新型コロナウイルス感染拡大による「0410対応」で関心が高まった「オンライン服薬指導」。薬機法改正によって「オンライン服薬指導」は2020年9月から実施可能となる予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大による特例的な措置「0410対応」によって、4月から前倒しで実施されることになりました。しかし、利点がある一方で、実施するには入念な準備が求められます。今回は、薬機法の改正ポイントとともに、オンライン服薬指導を行う際に必要な準備やメリット・デメリットについてお伝えします。
- 1. 0410対応と薬機法改正
- 2. オンライン服薬指導の実施に必要な準備
- 準備① 機器類やシステム
- 準備② あらゆるケースを想定した準備 3. オンライン服薬指導の実施に必要な考え方
- 考え方① 薬剤師と患者さんとの信頼関係が築けていることが前提
- 考え方② 薬剤師と医師との連携を確保する
- 考え方③ 患者さんの安全確保のための体制を作る
- 考え方④ 患者さんの希望と理解を得てから実施する
- 4. オンライン服薬指導の条件
- 5. オンライン服薬指導のメリット
- メリット① 感染防止対策になる
- メリット② 患者さんと薬剤師、双方の負担が軽減される
- メリット③ 在宅医療対応での負担軽減が期待できる
- 6. オンライン服薬指導のデメリット
- デメリット① インターネット環境が必須
- デメリット② オンラインでのコミュニケーションには限界がある
- デメリット③ 薬の配送によるトラブル
- 7. オンライン服薬指導の今後の動向
1. 0410対応と薬機法改正
新型コロナウイルスの感染拡大により、予防に向けた取り組みが今もなお続いています(2021年1月現在)。薬局を含めた医療機関にも大きな影響があり、2020年4月10日には厚生労働省によって「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」、通称「0410事務連絡」が通達されました。一時的に電話等による服薬指導が可能になり、「0410対応」の実施に至ります。こうした対応は、しばらくは継続される見込みですが、今後の状況によっては縮小される可能性があるでしょう。
一方、薬機法改正によって可能になったのが「オンライン服薬指導」です。2020年3月に公布された法改正では、「対面を原則」とする点が緩和されたのが大きなポイント。これまで対面で行うことと規定されていた服薬指導が、へき地などの医療格差を是正するため、テレビ電話などを用いて実施できるようになり、インターネットを利用したオンライン服薬指導が可能となりました。
オンライン服薬指導を含む施策は同年9月からの施行が予定されていたものの、新型コロナウイルス感染拡大にともない、前倒しで実施となったという背景があります。
法改正で盛り込まれたということもあり、オンライン服薬指導は将来的にも継続される可能性が高いでしょう。今はまだ一般化しているとはいいがたいものですが、技術革新が進むにつれて、誰でもどこでも利用できる利便性の高いツールになっていくかもしれません。ただし、0410対応に比べると実施するために多くの制限があります。0410対応では、改正薬機法とは異なり、下記などの措置が時限的にとられています。
・服薬指導計画の作成が不要
・映像を用いない電話による服薬指導も可
・「オンライン服薬指導は1割以下」の制限なし
2. オンライン服薬指導の実施に必要な準備
オンライン服薬指導は、薬剤師と患者さんがお互いの状態を認識しながら、通話が可能な方法で服薬指導を行います。そのため、インターネットやテレビ電話などを通じて、映像と音声を送受信する仕組みが必要です。オンライン服薬指導を行うためのシステムを自社開発する企業もありますが、必ずしも自社でシステムを導入しなければいけないわけではありません。
準備① 機器類やシステム
オンライン服薬指導専用のシステムではなくても、zoomやLINE、Skypeといったネット上で相手の顔を見ながら通話できるツールがあれば実施可能です。ただし、こうしたツールは、薬局、患者さんともにアプリなどのダウンロードが必要であり、お互いに登録を行ったり、ネット環境を整えたりするといった事前準備が欠かせません。また、個人情報を取り扱うこともあり、セキュリティの面で課題があるのも事実です。

さらに、患者さんには医療費の支払いのために薬局に来てもらったり、振込をしてもらったりする必要もあります。場合によっては、スマホを使った支払いアプリを利用することもあるでしょう。いずれにしても、服薬指導と会計が別になってしまうので、会計漏れを防止するための対策が必要です。
一方、オンライン服薬指導専用のシステムには、服薬指導から会計までをアプリ内で完結できるものもあり、会計確認を行う手間が省けます。さらに、オンライン診療とオンライン服薬指導を連携できるアプリを利用すれば、予約・会計・処方せん情報を一括で管理しやすくなるといった利点があります。オンライン服薬指導には専用システムを利用したほうが、薬剤師と患者さん双方の利便性が高まるといえます。
準備② あらゆるケースを想定した準備
服薬指導を行うためには、あらかじめ服薬指導計画を作成しておく必要があります。実施にあたっては、調剤報酬を考慮して施設基準にもとづき、管理指導料の算定回数の合計のうち、オンライン服薬指導の割合が1割以下になるような調整も必要です(厚生労働省「令和2年度診療報酬改定の概要[調剤]」を参照)。
そのほか、例えば下記の内容など、あらゆるケースを想定して準備する必要があるでしょう。
・薬剤を渡す方法、手段
・インターネットに接続できないなど予定通りに実施できなかった場合の対処方法
・処方医や病院などの関係医療機関と緊急時に連絡をとるための体制整備
3. オンライン服薬指導の実施に必要な考え方
対面での服薬指導に比べると、オンライン服薬指導では得られる情報量が少なくなりがちです。指導内容がしっかりと伝わっているか、患者さんが疑問点を聞きやすい雰囲気を作ることができているかなど、気を配らなければならない点が多くなります。患者さんと十分なコミュニケーションがとれなければ、医療の質が落ちることも考えられます。オンラインであるがゆえに不足しがちな情報を補うためにも、医療機関と緊密な連携を取り、情報交換を行うことが大切です。

厚生労働省は、オンライン服薬指導でも対面による服薬指導と同等の医療が提供できるよう、基本的な4つの考え方を周知しています。ここではその4点について詳しく解説します。
① 薬剤師と患者との信頼関係
② 薬剤師と医師又は歯科医師との連携確保
③ 患者の安全性確保のための体制確保
④ 患者の希望に基づく実施と患者の理解
厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」より
考え方① 薬剤師と患者さんとの信頼関係が築けていることが前提
薬剤師がオンライン服薬指導を行うには、患者さんと信頼関係が築けていることが条件のひとつとなっています。患者さんの服薬状況などをある程度の期間、継続的に把握していることで、オンラインによる服薬指導でもコミュニケーションがとりやすくなるからです。
考え方② 薬剤師と医師との連携を確保する
オンライン服薬指導では、指導計画や指導内容、服薬状況などをフィードバックしながら、医師と連携することが求められています。対面よりも情報量が少なくなりやすいオンライン服薬指導では、医師と情報共有し医療の質を保てるように準備することが大切です。
考え方③ 患者さんの安全確保のための体制を作る
患者さんの急変などに対応できるよう、処方医や病院などの関連医療機関といつでも連絡がとれる体制を整えておかなければなりません。また、患者さんの体調不良やインターネットの不具合などでオンライン服薬指導が中止になることもあるでしょう。そうした場合でも、対面による服薬指導がスムーズに実施できるように準備しておくなど、オンラインと対面の両方を使い分けながら患者さんの安全を確保することが求められます。
考え方④ 患者さんの希望と理解を得てから実施する
オンライン服薬指導を行うためには、あらかじめ患者さんに希望の有無を確認しなければなりません。加えて、対面による服薬指導よりも情報が限定されるといった、オンラインのデメリットも説明する必要があります。
4. オンライン服薬指導の条件
オンライン服薬指導を行うためには、いくつかの条件があります。外来患者さんと在宅患者さんのどちらもオンライン服薬指導を行うことはできますが、いずれも共通する要件は下記の通りです。
・当該薬局において調剤したものと同一内容の処方箋であること
・原則、同一の薬剤師が実施すること
・対面による服薬指導の実施歴があること
厚生労働省・オンライン服薬指導資料「横断的事項(その5)(ICTの利活用④)」を参考に要約
在宅患者さんは医師が訪問診療を行いますが、外来患者さんはオンライン診療による受診に限定されています。病院を対面で受診した場合は、調剤薬局へ処方せんをFAXしたとしても、オンライン服薬指導を実施することができません。
5. オンライン服薬指導のメリット
では、改めて、オンライン服薬指導を行うメリットについて確認してみましょう。
メリット① 感染防止対策になる
オンライン服薬指導の一番のメリットは、調剤薬局での「密」を避けられることでしょう。自宅にいながら診療や服薬指導が受けられることは、患者さん、薬剤師双方の感染防止対策となります。乳幼児や高齢者、免疫力が低下している人など、特に感染症に気を付ける必要がある人にとって、感染リスクを下げる対応をしている薬局には大きなメリットを感じるのではないでしょうか。

メリット② 患者さんと薬剤師、双方の負担が軽減される
オンライン服薬指導は、通院時間や交通費の削減に加え、医療機関での待ち時間短縮も期待できます。受診できる医療施設が限られた離島などで、自宅にいながら医療を受けられることは患者さんにとって大きなメリットといえるでしょう。オンライン服薬指導は、患者さんの都合が良い時に自宅で服薬指導が受けられるので、待ち時間などのクレームにつながらない点において、薬局側にもメリットをもたらします。
メリット③ 在宅医療対応での負担軽減が期待できる
薬剤師の働き方においても、メリットがあります。オンライン服薬指導を実施しない場合、在宅担当の薬剤師が不在の間は、調剤薬局に残っている薬剤師が外来患者さんの対応をすることになります。しかし、薬局内の薬剤師が少ない時に限って、外来が混んでしまい大変な状況になることも。在宅担当の薬剤師が薬局に戻ってくる時間を気にしながら調剤を行うこともあります。
その点、オンライン服薬指導であれば、薬剤師が外出して不在になる時間が少なくなります。在宅担当の薬剤師が外来業務からはずれていても、薬局内にいるということ自体が、外来担当の薬剤師の安心感につながります。
対面とオンラインの両方を組み合わせて服薬指導を実施することで、医療の質を保ちながら、患者さんと薬剤師の双方の負担軽減が期待できるのではないでしょうか。
6. オンライン服薬指導のデメリット
一方で、オンライン服薬指導にはデメリットもあります。
デメリット① インターネット環境が必須
オンライン服薬指導を実施する場合、音声や画像が途切れないように通信環境を整えなければなりません。患者さんにとっては慣れないツールである可能性もあり、事前にアプリのダウンロードや登録など、細やかなサポートが必要になる場合もあります。
また、薬局側では、通信のハッキングに備えたり、第三者が会話内容を把握できないように通信環境を準備したりと、情報漏洩の防止を徹底することはもちろん、その責任の範囲を明確にすることも必要になるでしょう。
このように、環境を整えるだけでなく、実施にいたるまでに細かな業務が増える可能性があります。
デメリット② オンラインでのコミュニケーションには限界がある
対面の服薬指導では、わずかなしぐさや目線、雰囲気から患者さんの理解度を把握しやすいと言えます。一方で、オンラインでのコミュニケーションには限界があります。「しっかりと指導内容が伝わっているのか」、「吸入や自己注射などの手技が問題なく実施できているか」などの判断が難しくなることもあるでしょう。
画面を通した情報では伝わらない部分がある、ということは念頭に置いておく必要があります。
デメリット③ 薬の配送によるトラブル
対面の服薬指導では薬を直接手渡しするため、問題やトラブルは起きにくいですが、オンライン服薬指導では、薬を配送するという点であらゆるトラブルを想定しなければなりません。

配送後に到着の有無を確認することはもちろん、冷所で保管する医薬品は品質を保つために梱包を工夫する必要があります。クール便のトラックは置かれる場所によっては直接冷気が当たることも考えられますので、品質を落とさないためにも梱包時に緩衝材を多めに使用するなどの細かな対処が必要です。
7. オンライン服薬指導の今後の動向
オンライン服薬指導は、もともとは離島など医療にアクセスしにくい地域に住む患者さんでも、安心して医療を受けられる環境をつくるために検討されていた施策です。しかし、新型コロナウイルス感染症が広がる今、オンライン服薬指導の可能性はさらに広がっています。利便性が高まるだけでなく、感染症対策や薬剤師の偏在化に対する解決策、働き方改革としての効果も期待できるでしょう。課題も残るオンライン服薬指導ですが、今後さらに普及していくことが予想されますので、今後の動向もしっかりチェックする必要がありそうです。
【参考URL】
■ 厚生労働省「オンライン医療の推進について(令和2年4月7日(火) 厚生労働省 医薬・生活衛生局)」
■ 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等 の一部を改正する法律の一部の施行について(オンライン服薬指導関係)」

執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。