“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第55回 健康で美しい髪を手に入れる養生&生薬

漢方薬局では「美容にいい漢方はありますか?」という質問をよくいただきます。答えは「イエス!」です。その人にとって必要な漢方薬を飲んだり養生をしたりすれば、特別なことをしなくても自ずと肌も髪もキレイになっていきます。今回は「中医学における髪」と「髪トラブルの養生・生薬」について紹介したいと思います。

目次

1.中医学における「美容」とは

「美容と健康」という言葉はよくワンセットで耳にしますが、本当にその通り! 中医学では「身体の内側の状態は、身体の外側にそのまま反映される」と考えます。「健康」であるならば心も体も同時に健康だし、どちらか一方にトラブルがあれば(本人の自覚はなくとも専門家がみれば)もう片方にも必ずトラブルがあります。「心(神)」と「体(形)」を分けずに考えることを「形神統一」といって、中医学の大切な視点です。

美容についても同じで、中医学では、髪や肌をその部位のみで考える対処はしません。その人の心と体の状態、五臓六腑全体の状態、月経周期の影響、季節の影響など外界と人体の調和も考えます。美髪を目指すうえでも、ひとりひとりの体質によって原因が異なるため、対処法は違ってくるのです。

2.中医学では髪をどうとらえるの?

中医学には、以下のような髪に関する最も基本的な認識があります。

腎の華(はな)は髪に在り…腎の状態は髪に現れる
髪は血余(けつよ)…人体に血が充分あって、きちんと流れていれば、その余りが髪に行き届く

つまり、髪には「腎に貯蔵されている精(腎精:じんせい)(※)」や「肝に貯蔵されている血(肝血:かんけつ)」の状態が反映されます。

※腎精(じんせい):人間の生命活動を支える最も根本的な力は腎に貯蔵されていて、それを「腎精(じんせい)」「腎中の精気(じんちゅうのせいき)」と呼びます。

詳しく知りたい方は「第35回 人体を作る気・血・津液とは⑶気の種類」を読んでください。

3.髪のトラブルの原因

「腎精」と「肝血」を合わせて、「精血」といいます。美しい髪は、①充分な精血があること、②その精血がすみずみまで巡って行き届くことでつくられます

精や血が少なくなると、その分配は生命維持に集中し、髪や爪などの末梢の器官まで行き届かなくなり、その結果が髪のトラブルとして現れます。髪のトラブルがあるということは ①または②の条件が満たされていないということですが、原因は人それぞれです。

養生したり漢方薬を飲んだりして、抹消である髪の状態が回復したならば、全身が潤ったというサインでもあります。

4.髪のトラブル タイプ別の漢方・薬膳

髪の病的なトラブルは、主に「虚証タイプ」「実証タイプ」に分けられます。両者が混在することも多々あります。精血が不足していることもあれば(虚証)、精血があっても経絡の流れが悪くて行き届かなかったり、邪魔者があるせいで精血が頭皮・髪に行き届かなかったりすることもあります(実証)。虚証の治療は不足しているものを補うこと、実証の治療は滞りを巡らせたり通したり、邪気をどかしたり追い出したりすることが原則となります。詳しくは「第3回 日本漢方と中医学で異なる『虚実』の考え方」で解説しています。

そのほかにも、紫外線、ドライヤーの温風、塩素、パーマ液など髪にダメージを与えるものは身の周りにたくさん存在します。これらの外的要因による影響も精血の不足している人ほど受けやすく、ダメージの現れ方が大きかったり回復に時間がかかったりします

今回はおおまかに下記の4つのタイプの体質に分けて、起こりやすい髪のトラブルとおすすめの漢方・薬膳についてお話しします。

〈4つの体質別・髪のトラブルと養生法〉

⑴ストレスで気血の巡りが悪い:肝鬱血瘀(かんうつけつお)タイプ

「肝」の気の巡りが悪くなっているタイプです。気の流れが悪いと血の流れも滞りやすく、髪に栄養が行き届きづらくなります。

女性の場合は、イライラや落ち込みなど「肝気鬱結(かんきうっけつ)=略して肝鬱(かんうつ)」があるとPMS(月経前症候群)の情緒不安定や胸の張りが現れやすく、「血瘀(けつお・血の滞り)」があれば月経血に塊が混じる症状や月経痛が現れることが多いです。

◆髪のトラブル
脱毛、白髪など
◆髪以外のトラブル
・ストレスや不満が多い、イライラ、怒りっぽい、せっかち、落ち込む、憂鬱
・悩み事があって寝つけない、悩みが頭から離れず寝ても疲労感が残る
・脇や脇腹が痛む、頭痛
・舌の色が暗め、舌に瘀点または瘀斑(紫色っぽい点状やシミ)がある
・脈弦(みゃくげん:反動性のある緊張の強い脈)または脈渋(みゃくじゅう:脈拍が滑らかでなく、ナイフで竹を削るように引っかかったように触れる脈)
◆養生法
・なるべくごきげんに気分よく過ごす
・香りの良い生薬や食材で気の巡りを良くする
【紫蘇の葉、セロリ、ローリエ、カルダモンなどのいい香りのハーブ類、柑橘類、生薬なら柴胡(さいこ)、薄荷(はっか)、香附子(こうぶし)など】
・いい香りで気分がスッキリするお茶・食材・アロマテラピーを生活にたくさん取り入れる
【ジャスミンティー、ローズティー(玫瑰花※)、アールグレイティーやミントティー、菊の花茶など】
・血の巡りを良くする食べ物を摂る。ただし、血行を良くする薬食のうち温熱性の薬食は、身体に熱がこもっているときは摂らないほうがいいこともあり専門家に相談が必要。
玫瑰花(まいかいか:バラの花・ハマナスのつぼみ)、山査肉(さんざし)、ターメリック、サフラン、黒酢、黒米、黒豆、黒きくらげ、黒砂糖、納豆、玉ねぎなど。生薬は丹参(たんじん)、川芎(せんきゅう)、紅花(べにばな)など】

⑵頭皮や髪がベトベト:湿熱(しつねつ)タイプ

暴飲暴食をしたり、肥甘厚味(ひかんこうみ:脂っこいもの、甘いもの、味の濃いもの)、生冷飲食(せいれいいんしょく:生のもの、冷たいもの)、刺激物(アルコール、辛いもの)などを摂り過ぎたりすることにより体内に「湿熱(しつねつ:湿邪と熱邪が合わさったもの、余分な湿気や熱)」が停滞しています。

たまった湿熱が頭皮にも影響して、脱毛が起こりやすくなります。脂漏性皮膚炎が関係する脱毛もこのタイプに関係することが比較的多いです。

◆髪のトラブル
頭皮が脂っぽい、抜け毛が脂っぽい、(場合によっては)頭皮が赤い、吹き出物や湿疹、痒みなど
◆髪以外のトラブル
・口臭、口内が渇くまたは粘る
・便秘または便がゆるめ(便器にくっつく)
・舌の紅みが強い、舌にベタッとした黄色い苔がある
・脈滑数(みゃくかつさく)
◆養生法
・胃腸に負担をかけないよう「腹七分目」を意識する
・肥甘厚味・生冷飲食・刺激物を避ける
・薄味で消化に良いものを選ぶ(消化器系の症状がある人は、時には一食抜いたり、夜の食事を少なめに)
・おすすめ食材は、わかめ、昆布、ヒジキなどの海藻類、冬瓜、金針菜
・おすすめ生薬は、緑豆薏苡仁(ハトムギ)、山査肉(さんざし)、竜胆(りゅうたん)、黄芩(おうごん)、車前子(しゃぜんし)など

⑶髪の栄養をうまく作り出せない:気血不足タイプ

慢性的に気血が不足している「気血両虚(きけつりょうきょ)」タイプです。このタイプは胃腸虚弱だったり思い悩みやすかったりして、食べても太れない、消化不良を起こしやすい、消化吸収力が弱くエネルギーを作り出すことがうまくできないなど、「脾気(ひき=消化器系のチカラ)」の弱さが目立ちます。脾は気血をつくりだす中心的な役割を担っているため、脾が弱いと慢性的に気血が不足します(脾は気血生化の源)。多夢、不安感、健忘など「心血(しんけつ)」の不足による症状があらわれることも。

◆髪のトラブル
髪が細くて弱い、乾燥してパサパサしている、ツヤがない、白髪、脱毛、頭皮が乾燥しているなど
◆髪以外のトラブル
・疲れやすい、精神的・肉体的にパワーが足りない
・消化器系が弱い
・眠りが浅い、夢を多く見る、健忘
・心配性、不安感、思い悩みやすい
・顔色が淡白~くすんだ黄色、唇や爪の色が薄くツヤがなく乾燥している
・皮膚が乾燥している
・舌の色が淡い(薄い)
・脈細弱
◆養生法
・脾胃(消化器系)が弱い人は、肥甘厚味、生冷飲食、刺激物、暴飲暴食を避けてよく噛むこと
・薏苡仁(ハトムギ)と粟(アワ)で作ったお粥を食べる
・胃もたれなど消化不良があるときは食事量を減らす
・生薬は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、薏苡仁(よくいにん)
・気血を補う食材は、なつめ、桑の実、黒きくらげ、大豆・黒豆などの豆類、ウズラの卵、鶏卵、干しブドウ、小松菜、山芋、粟、蓮の実、ひじきなど
・安神作用(あんじん:心を養い精神を安定させる作用)があるものは、竜眼肉、なつめ、蓮の実、小麦、ココナッツ、ひじき、ゆり根など
・気血を補う作用と安神作用の両方がある竜眼肉となつめは、砂糖なしのドライフルーツにしたものをおやつ代わりに食べるのも良い

⑷髪の栄養(=精血)の消耗が目立つ:精血不足(せいけつふそく)タイプ

「精血不足」=「肝腎不足」タイプです。「肝に貯蔵されている血(=肝血)」と「腎に貯蔵されている精(=腎精)」は、必要に応じて互いに転化しあう関係にあるため、肝と腎は切っても切れない関係にあります。詳しくは「第36回 人体をつくる気・血・津液とは⑷血(けつ)の生成」で解説しています。

精血の生成不足・消耗・巡りの悪さは、加齢、慢性的な病気、虚弱体質のほか、夜更かし、睡眠不足、過度なストレス、過労、栄養バランスの悪い食事、体質に合わない飲食、ダイエット、過度な性生活などの不摂生から引き起こされます。

また、妊娠・出産・授乳を経た女性から「ドサッと髪が抜けた」「白髪が生え始めた」という訴えをよく聞きます。これは女性の生殖が肝血や腎精と関わりが深いからです。精血を補って巡らせることは、髪のケアだけでなく、産後ウツの予防や質・量ともに良いお乳にもつながります。また、毎月やってくる生理によって強制的に血が失われるため、女性は男性に比べて「血の不足」が起きやすいといえます。

「腎精」は足りなくなることはあっても、多すぎることはありません。貯えがあればあるほどいいものです。「腎」に貯えられている生命エネルギーの源である「精」は、「先天の精(両親から受け継いだ生命エネルギー)」と「後天の精(飲食物と呼吸から得たエネルギー)」を合わせたもの。先天の精を貯蔵しているため、遺伝的な要因による髪のトラブルも腎を補う養生が中心となります。

腎精は赤ちゃんとして生まれてから徐々に増えて、20~30代で貯えはピークを迎えます。女性の場合35歳を過ぎたあたりから徐々に減っていき、更年期を迎えてさらに減少し、老化を実感するようになります。腎精が充実していて消耗が少ないほど、老化のスピードは遅く、アンチエイジングできているということになります。

◆髪のトラブル
白髪の慢性化、脱毛、髪の生え際の脱毛、ツヤやコシがない、ボリュームがないなど
◆髪以外のトラブル
・足腰がだるく弱い
・更年期などホルモン分泌の減退
・皮膚や鼻・のど・口など粘膜の渇き
・耳鳴り
・健忘
・舌苔がないか少ない
・舌の色が淡い、舌苔が少ない
・脈沈細
◆養生法
・夜ふかしや栄養バランスの悪い食事などの不摂生をしない
・生薬は、地黄(じおう)・枸杞子(くこし)・製何首烏(せいかしゅう)・桑椹(そうじん)・胡麻仁(ごまにん)・旱蓮草(かんれんそう)・女貞子(じょていし)・黄精(おうせい)・山薬(さんやく)などがおすすめ
・腎や髪を補う食材は「ヌルヌル食材」と「黒い食材」に多い。例えば、やまいも類(長芋でも自然薯でも)などのヌルヌル食材、桑の実、黒豆、黒胡麻、黒きくらげ、黒豆、ひじき、椎茸など
・金針菜、枸杞の実、松の実、クルミなどのナッツもおすすめ

以上、4つのタイプ別にあらわれやすい髪のトラブルと養生法を見てきました。養生法で紹介した食材や生薬はスーパーや漢方薬局で手に入るものも多いのでぜひ試してみてください。

中医学の良いところは、美髪・美肌を目指すには内臓から改善する必要があるため、見た目の美しさが目的でも身体の根本から改善される点です。五臓六腑・気血津液のバランスが整うことは、自律神経や精神情緒の状態も良くなることを意味します。髪をきっかけに、ぜひ自分の身体や生活全体を見直してみてください。

参考文献:
・菅沼伸(監修)、菅沼栄(著)『いかに弁証論治するか【続編】』東洋学術出版社 2008年
・小金井信宏(著)『中医学ってなんだろう①人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
・傅杰英(編著)『中医美容』北京科学技術出版社 2000年
・彭銘泉(主編)『美容痩身薬膳』四川科学技術出版社 2001年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための方剤学』医歯薬出版株式会社 2004年・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・伊藤良・山本巖(監修)、神戸中医学研究会(編著)『中医処方解説』医歯薬出版株式会社 1996年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、医学気功整体師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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