“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第58回 生薬の足湯でリラックス!

新型コロナウィルス感染症により今までの日常がガラリと変わり、ストレスを抱える方も多いと思います。こんなときこそ、おうちでリラックスして心身をいたわり、ストレスやウイルスに負けない免疫力を養いたいものです。今回は漢方の生薬を用いた「薬湯・足湯」についてお話しします。

目次

1.中医学の外用薬とは

外用薬といえば皮膚や粘膜のトラブルに用いる軟膏剤などが思い浮かびますが、中医の外用薬はその範囲にとどまりません。しかし残念なことに、その臨床応用は日本へはあまり伝わっていません。

点眼薬、耳、鼻、歯や歯茎、外傷・火傷・褥瘡(床ずれ)、その他皮膚疾患などの皮膚や粘膜のトラブルにも用いるのはもちろん、月経不調などの婦人病、頭痛、足腰痛、高血圧などの「内科」に属する病に対しても外用薬があります。

2.日本で一般的に用いられる漢方の外用薬

日本の漢方薬局で一般的に用いられるものの例として、紫雲膏(しうんこう)・中黄膏(ちゅうおうこう)・神仙太乙膏(タイツコウ)などの軟膏剤や、昔ながらの伝統薬として糾励根(キュウレイコン)などの湿布薬が挙げられます。紫雲膏・中黄膏は世界で初めて全身麻酔による手術を成功させた江戸時代の名医・華岡青洲(はなおかせいしゅう)先生が作った軟膏です。(第51回参照)

漢方の外用薬はどれも匂いや色が特徴的で、現代的な塗り薬や湿布剤にくらべると個性があって扱いづらいです。しかし、初めは敬遠していた人も慣れたらリピーターになることから、よく効いていることがわかります。

紫雲膏などの外用薬は、漢方薬局に来る患者さんはすでに使ったことがある人が多いのですが、医療従事者の間ではまだまだ一般的ではないと感じます。

たとえば筆者が学生の頃に実習で、病院内の「褥瘡(じょくそう)対策委員会」の先生たちと病室を回ったときのことです。絶句する程ひどい褥瘡の患者さんに出会い、本当に気の毒でした。一方で、個人的にお願いした漢方薬局での実習では、初期の褥瘡であれば漢方の外用薬や内服薬でスッキリ治せることも目の当たりにしていました。

そこで先生に「褥瘡の初期に紫雲膏を外用したり、煎じ薬を内服したりすれば、ここまで悪化する前に治せると思うのですが、どうしてしないのですか?」と質問したところ、「シウンコウって何?」と言われて大変驚いたことを覚えています。

 

3.内服する生薬のほとんどは薬湯にも使える

生薬は日常のさまざまなシーンで活躍します。塗り薬に貼り薬、化粧水や薬湯に用いたりもします。ドラッグストアでは“和漢成分配合”などとうたわれた化粧水・美容クリーム・シャンプー・育毛剤・入浴剤など、生薬成分が配合されたものをよく見かけます。

以前、体質改善の煎じ薬を服用している70代後半の女性で、化粧品をまったく使っていないのにツヤツヤ美肌の方がいました。美肌の秘訣を尋ねてみたら、「煎じ薬の出がらしを熱湯に浸しておいたものを、お風呂あがりに顔全体にパッティングしている」とのことでした。

私の家族は赤ちゃんの頃に皮膚トラブルがあったのでドクダミのお風呂に入れられていましたが、今はなぜか私よりスベスベ肌です。このように、内服する生薬の大半は外用薬としても用いることができます。

4.足湯がおすすめな理由

足湯は数千年の歴史がある養生法です。足湯についての記述のあるもっとも古い文献は晋代(265年 – 420年)の『肘後備急方』と言われています。全身浴と比較して体質や状態を選ばないので、誰にでもおすすめできる養生法です。

そして、人間の足は“第二の心臓”と言われます。中国の古代医学書に、『人之有脚,犹如樹之有根,樹枯根先竭,人老脚先衰。(樹には根があり、根が枯れると根から先に尽きるように、人には足があり、人は老化すると足から先に衰える)』という言葉があります。

全身を巡る12本の経脈のうち、足には3つの陽経の終点と3つの陰経の始点があり、足首の下には60個以上のツボがあります。足湯によって、これらの経脈やツボを刺激することで、全身を巡る経絡・気血の流れを促進し、臓腑を調整し、身体を強く健康にして病邪を取り除きやすくできます。

足は心臓から最も遠く、人体の最も低い位置にあります。それゆえ、末梢の血液循環が貧弱になりがちですが、足湯によって経絡・気血の流れを促進し、毛細血管の流れを改善し、全身組織の栄養状態や新陳代謝を改善することができます。

全身浴はともすれば身体の表面だけを温めて内臓に負担をかける可能性がある一方で、足浴は、内臓から一番遠い足から調整することで、経絡を通じて内臓を調整し、内臓から温めることができます。慢性病・冷え性・低体温症・自律神経失調症・不眠症・現代人のストレスによる諸症状などにも効果的です。

5.足湯の方法

では、おうちで簡単に実践できる効果的な足湯の方法を見ていきましょう。

「膝から上は着衣のまま、約40℃のお湯に、ふくらはぎ位までを約20~30分間ひたす」。たったこれだけです。足湯に特化したフットバスなども販売されていますが、バケツで充分代用可能です!

上記は目安ですので、お湯の温度(38℃~42℃)や、ひたす高さ(必ず膝より下)、時間などは様子をみながら自分で調整しましょう。じんわり汗をかくくらいが、ちょうど良いです。お湯の温度が下がった時のために、あらかじめたし湯を用意しておくと便利です。

足湯中や直後は、体を冷やさないことが大切です。強い風やエアコンに当たらないようにしましょう。また、汗冷え防止に着替えやタオルを用意しておきます。空腹時・食直後の足湯・水温が高すぎる足湯は避けましょう

特に、汗をかけない・かきづらい体質の人は、夏がくる前(春~梅雨のころ)に、足湯で内臓を温めて軽く発汗できるようにしておくと、汗腺が開きやすくなり、夏の熱中症予防にもつながります。

 

6.足湯におすすめの薬湯

先述したように、内服用に用いられる大抵の生薬は足湯にも使えます。神経衰弱・不眠症・胃腸トラブル・頭痛・足腰痛など、さまざまな症状・疾患に対して薬湯の足浴はおすすめです。

薬湯の足湯は、全身浴とくらべて、使用する生薬量も少量なので経済的です。煎じ薬を服用中の人は、その出がらしを足湯に浸して使うのもよいでしょう(煎じ薬そのものに浸すよりも効果は落ちます)。

薬湯で足浴するときは、生薬を水に浸して約10~20分間煮出してできたエキス(煎じエキス)をお湯に加えます。量は、足湯用のバケツ1杯のお湯に対して、葉っぱ系の生薬であれば、大人の手でガシッと一掴みくらいです。生薬の種類によって使用量は違います。より詳しく知りたい方は、購入した店舗で聞いてみてください。

煎じる手間をかけたくない場合は、ひとつかみの生薬を、手ぬぐいなどの布・だしパック・お茶パック・排水溝ネットなどに包んで、しばらくお湯にひたしておくといいでしょう。

次に、足湯におすすめの薬湯を紹介します。

【お酢の足湯】
血液を浄化し、美白、シミ、睡眠障害に効果的。足の臭いが気になる人におすすめ。
【花椒の足湯】
花椒(ホワジャオ・カショウ)は五臓六腑の冷えを取り除く。温中止痛(お腹を温めて痛みを和らげる)。理気(気を巡らせ)、解毒する。通経活絡(経絡を通して)、免疫力増強、白髪の防止、睡眠の改善、水虫の改善。腹痛を改善し、腎の働きを助ける。
【生姜の足湯】
冷え性、睡眠の改善、シミ、足の臭い、冷えて生理痛が気になる方に。
【塩の足湯】
記憶力アップ、老化防止、足荒れ防止、むくみの改善に。
【よもぎ(艾葉:がいよう)の足湯】
冷え性、咳や痰、皮膚の痒み、皮膚のアレルギーに。
【どくだみの足湯】
どくだみは「十薬(じゅうやく)」「魚腥草(ぎょせいそう)」とも呼ばれ、解毒作用があり、皮膚の赤み・炎症・痒みを緩和する。
【桃の葉の足湯】
桃の葉は「あせも知らず」として昔から民間薬で有名。「あせも」に用いる。赤ちゃん用に桃の葉が配合されたローションなども市販されている。内服はせず、基本的に外用で用いる。
【ベニバナ(紅花:こうか)の足湯】
血流改善。
【薄荷(ハッカ)の足湯】
薄荷に限らず、自分が「いい香り」と感じるものには「気」を巡らせる作用があり、ストレス解消に良い。睡眠障害、イライラ、憂鬱に。そのほか、のどや眼の痛み・痒み・鼻づまりにも。

そのほか、カモミールや柑橘類の皮など、いい香りのハーブをお湯に浮かべると、ハッカと同様に「気を巡らせ、ストレス解消」が期待できます

内服する生薬のほとんどは薬湯にも使えますので、専門家に体質を相談して、自分に合った生薬(1袋500グラム入り)を選んでもらうのが一番おすすめな方法です。自分にぴったり合った生薬を選べるだけでなく、毎日継続するならコストパフォーマンスが高いためです。

「いろいろな薬湯を試してみたい!」という方は、生薬問屋さんやメーカーが販売している薬草パックがおすすめです。メーカーによって生薬の組み合わせはさまざまで、色や香りも違いますから、いろいろ試して好きなものを見つけてください。

個人的には、老舗の生薬問屋さんの製品がおすすめです。HP等で創業年やお店のこだわりを確認してみましょう。そういう問屋さんは生薬の品質が高く、生薬量も惜しげなくたっぷり入っている割に安いです。そしてきちんとした製品には添加物や着色料は一切入っておらず、自然の生薬の材料のみで作られているはずです。興味のある方は、「生薬 入浴剤」などで検索してみてください。

参考文献:
・宋海君(著)『人生の旅の法則(上)』無極自然門 2018年
海南医学院
・王家忠 (著) 『精選800外用驗方』崧燁文化事業有限公司 2018年
・芳 琼 (著)『修脚、泡脚、按摩全集』中国商业出版社 2010年
・傅杰英(編著)『中医美容』北京科学技術出版社 2000年
・彭銘泉(主編)『美容痩身薬膳』四川科学技術出版社 2001年
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、医学気功整体師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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