インタビュー 公開日:2020.08.25 インタビュー

NST専門療法士の意義とやりがい【薬剤師と在宅医療】

健康管理や生活の質向上を大きく左右する食。愛知県豊田市のヤナセ薬局では、がんの終末期や神経難病、COPDなどさまざまな患者さんを栄養面から支える在宅医療部を設置。緩和医療の視点も交え365日対応する在宅医療について、 NST(栄養サポトム)専門療法士の宇野達也先生にお話を伺いました。

 

※本記事は株式会社ネクスウェイが提供する「医薬情報おまとめ便サービス」特集2019年5月号P.7-8「薬剤師が関わる栄養」を再構成したものです。

お話を聞いたのは……ヤナセ薬局 在宅医療部 宇野達也先生
 

<プロフィール>
大手チェーン薬局に勤務後、200l6年ヤナセ薬局へ。2009年に在宅医療部へ異動。輸液や栄養剤の知識不足から自分を変えようと一念発起し2014年「NST(栄蓑サポートチーム)専門療法士」を取得。栄養管理も含め24時間体制で在宅医療に従事。
・緩和薬物療法認定薬剤師
・栄養サポートチーム専門療法士
 
ヤナセ薬局ホームページ http://www.yanase-drug.com/

栄養の摂取とともに食べたいと願う気持ちに応えるために

——在宅医療における食べることの重要性とは?

[宇野先生]ヤナセ薬局の在宅医療部では、医療用麻薬調剤、無菌調剤などを含め、24時間365日対応で在宅医療に取り組んでいます。170人前後の患者さんを2名の常勤薬剤師と応援の薬剤師で受け持ち、そのうち約1/3を私が担当している状況です。下は1歳から上は104歳まで、がんをはじめ、心不全、COPD、神経難病など、年齢や病状も多様で、終末期の方を看取るケースも少なくありません。

 
■患者数・性別・年齢・介入期間(2017年1月~12月)

患者数 308名
性別 男:149名/女:159名
年齢 78(4~100)歳
介入期間 66(1~364)日

※患者数は施設入所者を除く
※年齢、介入期間は中央値

 

[宇野先生]在宅医療の現場では、薬はもちろん栄養に関する悩みや相談も多く寄せられます。口から食べられる方、経腸栄養の方、大腸がんで腸が閉塞している方など、事情はさまざまですが、皆さんに共通しているのは、口から食べたいと願う気持ちです。そのため、果物を口に含み食感や果汁を味わうだけで飲み込まずに吐き出すという方法を用いることもあります。食事は栄養摂取だけでなく、食べることを楽しむ意味でも大切なのです。

少しでもご家族と長く過ごせるよう病状に合わせた栄養管理を

——具体的にどのような栄養サポートをされているのでしょうか?

[宇野先生]患者さんの中には、ヒルシュスプルング病の小児もいます。この病気は腸の神経の病気なので栄養の吸収が不十分になりやすいです。そのため食事にプラスして静脈栄養を投与しています。神経難病 (ALS、脊髄小脳変性症、重症筋無力症など)の患者さんの場合は、應下機能が低下している方もいるため、むせて肺炎にならないよう飲み込みの状態を 確認しながら栄養補助食品を提案することもあります。寝たきりの方も多く、痩せすぎると褥瘤につながります。血液検査時のタンパク質、アルブミン値などとともに栄養状態の確認も欠かせません。

 
■患者の主な疾患(2017年1月~12月)

 

また、COPDなど呼吸器疾患の方は、呼吸による体力の消耗が激しく、栄養量が不十分だと急激に痩せてしまうのでカロリーチェックにも気を配っています。がんの患者さんが約4割を占めるのも当薬局の特徴です。栄養管理を怠ると死期を早めかねません。少しでも家族と過ごす時間を長くするためにも栄養サポートは重要だと考えています。

患者さんやご家族他職種から相談される「窓口」となること

——薬剤師が在宅医療に介入する上で大切にしていることは?

口から食べられず、経管栄養法や静脈栄養法を行っている患者さんもいます。病院であれば、感染症を防ぐための消毒や輸液・栄養剤の投与などは看護師さんがやってくれますが、在宅ではご家族が行う場合もあります。当然、担当が誰か、手技は正しいのか、確認は不可欠です。必要であれば半固形栄養剤の投与や加圧バッグなどデバイスの提案も行います。老老介護のようにご家族の負担が大きいときは、少しでも楽な方法を医師へ提案することもあります。

 

終末期の患者さんが多い当薬局では「初めまして」のご挨拶が最後の会話になることもあるため、短期間で信頼関係を築くことが求められます。そこで心がけているのは、礼儀正しく、謙虚に、丁寧に接すること。それは他職種の方に対しても同様です。誰もが相談しやすい「窓口」になることで言いにくいことも話せる関係づくりに努めています。患者さんやご家族の気持ちは常に揺れ動いていますので、少しでも私達が支えになればいいかなと思っています。

1人でも多くの患者さんがやりたいことをできるように

——今後の課題やNST専門療法士の意義は?

末期がんで高カリウム血症の方にカリウムを含まない点滴を設計するなど、薬剤師の視点で貢献できることは多くあります。しかし、地域の他職種が揃って訪問するというのは現状では難しいですから、将来的にはITなどを駆使し在宅のNSTを実現していきたいですね。

 

当薬局の在宅医療部では、この4年間で患者数が約4倍となりました。1人でも多くの薬剤師がチームに加わり、社内外を問わず薬剤師同士が連携して地域を支える仕組みづくりも急務です。学会の認定機関で40時間の実習を受けるなど、NST専門療法士の認定条件は厳しくもありますが、患者さんの栄養状態を改善し、やりたいことができるように支えるという大きなやりがいを共有したいと願っています。先日もほぼ寝たきりだった方が旦那さんのために再ぴキッチンに立ち、手料理を振る舞えたとの声を聞き、心から喜びを感じました。

 

■栄養法の選択について

 

 

経口栄養法では喋下機能の評価がカギ

 

・大切なのは、喋下能力の見極め。外から見て飲み込めているように見えても誤嘩している患者さんも。レントゲンでの透視、または内視鏡での確認など、医師・看護師による専門的な検査での評価が必要。

 

・栄養補助食品は、飲むだけのもの、やや食感のあるもの、とろみ剤の使用など、患者さんのロや喋下の状態に応じてチーム内で相談し提案。

 

ご家族の負担も考慮し適切な経管栄養法を提案

 

・胃瘍や鼻からのNGチューブで栄養摂取する際、チューブが詰まらないよう適切に投与することが大切。詰まらせると病院への搬送が必要になる場合もあるため患者さんもご家族にも負担がかかります。

 

・半固形栄蓑剤を使用する場合、シリンジで注入したり、加圧バッグを使い空気圧でつぶして投与など方法はさまざま。正しい手技で行えるかの確認が重要です。

 

静脈栄養法(末梢静脈栄養法・中心静脈栄養法)での注意点

 

・簡易的・短期的な末梢静脈栄養法では栄養量 が不十分な場合があります。その際は長期的に高カロリー輸液などを投与する中心静脈栄養法を選択。24時間安全で確実に投与するために必要な注入ポンプのレンタルなども行います。

 

・注意すべきはカテーテル感染。敗血症の恐れもあるため消毒の手技には細心の注意が必要。

 

出典:株式会社ネクスウェイ「医薬情報おまとめ便サービス」特集2019年5月号

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