薬剤師のスキルアップ 更新日:2023.05.30公開日:2019.11.12 薬剤師のスキルアップ

薬剤師のキャリアプランにはどんな選択肢がある?

文:加藤鉄也(研修認定薬剤師、JPALSレベル6)

調剤薬局や病院、ドラッグストア、海外から薬局オーナーまでキャリアパスを徹底解説

薬剤師のキャリアにおいて「薬剤師」資格の取得が最重要なのは言うまでもありません。資格取得後は調剤薬局やドラッグストアに勤務するのが一般的だと思いますが、「薬剤師」資格が生かせる環境は想像以上に多岐にわたっています。今回は「薬剤師」資格を生かしたキャリアプランについて、現役薬剤師が紹介します。

1. 薬剤師資格を生かせるキャリアプラン

人生を豊かに生きるためにも、仕事や家庭に関するライフプランを立てることは大切です。ここでは、薬剤師資格を生かして活躍できる代表的なキャリアプランを、業態・職種ごとに紹介します。具体的にどのような業務を行い、どのようなスキルを身につけることができるのか解説しますので、キャリア選択を迷っている方は参考にしてみてください。

 

1-1. 病院薬剤師

病院薬剤師は薬剤師資格を生かせる職種の代表格です。臨床検査データや薬剤情報などの情報環境が充実しているだけでなく、他職種の医療従事者が周囲にいる環境は薬物療法を勉強したい薬剤師にとって最適な職場と言えます。基礎的な知識や技能を習得した後は、専門薬剤師資格を取得し、特定の疾患や患者層に対応したスペシャリストとなるキャリアプランが考えられます。

 
役職によるキャリアアップを目指すなら、薬剤部主任や薬剤部長など、薬剤部内部の管理職に就く方法があります。あるいは薬剤部の内部にとどまらず、病院自体のマネジメントを担うポジションを目指すのも選択肢のひとつです。病院経営に参画すれば、地域医療におけるポジショニング、ブランディング、マネタイズなどの経営戦略に知略をめぐらす仕事にも携わることとなります。

 
病院薬剤師としてキャリアを重ねるうちに、各学会や薬剤師会などとかかわる機会も増えるでしょう。福岡大学薬剤部教授である薬学博士・神村英利氏は、薬剤師会と共同で、保険薬局薬剤師の薬学的介入による医療経済効果や、その他薬薬連携(病院と院外薬局の薬剤師が情報共有し患者さんの入院・退院後の医療を支える体制)によるさまざまなエビデンスを創出し、医療の質の向上に寄与しています。このように、病院以外の組織と連携して、地域社会に貢献することもできます。

1-2. ドラッグストア

ドラッグストアに勤務する薬剤師は、在庫管理や売れ筋商品の採用・販売など、小売業・サービス業のスキルを磨くことができます。販売スキルや知識を習得し、販売担当者として十分な実績を示すことがドラッグストア勤務薬剤師の成功モデルといえるでしょう。

 
ドラッグストアにおけるキャリアアップは、管理者の立場に就くことが一般的です。具体的には、店長や複数の店舗の売上管理や人的マネジメントを担うエリアマネージャーといった役職が挙げられます。さらに、ドラッグストアの本社で部長職などに就くと、教育システムやITシステム、店舗開発などの各分野において広い視野で案件を動かし取りまとめることになります。そこで経験・実績を積んだ後は経営幹部を目指すといったキャリアパスを描くことができます。

 
ひとつの企業で昇進していく以外に、他業態へ転職するというキャリアの研鑽方法もあります。店舗開発や店舗の売上管理、教育、ITシステム構築などの経験を生かし、病院・調剤薬局経営層への転職あるいはOTC薬局のコンサルタントとして独立するといった選択肢もあります。

1-3. 調剤薬局

大半の薬剤師が就職する調剤薬局では、院外処方箋の服薬指導、OTC販売、健康相談など、病院・ドラッグストアの薬剤師が経験する業務内容を学べる環境にあります。さらに現在、政府主導のもと在宅医療への取り組みも積極的に進められており、患者さんが自宅で治療をするために、薬の専門家として中心的な役割を担うなど、やりがいを感じる場面も多いでしょう。

 
調剤薬局に勤める薬剤師の役職には、店舗の長である管理薬剤師や複数店舗を回るラウンダー、複数店舗の実績管理を行うエリアマネージャーなどがあります。あるいは、教育やITなどのシステム担当、店舗開発、人事などに携わり経営幹部を目指すキャリアパスもあります。

 
直接患者さんと接する機会の多い調剤薬局では実践的な経験が積めることから、さまざまなキャリアパスにおいてその経験を生かすことができます。熊本大学薬学部臨床教授の山本雄一郎氏のように、調剤薬局で得た実践的な知識とスキルを生かして大学教授になるといった例がありますし、日本調剤取締役の増原慶壮氏のように、病院薬剤部の薬剤部長を経て調剤薬局チェーンの経営層に転職した例もあります。

1-4. 海外薬剤師やフリーランス

中には、海外で薬剤師として活躍する日本人もいます。薬剤師に与えられる権限や求められる役割は国によって異なるため、日本では経験できないキャリアを築くことができます。

 
例えば、カナダの薬剤師は予防接種ができるうえ、医師の許可なく薬剤師が処方箋内容を書き変えるアダプテーション(Adaptation)という権利を持っています。イギリスでは薬剤師に一定の処方権が与えられています。イギリス国内で薬剤師として臨床経験を数年積み、認証機構において研修および評価を受けると、法律で定められた独立処方権が与えられ、医師の役割を補完することができます。

 
アメリカの薬剤師も医師の委任があれば処方する権利を有しており、薬の相談なら医師ではなくまず薬剤師にという文化があります。薬の処方は必ず医師が行う日本とは異なり、薬剤師が医療の中心的な役割を担うことができる点が魅力といえます。その他にドイツやオーストラリアで薬剤師として働く日本人もおり、チャレンジの場が世界中に広がっています。

 
また日本国内でも、派遣薬剤師としてフリーランスで働く薬剤師の働き方はひとつの薬局や病院で勤務する薬剤師と一線を画します。複数の勤務先での勤務をかけ持ちして高収入を得る薬剤師もいれば、育児などにより「空いた時間に働きたい」とプライベートとうまく調整をしながらキャリアを継続する薬剤師もいます。

 

1-5. 製薬企業やCRO、SMO

人数はそれほど多くはないものの、製薬会社などの企業で活躍する薬剤師もいます。処方薬の情報を医療機関に伝え適正な使用を促す、医薬情報担当者(MR)はその一例です。薬の有効性や安全性を確かめて開発に寄与する臨床開発職や研究職、各国の医薬品当局に承認申請を行う薬事担当者など、薬剤師の知識を生かせる職種がいくつも存在します。

 
また、医薬品卸会社の薬品管理責任者や、化粧品、健康食品、一般医薬品などの製造責任技術者は、基本的に薬剤師にしかできない仕事です。

 
そのほか、医薬品開発関連企業として医薬品開発業務受託機関(CRO)における臨床開発モニターや治験施設支援機関(SMO)治験コーディネーターなどの職種もあり、各企業内でその後のキャリアアップにつながる選択肢があります。

1-6. 公務員などの特定の資格が必要な職種

麻薬取締官、薬事監視員、自衛隊薬剤師などの行政薬剤師も、薬剤師資格が生かせる職種です。ただし、行政薬剤師を目指すためには、薬剤師国家資格と合わせて公務員資格を取得する必要があります。労働衛生コンサルタントや弁理士などは薬剤師資格が受験資格の要件に入っています。医薬そのもののみならず、科学や健康の分野の専門家としても活躍の幅を広げることができます。
 

1-7. 独立

ここまで、なんらかの組織に所属する場合のキャリアパスについて紹介してきましたが、調剤薬局オーナーとして独立するというキャリアプランもあります。いきなり調剤薬局の開業をするのは不安、という方はフランチャイズ展開をしている薬局のオーナーがおすすめです。開業時のサポートや独立後の医薬品共同購入といった恩恵を受けられるので、個人で開業するよりもハードルが低くなります。既存の薬局でも、後継者不足や薬剤師不足などを背景に、意欲のある薬剤師に譲渡を行っているオーナーもいますので気になる方はチェックしてみましょう。

 
独立は調剤薬局に限りません。漢方や健康相談の知識と経験を生かし、薬膳飲食店のオーナーとして独立する選択肢もあります。あるいはITに強い薬剤師であれば、薬局専用のシステムを構築してサービスを提供する会社を起業することも可能でしょう。

2. 薬剤師のキャリアのゴールは大きく2つ

以上紹介したように「薬剤師」資格を生かせるキャリアパスは多岐にわたるため、どの道を選べば良いか悩むかもしれません。ただ、薬剤師のキャリアのゴールは大きく2つに分けられます。ひとつは、会社内での出世をするというゴール、もうひとつは独立するというゴールです。どちらを目指すかによって日々の仕事との向き合い方が異なってきます。

 
会社内での出世を目指すなら、社内での人間関係を適切に築きつつ、与えられたポジションごとに結果を出していく必要があります。経験を着実に積みながら、同時に社内での立ち振る舞いを意識しなければならない点が「独立」とは大きく異なる点でしょう。

 
一方、独立を目指すなら、組織に所属して働いていても「自分が独立した際にはどのようなサービスが必要なのか」を常に意識する必要があります。さらに、社内外に人脈を構築したり、世の中で解決すべき社会課題を見つけ出したりすることも将来的に役立つ視点となるでしょう。

 
このように2つのゴールがありますがまだ方向性を決めかねているのであれば、自社・他社を問わず薬剤師の先輩やパイオニアたちの中から理想とするキャリアを持つ人物を探してみてはいかがでしょうか。もし目標となる人物が見つかれば、思い切って、話を聞きに行ってみましょう。理想が漠然としているなら、自分の内面を見つめる時間をつくり、何をすると自分が楽しいのか、気持ちが動くのかを感じ取るようにしましょう。そのうちに、自分が本当にやりたいことが見つかるかもしれません。

 

3. キャリアアップに重要な2つのスキル

薬剤師のキャリアのゴールは「社内での出世」と「独立」の2つに分けられる、と紹介しました。ですが、どちらを選んだ場合でも重要となる知識・スキルが2つあります。

 
ひとつは薬剤師としての専門的知識・スキルです。医学的知識や薬物療法、調剤報酬、在宅医療、OTCなどの知識・スキルを確実に身につけましょう。そのためには、日常業務や学会活動、研修会への参加など、目の前の薬剤師の仕事をとことん突き詰めることが大切です。

 
もうひとつは、マネジメントや経営の知識・スキルです。会計、IT、法務、組織行動学、経営戦略、プロジェクトマネジメント、社会保障などの知識は、自分が管理者の立場になった場合でも、オーナーとして独立した場合でも、従業員を守り、組織を動かす際に役に立ちます。また経営目標に向かって運営していくためのビジネスセンスを磨くうえでも重要です。

 

4. 資格取得によるキャリアアップ

薬剤師としての専門性を高める認定・専門資格の取得もキャリアアップにおいて有用です。何から始めたらいいかわからない、という方は基礎的な薬物療法の知識を幅広く身につけられる日病薬病院薬学認定薬剤師や日本医療薬学会認定薬剤師、JAPALSレベル6などの資格取得に向けて勉強してみましょう。

 
また、専門的に取り組みたい領域が定まっている方は、がん、感染症、糖尿病、HIV、褥瘡、漢方といった疾患・薬剤ごとに取得できる資格があります。小児、妊婦・授乳婦、在宅医療など、患者さんの属性ごとに専門性を高められる資格取得もあります。

 
経営やマネジメントに関連する検定・資格のうち、比較的に簡単に取り組みやすいのは簿記、ビジネス実務法務検定です。さらに中小企業診断士や社会保険労務士、弁理士など、資格取得によって独立可能なものまであります。

 
多種多様な資格が存在しますが、具体的な目的がないまま「いつか役に立つだろう」と資格取得を目指すことは、モチベーションが持続しないためおすすめしません。今の業務に役立てることができる資格や将来活用するための資格を、キャリアプランから逆算して目指しましょう。

5. 自分の棚卸しをして最適なキャリアプランを

 
いずれのキャリアを選ぶ場合でも、自分自身でしっかりしたキャリアプランを立てることが重要です。出世や独立などゴールとなる目標ができれば、そこに向かう最適なプランが探せるはずです。キャリアの方向性が定まらない場合は、自分と向き合う時間を定期的に設けて、何に自分の心が動くのか見つめ直しましょう。条件面やプライベートとのバランス、家庭の事情を考慮にいれながら最適なプランを計画、実践していきたいものです。

参考URL:

J-STAGE 薬学教育

薬読編集部からのコメント
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執筆/加藤鉄也

薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。

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