“漢方”に強くなる! まるわかり中医学 “漢方”に強くなる! まるわかり中医学

知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。

第59回 「山のウナギ」山芋の実力がスゴイ!

山芋は一年を通して買えるのに、「単品ではおかずにならなさそう」「下処理が手間」「日保ちしなさそう」「女性にありがたい効能があるイメージがない」などの理由から、なかなか手が伸びない方もいるのでは?

いやいや、もったいない! こんなありがたい食材はないのですよ!

今回は、具体的な調理法・保存法なども紹介しつつ、秘めたるパワー食材である「山芋」についてお話しします。

目次

1.山芋はスタミナ食材!

「山芋は「山のウナギ」の別名をもち、昔からスタミナ食品とされてきたのを知っていますか? ねばねば・ぬるぬるしてウナギのように掴みにくいことや、栄養価が高く精がつくことから「山のウナギ」と呼ばれるようになったのかもしれません。

山芋とは、ヤマノイモ科のイモの総称と言われています(諸説あり)。長芋(ながいも)・自然薯(じねんじょ)・大和芋(やまといも)などは、それぞれ別の品種ですが、共通点としては「ねばねば・ぬるぬる」していることと、芋類の中で唯一「生」で食べられることが挙げられます。天然のものほど「精」を強く持ち、粘り気が強いほど効果が高いといいます。

日本のスーパーや青果店で一年中出回っている「長芋」は原産地が中国で、日本のものは栽培品のため手に入れやすく、山芋の中でも扱いが簡単で安価です。そして、生薬として使われている品種は、まさにこの「長芋」です。

2.長芋は「食材」であり「生薬」でもある

中医学では薬食同源という言葉があるように、「ここからは絶対に『薬』、ここからは絶対に『食』」というようなパキッとした厳密な区別はありません。おおざっぱに言えば、薬効は高いけれどもさほど美味しくないものを「薬」とし、食べておいしいものを「食」としただけ。

裏をかえせば、「食」としておいしく、「薬」として効果が高い、「はざま的な存在」のものがいくつもあるということになります。その代表格の1つが山芋です。

長芋は「山薬(さんやく)」という名前で、漢方処方に配合されています。わりと有名な処方では、「八味地黄丸(はちみじおうがん)」や「六味地黄丸(ろくみじおうがん)」「参苓白朮散(じんれいびゃくじゅつさん)」などが挙げられます。

3.「山薬」の効能・効果

山薬の効能・特徴をまとめると、「脾・肺・腎の気陰を補う+収渋(しゅうじゅう)作用+平性」。この特徴を見て、「すばらしい!便利!ブラボー!!」となる中医学徒はけっこう多いのではないかと思います。これだけの作用があって、日本全国どこのスーパーでも手軽に手に入る食材はなかなかありません。

「脾・肺・腎」それぞれの「気と陰」を補いつつ、収渋作用により有形のもの(大小便、帯下、精液、赤ちゃんなど)が出るべきではないときに漏れ出てしまうのを防ぐ働きがあります。そして、これらが漏れ出てしまっても、漏れ出たことによって体内から失われた気陰を補ってくれるのです。

脾・肺・腎の気陰を補うことから、老若男女問わず、消化器系・呼吸器系・泌尿生殖器系・ホルモン系などのトラブルに繁用される生薬で、例えば、下痢、頻尿、糖尿病などのトラブル、男女ともに子宝相談などで用いられます。

寒熱にかたよらない「平性」なので熱がりの人にも寒がりの人にも使いやすいのです。

私たち日本人は、滋養強壮食品である山芋を昔から「精をつける」と表現しますが、まさに山芋には「精」を充実させる作用があります。現代では一般的に「精」は、「精力」とか男性の生殖能力のようなイメージをもたれていますが、中医学では赤ちゃんにも、女性にも、ご年配者にも用いる言葉です。

「精」はあらゆる生命エネルギーと関係します。老若男女問わず、腎精(腎に貯蔵された精)の充実度によって、成長・発育・生殖・老化に違いがあらわれます。人によって発育や老け方などに差があるのは、おおざっぱに言えば、腎精の充実度の違いによるためです。

となると「ぜひとも腎精を補いたい!」と思いますよね。一般的に、腎を補う生薬は胃がもたれやすいものが多いのですが、山薬は脾(消化器系)にも効くため、胃腸に負担になりにくいというありがたい側面があります。

中医学の書籍を紐解くと、これらの効能は次のように表現されています。

※小難しい言葉遣いも入りますが、生薬の効能効果はこのように表現されます。4字熟語のような中国語は、【動詞+目的語】が2つ並んだものです。たとえば、“補脾止瀉”は【補(補う)+脾(脾を)】と【止(止める)+瀉(下痢を)】で「脾を補って下痢を止める」という意味になります。

山薬

【基原】
ヤマノイモ科DioscoreaceaeのナガイモDioscorea batatas DECNE.の外皮を除去した根茎(担根体)。日本産はヤマノイモD.japonica THUNB.に由来する。
【性味】
甘、平。
【帰経】
脾・肺・腎。
【効能】
(1)補脾止瀉
脾虚による食欲不振・元気がない・泥状~水様便・食べると排便するなどの症候に、人参・白朮・茯苓・蓮子などと使用する。
方剤例)参苓白朮散・啓脾湯

(2)養陰扶脾
脾陰虚による食欲不振・食べると腹が脹る・口乾・舌質が紅・少苔などの症候に、単味であるいは連子・薏苡仁・白扁豆などと用いる。
方剤例)一味薯蕷飲・珠玉二宝粥・慎柔養真湯・玉液湯・資生湯

(3)養肺益陰・止咳
肺虚(気陰不足)の慢性咳嗽・呼吸困難に、人参・麦門冬・五味子などと用いる。

(4)補腎固精・縮尿・止帯
・腎虚の遺精に、熟地黄・山茱萸などと用いる。
方剤例)六味地黄丸・八味地黄丸・知拍地黄丸・左帰飲・右帰飲

・腎虚の頻尿に、益智仁・烏薬などと使用する。
方剤例)縮泉丸

・腎虚の白色帯下に、山茱萸・莬絲子・芡日・金桜子・五味子などと使用する。
方剤例)秘元煎

(~中略)消渇(糖尿病)に対しても補気養陰・止渇に働く。(中略~)

【使用上の注意】
養陰助湿するので、湿盛・中満・積滞には用いない。
 

『中医臨床のための中薬学』(医歯薬出版株式会社)より

使用上の注意にあるように、山薬は潤いを補うため、もともと湿邪がある人は用いすぎると悪化させます。身体に湿邪がこもっている人、お腹がもたれて脹れている人は気をつけましょう。

4.時短! 山芋の調理法・保存法

山芋は下処理も調理もめんどうなイメージがありますが、省略できる作業がほとんどなので、意外と簡単です。健康によい食事を毎日コツコツ続けるためには、とにかく手間や煩わしさをなくすこと! 面倒くさがりでズボラな料理しか作らない筆者の方法ですので、繊細な料理を作る方には向かないかもしれません。通年手に入り安い長芋を基準に紹介します。

コツ①下処理はヒゲをとるだけで基本皮はむかない

皮をむくと調理しにくいので、私はむかないまま洗って使うことが多いです。ヒゲは指でつまんでプチプチちぎるだけ。ヒゲが多い時は水で洗う前に、長芋の切り口に垂直に菜箸を刺して、コンロの火で焼きます。ツルツル美肌になってから水洗いしてください。ヒゲが多すぎる時は皮をむいてしまった方がかえって楽なこともあります。

コツ②調理できる形に切って冷凍保存

一度に食べきれない場合は、「調理する大きさに切ってから冷凍」がおすすめです。長芋ステーキなら厚めの輪切り、煮物なら乱切りなど、人それぞれの好みで結構です。

私は「拍子切り / 5~8ミリの細切り / ビニール袋の中で荒くつぶした状態」など、いろいろな形状にしてから、保存袋に入れて冷凍します。凍るとくっついてしまって少量取り出すのが難しいので、かならず1食分を1袋に入れましょう。あるいは、ラップにくるむのもよいでしょう。

すりおろしなどは袋に入れた後、菜箸を押し付けて凹ませ、固まってからも板チョコのように割れるようにしておくと小分けせずに済みます。

赤黒く変色するのを防ぐために、酢水につけてから保存や調理する方法もありますが、手間なので私は省きます。滅多にありませんが、たまに赤黒くなることも甘んじて受け入れます。多少の酸化は品質に問題ありません。

冷凍すると風味や食感がすこし落ちます。冷凍してから2週間~1カ月以内には食べきりましょう。

コツ③ヌルヌルする調理器具を極力減らす

私は、自分の手も調理器具も極力長芋に触れないように調理しています。なぜならヌルヌルを洗うのが面倒だから……!

キメの粗いとろろを作る時は、しっかりした厚手のビニール袋の中に入れて、麺棒やグーパンチで叩いて砕きます。あえておおざっぱに砕くことでサクサクした食感を残すのがおすすめ。グラタン・つくねのつなぎとして便利です。

キメの細かいとろろは、すり鉢でするとなめらかでおいしく出来上がりますが、時短で済ませたい時は、ミキサーなどが簡単でおすすめです。また、金属製のおろし金は酸化を進めやすいので、おろし器を使うならプラスチックや陶器製がよいでしょう。

コツ④かゆい人は酢水に浸す

皮をむかないこと自体がかゆみを防ぐことになりますが、それでもかゆいという人は、手を酢水に浸して、長芋も酢水に浸してから作業しましょう。最終的には、手袋をするのがおすすめです。

5.手間ひまかけない山芋のレシピ

山芋は調理法によって、味や食感にグッと幅がでます。

【つくねのレシピ】
キメの粗いとろろをビニール袋で作って、そのビニール袋に他の具材(粉豆腐、卵、ひじき、枝豆、生姜、蓮根粉末、茯苓粉末、無添加中華だし、塩コショウ、醤油、胡麻油)をいれて、もんで混ぜ終えたら、一番下の角をハサミで切り、油をひいたフライパンに直接しぼり出して焼きます。そのまま食べてもいいですし、醤油やポン酢をつけたり、醤油と蜂蜜を煮つめたタレに絡めたりしてもおいしいです。。

【グラタンのレシピ】
フライパンにオリーブオイル・塩コショウ・手で裂いたきのこ3~4種類を入れて、きのこの水分がなくなるまでしっかり炒めます。きのこは手で裂いた方がおいしいです。厚手のビニール袋の中で大雑把に砕いた長芋をフライパンに加えて、蒸し焼きにし、無添加の粉末だし・醤油で味付けします(長芋は完全に火が通っていても、通っていなくてもよし。ホクホク食感とシャクシャク食感の両方を楽しむのもおすすめです)。耐熱皿に移して、溶けるチーズをのせてトースターで焼きます。

【炒め物のレシピ】
5~8ミリの細切り長芋で私が一番よく作るのは、炒め物です。フライパンにエキストラバージンオリーブ油・塩コショウ・指で裂いたエリンギを入れて、エリンギの水分が軽く飛ぶまで炒め、そこに、長芋を入れて焼き付けます
ポイントはあまり触らず、混ぜないこと。油が不足したら足しながら、すこし焦げ目がついたらひっくり返す要領で焼き色をつけていきます。塩コショウと醤油をひと垂らしし、鍋肌で焦がし醤油をして出来上がり。器に盛って、パセリとバルサミコ酢をかけていただきます。パルメザンチーズをふりかけても美味です。

【蒸し野菜のレシピ】
長芋を太めの拍子木切りにして、フライパンに水を適量(数ミリ位。テキトーでよい)入れ、長芋を並べて蓋をして火にかけます。軽く火が通ったら、器に盛り、好みで黒胡麻とお醤油などの調味料を垂らして頂きます。蒸し器を使わないため、適当で邪道な蒸し野菜ですが、楽なのでいつでも作れます。もっと気楽な方法は、シリコンスチーマーを用いるか、お皿に長芋をのせてラップをし、電子レンジで加熱します。(底にキャベツやキノコなどを敷いてその上に長芋を置けば、ヌルヌルがお皿にへばりつきにくいです。)

6.カット済み・すりおろし済みの冷凍食品を活用

カット済みの冷凍山芋は一番手っ取り早く、日々の食卓に取り入れやすい食材です。スーパーや、最近ではコンビニエンスストアにも売られています。私は長芋とおくらのサイコロ状カットの冷凍品とすりおろしの冷凍品を常備しています。生の長芋もたいてい冷蔵庫にあるので、忙しさや調理法によって使い分けています。

【レシピ例:汁物に使う】
鍋にお湯を沸かし、水でもどした塩蔵ワカメをキッチンバサミで切りながら入れ、中華風スープにするなら無添加の中華だしの素・塩コショウ・醤油・ごま油で調味。味噌汁にするなら、無添加の和風だし・味噌を入れて調味する。おくら・長芋カットを冷凍のまま入れて、火が通ったら出来上がり(とろみがつくので、調味料を先に入れた方が溶けやすい)。

【レシピ例:豆腐に合わせる】
豆腐(木綿または絹)を一口大に切って皿の中央に盛り、豆腐のまわりに、納豆、おくら、わかめ、とろろを盛る。刻んだシソの葉、すりおろした白ごまを散らして、お醤油または、ポン酢、胡麻油をかけていただく。

7.夏バテ対策&弱った胃腸に「山芋」

日本では、土用の丑の日はウナギを食べる日として定着していますが、「土用」は五行でいうと脾(消化器系)なので、本当は胃腸を大切に労りたい時季です。この時季はもともと胃腸トラブルのない人でも、胃腸が疲れやすい時季。ふだんより胃腸トラブルのある人は尚更弱りますので、ウナギなどの脂っこいものはますます弱らせてしまいます。そして、胃腸が慢性的に弱ると、身体全体が慢性的に弱ります。

漢方薬局でカウンセリングしていると、胃腸が弱っているにもかかわらず、「スタミナアップするために、ウナギと焼き肉を食べました!」なんていうセリフを耳にします(特に男性)。胃腸症状がなく、ウナギをきちんと消化・吸収する力があれば、それもよいでしょう。しかし、“胃腸の症状がある”ということは、“消化・吸収の力が落ちている”ということですから、うなぎや焼き肉のような胃腸に負担となる食事は厳禁です。自分の消化能力を超えた飲食は邪気(湿邪)となって身体に停滞し、悪循環におちいります。

そこで、今年の夏は「山のウナギ」である「山芋」を食卓に取り入れてみませんか?

先述したように、山芋は胃腸薬として用いられるくらいですから、胃腸に優しく、暑さによる発汗で失った気陰を補い、収渋作用によってかき過ぎる汗を抑え、精をつけパワーアップしてくれます。これなら、おなかにもたれることなく、滋養強壮することができます。

日本では、山芋はとろろなど「生」で食べるイメージを持つ人が多いようです。しかし、食欲がすごく落ちている人・下痢している人・胃腸がとても弱っている人は、山芋も生食は控えましょう。蒸し野菜、または、紫蘇や生姜などを一緒に煮てスープや味噌汁にするなどして、必ず山芋にも火を通し、温かい状態で食べましょう。

ちなみに、私は一年を通して山芋をよく食べますが、生で食べることはほとんどありません。蒸し野菜・炒め物・炒め煮・スープなどでいただきます。私の周りの中医師や気功師も、養生の観点から必ず加熱して食べるといいます。

ぜひお試しください。

参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社 2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社 1994年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店 2019年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2007年

 
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中垣 亜希子(なかがき あきこ)

すがも薬膳薬局代表。国際中医師、国際中医薬膳師、日本不妊カウンセリング学会認定不妊カウンセラー、管理薬剤師。

薬局の漢方相談のほか、中医学・薬膳料理の執筆・講演を務める。 東京薬科大学薬学部卒業。長春中医薬大学、国立北京中医薬大学、国立北京中医薬大学日本校にて中医学を学ぶ。「顔をみて病気をチェックする本」(PHPビジュアル実用BOOKS 猪越恭也著)の薬膳を担当執筆。

すがも薬膳薬局:http://www.yakuzen-sugamo.com/

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