薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2020.03.31 薬剤師のためのお役立ちコラム

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連日新型コロナウイルスばかりが注目されていますが、その他の重要な医薬ニュースも見逃さないようにしましょう。「ゾルゲンスマの国内製造販売承認」「高血圧治療アプリの第Ⅲ相試験開始」について詳しく紹介します。

1億円超え新薬ゾルゲンスマが日本上陸へ/高血圧治療アプリの第Ⅲ相試験開始

ラク~にまとめ読み
  • Topics 1 1億円超え新薬ゾルゲンスマが日本上陸へ——根本治療に希望の光
  • 指定難病とされている脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ」の国内製造販売が承認されることとなった。1億円を超える超高額薬価が予想されるが、根本治療も可能にする薬として患者さんと家族に希望を与えている。⇒詳しく読む
  • Topics 2 高血圧治療アプリの第Ⅲ相試験開始——アプリで治療する時代となるか
  • 2020年1月、高血圧治療アプリ「HERB」の第Ⅲ相試験の開始が発表。降圧薬を使用せず、患者さんの生活習慣に合わせて医学的知見からのアドバイスを送り血圧低下をめざすもので、地域の医療格差解消の面でも期待される。
    ⇒詳しく読む

Topics 1 1億円超え新薬ゾルゲンスマが日本上陸へ――根本治療に希望の光

2020年2月26日、厚生労働省は、脊髄性筋萎縮症治療薬ゾルゲンスマ(一般名オナセムノゲンアベパルボベク)の国内での製造販売を承認することを決定しました。公的医療保険での薬価は未定ですが、すでに承認されている米国内では2億円を超えることのこと。日本国内でも1億円を超えるのではないかと予想されています。

ゾルゲンスマは、遺伝子治療薬の一つです。遺伝子治療薬とは、人為的に特定の遺伝子を組み込んだ薬剤のこと。ヒトの体内に投与すると、その遺伝子が様々な働きをすることで病気の改善や悪化を予防する効果が期待できるとされています。日本国内では現在でも30以上の遺伝子治療薬の臨床試験が実施されており、さらなる開発と臨床応用が待たれます。

脊髄性筋萎縮症は、脊髄の運動神経に生まれつきの異常が生じることで発症する病気です。多くは乳児期から幼児期にかけて発症し、進行性の筋力低下と筋萎縮を呈します。発症頻度は10万人当たり1~2人と非常に稀ですが、発症すると呼吸筋にも障害が及ぶため人工呼吸器管理が必要になり、生後半年までに発症するタイプでは1歳半までに95%が命を落とすとされる深刻な病気です。

この病気の原因は、第5染色体に存在するSMN1遺伝子の欠失です。SMN1遺伝子は神経細胞に発現し、アポトーシスが生じるのを抑制する働きを持つことが分かっています。そのため、SMN1遺伝子が欠失していると神経細胞が次々に破壊され、正常な筋肉の維持が困難になるのです。

ゾルゲンスマは、SMN1遺伝子を無毒化したアデノ随伴ウイルス9(AAV9)に組み込んだ薬であり、体内に注入することで欠失したSMN1遺伝子の働きを補う効果を発揮します。ゾルゲンスマが作用する筋肉の神経細胞は細胞分裂をしないため、SMN1遺伝子が取り込まれれば永続的な効果が得られるとのこと。そのため、投与は1回のみでよいことも大きなメリットです。

米国での臨床試験では、ゾルゲンスマを投与した15人の乳児すべてが20カ月後も人工呼吸器を装着することなく生存しているとのデータが示されています。これまで脊髄性筋萎縮症には確立した治療法が存在しなかったため、ゾルゲンスマは根本治療も可能にする新薬として世界中の患者さんとその家族に希望を与えています。また、遺伝子検査により事前に脊髄性筋萎縮症の発病が予想される児に対しても使用が認められており、遺伝性の病気ゆえ苦難を強いられてきた患者さんとその家族にとって福音となっています。

ただし、ゾルゲンスマは1億円を超えるほどの非常に高額な薬価設定が予想されます。高額療養費制度があるため患者さん自身が高額な負担を強いられることはありませんが、日本での販売元のノバルティス社は年間15~20人前後への使用を想定しているとのことで、医療財政の圧迫につながることも懸念されます。

現在ゾルゲンスマ以外にも多くの新薬が開発されており、今後も超高額薬価の新薬が生み出されていくことが予想されます。限りある医療財政において平等な医療を提供していくためには患者選定の厳格化が極めて重要で、それには病院薬剤師の働きが欠かせません。普段から新薬の情報にアンテナを張り、医師や看護師を交えた医療チームで必要なときに正しい意見を発信することが期待されます。

Topics 2 高血圧治療アプリの第Ⅲ相試験開始――アプリで治療する時代となるか

2015年にオンライン診療が解禁されたことを皮切りに、医療現場で様々な最先端のツールを導入しようとする動きが広がっています。スマホやタブレットなどのアプリもその一つ。国内では2017年にニコチン依存症に対する治療アプリの臨床試験が初めてスタートし、2020年1月にはCureApp社と自治医科大学が共同開発を進める高血圧治療アプリ「HERB」の第Ⅲ相試験の開始が発表されました。

この高血圧治療アプリ「HERB」は、降圧薬を使用せずに食事や運動などの生活習慣を改善することで血圧低下をめざすもの。患者さんの状態に合わせて医学的知見からのアドバイスが定期的に送られ、行動変容を促す効果が期待されます。通院せずともパーソナライズされた専門的な介入がなされるため、地域的な医療格差を解消するだけでなく、将来的な医療費削減につながる可能性も期待できます。

アプリをはじめとする様々な技術が医療現場に持ち込まれることは、新たな医療のかたちが生まれていくという点で画期的です。一方で、「便利さ」を追求した新たな治療法では患者さんと医療従事者のコミュニケーションが不足するという問題も生じるでしょう。治療アプリはスマホなどのツールに抵抗を感じる高齢者に対して新たな医療格差を生み出すという問題点もあります。

薬剤師は医療のプロセスの中で患者さんと最終的に対面する職種です。ですので、治療アプリの使い方をフォローしたり、アプリのみではうかがい知ることのできないサインを見逃さずケアしたりすることも薬剤師の重要な役割となっていきます。

<参考URL>
「1億円超え新薬」販売承認へ 乳幼児の遺伝子治療(日本経済新聞、2020年2月26日)
【キュアアップ】高血圧の第Ⅲ相試験開始-治療用アプリで世界初(薬事日報、2020年2月6日)

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※この記事に掲載された情報は2020年3月18日(水)時点のものです。

成田亜希子(なりた あきこ)

医師・ライター。2011年に医師免許取得後、臨床研修を経て一般内科医として勤務。その後、国立保健医療科学院や結核研究所での研修を修了し、保健所勤務の経験もあり。公衆衛生や感染症を中心として、介護行政、母子保健、精神福祉など幅広い分野に詳しい。日本内科学会、日本感染症学会、日本公衆衛生学会に所属。

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