“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第53回 漢方の便秘薬は安心・安全?

便秘や下痢に悩む人は多く、漢方薬局へ相談にいらっしゃる患者さんもいます。「漢方の便秘薬は安心・安全」「生薬配合だからお腹にやさしい」といったイメージがあるようですが、果たして本当にそうなのでしょうか? 今回は中医学からみた「便秘」の状態と改善法について紹介します。

目次

中医学から見た「便秘」と「いいウンチ」

「便秘」といっても、自覚症状は人それぞれです。1週間排便しなくても平気な人もいれば、1日排便しないだけで苦しくなる人もいます。排便はあっても、残便感を感じる人もいるようです。

多くの患者さんや医療従事者は、「便秘とは3日以上便が出てない状態」と認識している印象ですが、これは日本内科学会による定義であり、学会によって定義はそれぞれ異なります

「何日も排便しないのが当たり前になっている」という方もいますが、便通間隔が5日以上空くような重症の便秘の場合、大腸がんのリスクを高める可能性も示唆されていますJACC Studyによる)。重症化する前に改善することが大切です。

漢方の世界では、1日1回便が出なければ「便秘」と考えます。さらに、バナナ状の便がスルンと気持ちよく出て、排便後はスッキリしていなければいけません。「バナナ状」というのがポイントで、つまり「硬すぎず柔らかすぎず」「細くもない」形状で臭いはきつくなく、黄色~黄褐色が正常です。便器に便のあとが残らず、トイレットペーパーにもそれほど便がつきません。そのうえ便が水に浮けば言うことなしで、理想的な状態です。

1日に2~3食、しっかりした量で質の良い食事を摂っていれば、直径約2.5cm・長さ約30cmの便が1日に2回、または約50cmの便が1回出るのが理想です。「質の良い食事」とは、西洋栄養学的な栄養バランスだけではなく、体質に合った食養生すべてを指します(詳しくは後述の便秘のタイプ別処方をお読みください)。

便秘に悩む人の中には、そもそもの食べる量が少なくウンチの材料が不足しているという場合があります。このタイプは、小食の高齢者やダイエット中の方に多く見られます。

体質に合っていて、かつ、栄養バランスのとれた十分な量の食事を摂り、消化器系がきちんと機能していれば、いいウンチが毎日コンスタントに出ることが「当たり前」です。出ていないとしたら、①食事の内容か②消化器系を含め身体のどこかに問題があるということになります。

便意を我慢していると、便秘でない人も便秘になってしまいます。便意を感じたら、何はともあれトイレに直行すること! ただのオナラかもしれませんが、それでもかまいません。便意があるときは、それを見逃さない、軽くみないことが大切です。

生薬配合の便秘薬ならやさしいの?

では、便秘を改善するにはどうすれば良いのでしょうか。

漢方薬局ではいわゆる下剤・便秘薬を、安易にすすめません。市販されている「生薬配合の便秘薬」にもたいてい配合されている大黄(ダイオウ)やセンナの葉は、中医学では「瀉下薬(※)」に分類され、これらはあくまでも便秘の対症療法にすぎないからです(「便秘の」とあえて書いたのは、便秘以外の治療で大黄などの下剤を積極的に使うこともあるからです)。
※瀉下薬(しゃげやく)…通便により病邪を排出したり、便秘を緩和したりすること

また、下剤・便秘薬を使用することに腸が慣れてしまうと、腸の働きは低下してしまいます。そもそも、大黄やセンナ葉は強い寒性の性質をもっていて、身体全体、特に胃腸を冷やすため、腹部や下半身が冷えやすい女性は慎重に使用しなければなりません。そのため、漫然と下剤や便秘薬を用いるのではなく、体質改善のアプローチをして根本的に治すことをおすすめします。

体質改善のなかで便秘が解消されることも

漢方薬局では、下剤の成分を含まなくても、体質改善のための漢方薬を飲んでいるうちにいつの間にか便秘が解消されていたということがよく起こります。例えば、月経前症候群(PMS)改善や不整脈改善などのために漢方薬を飲んでいて、体質改善が進んだ結果、便秘が解消したというケースです。よほど重症の便秘でない限り、たいてい便秘は主訴よりも早く改善します。

便秘が重症の場合やご高齢の患者さんの場合などは、大黄・芒硝(ぼうしょう)・センナの葉・センナの実を含む下剤を併用しながら体質改善を進めます。ただし、ご高齢の方や病状によっては、下剤や浣腸だけを使用することもあり、ケースバイケースです。

便秘の原因は主に5タイプ

便秘の症状は人によってさまざまです。中医学では、便秘を主に5つのタイプに分けて考え、その原因となる体質改善を行います。

<便秘になりやすい5タイプ>

(1)潤い不足タイプ(陰血不足/いんけつぶそく)
(2)脾弱(ひよわ)タイプ(脾胃気虚/ひいききょ)
(3)冷え冷えタイプ(脾腎陽虚/ひじんようきょ)
(4)気の滞りタイプ(肝脾不和/かんぴふわ)
(5)熱こもりタイプ(腸胃熱盛/ちょういねつせい)

(1)潤い不足タイプ(陰血不足/いんけつぶそく)

血や津液(血液以外の体液)などの身体全体の「潤い」が不足しているタイプ。このタイプは、全身の皮膚や粘膜が乾燥しやすくなります。腸壁も乾燥して便の滑りが悪く、乾燥したコロコロ便なのが特徴です。

潤い不足の原因は、脾胃虚弱、出血、夜更かし、セックスのし過ぎ、唐辛子などの辛いものの摂り過ぎ、温燥性の薬物の摂り過ぎ、サウナやホットヨガなど負荷のかかる発汗のし過ぎなどさまざま。潤いを補う作用のあるトウキ・シャクヤク・ジオウ・バクモンドウや、潤腸通便作用のあるキョウニンやマシニンなどを用います。

(2)脾弱(ひよわ)タイプ(脾胃気虚/ひいききょ)

もともと胃腸虚弱で消化吸収する力が弱いタイプ。腸の蠕動(ぜんどう)も弱いため、ウンチを形づくり押し出す力が足りません。疲れやすく、精神的にも肉体的にもパワーが不足しています。

このタイプは消化器系に負担をかけないことが大切なので、生冷飲食(生もの、冷たいもの)や肥甘厚味(あぶらっこいもの、味の濃いもの、甘いもの)、辛い飲食などの刺激物を避けましょう。消化の良いものを、必ず火を通して「温かい」状態で、よく噛んで食べましょう。消化器系の気を補うニンジン・ビャクジュツ・タイソウなどの生薬を用いて体質改善します。

脾胃気虚タイプは、「気の固摂作用(体液や内臓をあるべき場所に保持する作用)」の弱さが際立つと、下痢になる人もいます。下痢の改善に際しても、養生の注意点や体質改善の漢方薬は同じです。病の本質が同じ(この場合は脾胃気虚)なので、症状が異なっても治し方は同じです。これを「異病同治(いびょうどうち)」と言います。

(3)冷え冷えタイプ(脾腎陽虚/ひじんようきょ)

お腹が冷えて、消化器系の機能が低下するタイプ。もともと身体を温める陽気の力が弱く、冬になると便秘になりやすく、冷えると悪化します。 (2)脾胃気虚タイプと同じく「気の固摂作用」の弱さが際立つと、下痢になる人もいます。

脾腎陽虚タイプの便秘・下痢の原因は、冷たい飲食物の摂り過ぎ、寒薬(身体を冷やす薬)の摂り過ぎなどです。身体を温めるケイヒ・ニンジン・カンキョウなどの生薬を用いて改善します。(2)脾胃気虚タイプが慢性化・悪化して、このタイプに移行したりします。脾腎陽虚タイプの食養生は基本的には脾胃気虚タイプと同じです。

(4)気の滞りタイプ(肝脾不和/かんぴふわ)

不満やストレスにより気の巡りが悪くなり、排便しにくくなるタイプ。緊張や長時間同じ姿勢をとるデスクワークなどが原因で気血の巡りが悪くなり、消化器系の働きも滞ります。出勤日は便秘ぎみだけど、休日は出るという人もこのタイプに該当します。

便秘があるとオナラが出やすくなりますが、このタイプは特に出ます。女性の場合は、排卵期や月経前に便秘が悪化する傾向にあります。逆に下痢に偏ることもあり、ストレスや緊張によって腹痛になるのはまさにこのタイプ。下痢と便秘が交互にくる人もいます。

便秘も、下痢も、便秘と下痢の両方でも、治し方は基本的に同じです(=異病同治)。気の巡りを良くするサイコ・キジツ・シャクヤクなどを用いて体質改善します。気の滞りからくる月経前症候群なども一緒に改善することが多いです。とにかく毎日ゴキゲンに、リラックスして過ごすことを第一にするとよいでしょう。

(5)熱こもりタイプ(腸胃熱盛/ちょういねつせい)

腸に熱がこもることで潤いが蒸発し、腸壁が乾燥しているタイプ。乾燥して硬い便が特徴です。原因は肥甘厚味や辛いものの食べ過ぎ、温燥性の薬物の摂り過ぎ、熱邪の侵入、肺熱が腸にうつることなどです。

このタイプの体質改善には熱を取り去るオウゴン・サンシシ・セッコウ・ジュウヤク(どくだみ)などの生薬とともに、場合によっては大黄やセンナ葉なども積極的に用います。

肺グループのトラブルは、便が通ると改善しやすい

中医学では大腸と肺は深く関係していると考えています。ですので、深呼吸の習慣がとても大切です。肺は呼吸を通して全身の気をつかさどっているため、肺気が通ると、力まずとも便が出やすくなります

肺グループの治療でも、便の状態に特に注意します。風邪やインフルエンザなどの感染症による高熱、咳や気管支喘息、アトピー性皮膚炎や慢性湿疹といった肺グループのトラブルがある人は、詰まっている便を通すことによって改善されやすくなります。

便秘で悩む人はとても多いですが、中医学的には、機能性便秘はそれほど難しくはありません。一時しのぎに頼らずに、一度自分のからだのサインを受け取って、根本から「本当に治す」ことをおすすめします!

参考文献:
・中国国家中医薬管理局中医師資格認証センター(編著)、陳 志清・路 京華(監修)、武藤 勝俊・陳 志清(翻訳)『中医内科学』たにぐち書店 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年

「薬読」編集部より

「便秘」そのものの症状を改善するよりも、体質改善を通して症状を緩和していくという中医学の考え方が参考になったのではないでしょうか。患者さん一人ひとりに合った体質改善を提案したい薬剤師には「漢方薬・生薬認定薬剤師」の資格取得がおすすめです。漢方薬を用いた薬物療法を有効かつ安全に行うことのできる薬剤師として認められます。

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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