は、すべて“肺”のトラブルと中医学では考えます。

こういった肺系統の弱さをもつ人の、透き通るように色白で、皮膚が薄く、儚げで悲しくなりやすい特徴は、現代も変わらない……のかもしれません。

中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、イスクラ中医薬研修塾、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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