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未来の“薬剤師像”を考える 薬剤師の「常識」は時代とともに変化する

未来の“薬剤師像”を考える 薬剤師の「常識」は時代とともに変化する

地域包括ケアシステムをはじめとして医療のあり方が変わる中で、当然ながら求められる薬剤師像も変わっていきます。すでに現場で活躍している薬剤師も変化を受け止めながら、社会に求められる薬剤師像を自ら目指す必要がありそうです。Vol.1「新時代を『薬剤師たちはどう生きるか』」Vol.2「薬剤師のキャリア形成に必要なものとは」に続き、浜松医科大学教授・附属病院薬剤部長であり、日本薬剤師会と日本病院薬剤師会では副会長を務めている川上純一先生に、ご自身のキャリアを振り返っていただきながら、薬剤師として働くうえで大切な心構えについて伺いました。
(肩書・内容は2019年3月取材時のものです)

Index

■臨床のサイエンスに心魅かれて

■オランダ留学で触れた新たな薬剤師のあり方

■時代の潮流に乗り遅れてはならない

臨床のサイエンスに心魅かれて

自身のことを語るのはあまり得意でないという川上先生に、あえて薬学を志した背景について質問をぶつけてみました。

――川上先生が薬学の道を選ばれたきっかけは?

私が高校生だった頃、ちょうどバイオテクノロジーが世界的に注目され始め、興味を持ったことがきっかけです。入学した東京大学では、最初の2年間を教養学部で過ごし、3年生から専攻する学部に進学するシステムでした。そのときには応用学問としてのライフサイエンスに魅かれていたことや、卒業後の進路選択の幅も広いことなどから薬学部を選びました。

4年生からの教室(研究室)配属では医学部附属病院薬剤部を希望して、研究と臨床を行ったり来たりしながら学びました。そして、実際に患者さんにも接して、その治療に薬学の視点から貢献する臨床薬学の素晴らしさ、面白さに魅かれていきました。そのまま病院薬剤部で大学院に進学し、修士課程そして博士課程まで修了したのですが、このような進路を選択した学生は私が初めてだったそうです。

大学院では基礎研究を行うことが当然の雰囲気で、入試の面接で薬学部のある教授からは、病院薬剤部で大学院に進んだり就職することに懐疑的なことも言われました。しかし、「臨床との接点で展開されるサイエンスに携わりたい」という思いが変わることはありませんでした。

今では考えられないことですが、当時は大学病院における院内感染が大きな社会問題になっており、院内の感染対策や抗菌薬投与が見直され始める時代でした。また、薬物間相互作用で多数の患者さんが亡くなられたソリブジン事件もあり、医薬品適正使用への意識は医師も薬剤師も今に比べるとまだまだ希薄だったように思います。このような「臨床現場に入らなければ本質が見えにくい問題点」にいち早く気付いて、研究などにフィードバックできたことは、私の強みとなってきたと思っています。

オランダ留学で触れた新たな薬剤師のあり方

――川上先生は厚生労働省の委員として薬剤師に関係する諸政策にも関与されています。こうした活動に注力するようになった、原点ともいえる出来事はありますか。

病院薬剤部や当時は院内に入っていた保険薬局で実習をした時は、「薬剤師は、処方せんの手書きの文字を判読し、とにかく正確で素早い調剤に心血を注いでいるのだなぁ」とつくづく思いました。事前に多くの医薬品の特徴や使われ方を暗記しておき、薬袋を手書きしたり、処方内容から疾患を類推するような現場での対応力が重視されていました。これらの知識やスキルに長けた先輩方を見て尊敬の念を覚えた反面、「将来的に求められる薬剤師の姿はきっと違うものになるだろう」との予感があり、それを具現化するために力を尽くしたい、薬剤師の世界を変えたいという思いが芽生えたのです。

そうした経緯もあり、東京大学大学院を修了して博士号を取得してから、しばらくは大学病院薬剤部で働いた後、オランダのライデン大学へ留学することにしました。そのころのオランダでは社会保障や医療制度の大改革に取り組んでおり、社会がダイナミックに動いていたことを覚えています。健康・福祉・スポーツ省(日本の厚生労働省に相当)、臨床開発企業、大学・病院・薬局など、様々なところを訪れて話をお伺いして、研究以外にもたくさんの知見を得ることができました。

また、西欧諸国の間でも医薬品をめぐる制度・政策や社会経済の情勢が異なるなど、薬学の社会的側面にも興味を持ちました。例えば、オランダは欧州で最も薬剤の使用量(人口あたり)が少ない国です。薬剤師は何をしているかというと、薬局の経営管理や病院薬剤部のマネジメント、そしてヘルスケアにおけるコンサルティングといいった業務が中心です。つまり、日本よりずっと先に対人業務に軸足を置いていたわけです。また、病院・クリニック・薬局が記録した患者情報を相互に閲覧できるシステムの構築や、ジェネリック医薬品の積極的な使用促進といった面でもかなり先進的だったと思います。

――オランダでの経験は、帰国後の川上先生に影響を与えましたか。

2000年に帰国してからは、富山医科薬科大学(現・富山大学)附属病院薬剤部の助教授・副薬剤部長として、オランダ滞在中に吸収したり自分なりに考えたりしたことも生かしながら、日本での活動に取り組みました。

例えばその一つとして、ユトレヒト大学の臨床薬理教育のプログラムを参考にして、富山医科薬科大学大学院の修士課程における臨床薬学専攻(6年制薬学教育の先取りコース)に問題解決型学習を試行導入しました。この取り組みと成果については日本薬学会の『薬学雑誌』で発表しましたが(Yakugaku Zasshi. 2002; 122(10): 819-29)、こうした臨床薬学教育に関する原著論文が同誌に掲載されたのは初めてだったと聞いています。

時代の潮流に乗り遅れてはならない

――これからの時代を生きる薬剤師には、どんな変化が待ち受けているでしょうか。

これからの日本では生産年齢人口の大幅な減少が不可避であり、それに対応すべく医療現場ではさらなるICT化が進むと予想されます。また、急性期から回復期や慢性期へ、そして地域医療へと医療ニーズの重点が移っていくことが考えられます。さらに、医療従事者不足が深刻になり、医師から薬剤師のタスク・シフティング(医師の業務や権限の一部を薬剤師へ移譲すること)のようなことも起こり得るでしょう。

こうした環境の変化を見据えて、薬学教育もずいぶんとモデルチェンジを果たしましたし、今後も変わっていくでしょう。薬剤師国家試験でも臨床薬理や薬物療法に関する設問が増えており、今の薬学生たちはより患者さんの存在を意識しながら学んでいるはずです。

――この記事を読んでいる薬剤師へメッセージをお願いします。

2025年までには、どの薬局もかかりつけの機能を果たすことが求められるようになります。薬機法の改正で新設される予定の「地域連携薬局」や「専門医療機関連携薬局」も今後広がりを見せていくでしょう。薬剤師は他の医療従事者と連携しながら、より専門的で患者さんに寄り添える医療を提供していく立場となるはずです。すでに現場で活躍している薬剤師の皆さんも、従来の常識に縛られることなく、時代の潮流に乗り遅れないよう学び続けることが大切だと思います。

撮影/櫻井健司 取材・文/中澤仁美(ナレッジリング)

川上純一(かわかみ・じゅんいち)

浜松医科大学医学部附属病院薬剤部 教授・薬剤部長
1990年、東京大学薬学部卒業。1995年、東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了。東京大学医学部附属病院薬剤部助手。ライデン大学(オランダ)客員研究員、富山医科薬科大学(現・富山大学)附属病院薬剤部助教授・副薬剤部長を経て、2006年より現職。2016年、日本病院薬剤師会副会長、2018年、日本薬剤師会副会長。厚生労働省では、薬事食品衛生審議会委員、厚生科学審議会委員、社会保障審議会・医療分科会委員、中央社会保険医療協議会・薬価算定組織委員長代理、同・入院医療等の調査評価分科会委員、特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会構成員、がん診療提供体制のあり方に関する検討会構成員などを務める。
(肩書・内容は2019年3月取材時のものです)

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