薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2020.01.21 薬剤師の働き方

調剤薬局で働く薬剤師の仕事内容とやりがい

文:加藤鉄也(研修認定薬剤師、JPALSレベル6)

代表的な5つの仕事内容から年収、キャリアパスまで……働き方のすべて

薬剤師資格をもつ約31万人の薬剤師のうち、約58%にあたる18万415人が調剤薬局に勤務しています(厚生労働省「医師・歯科医師・薬剤師統計」2018年より)。薬剤師にとって代表的な勤務先である調剤薬局で、具体的にどのような仕事に従事しキャリアを形成していくのでしょうか。

1. 調剤薬局の薬剤師の仕事内容

薬剤師の資格を生かせる代表的な職場のひとつが「調剤薬局」です。全国各地に点在しており、身近な地域で就職しやすい職場といえます。調剤薬局には、病院や診療所で処方箋を受け取った患者さんが自宅での治療に必要な薬を受け取るために訪れます。経営形態はさまざまで、個人経営の薬局もあればチェーン展開している薬局もあり、薬局ごとに注力する業務が異なる点も特徴です。

 

調剤薬局に勤務する薬剤師が従事する代表的な業務は下記の通りです。

 

① 処方箋の精査

② 調剤業務

③ 服薬指導

④ 健康相談や病院への受診勧奨

⑤ 在宅業務

 

具体的にどのような業務を行うのか、順を追って見ていきます。

 

① 処方箋の精査

薬剤師の役割は、患者さんが持参した処方箋の内容を精査し適切な薬を調剤することです。必要であれば医師に確認を行います。処方箋の内容を確認し、「薬の説明書である添付文書に記載されている用法、用量と異なった処方がされていないか」「湿布剤や軟膏など使用方法が書かれているか」といった点を確認します。

 

② 調剤業務

適切な処方であると確認できたら、次に薬の調剤を行います。処方箋に記載されている錠剤や湿布などを集めたり、粉薬や水薬の量を測ったり、軟膏を混ぜたりします。必要に応じて、服用時期が同じ複数の薬などをひとつの袋にまとめる「一包化」を行ったり、飲みやすいように錠剤を粉砕したりします。

 

③ 服薬指導

調剤が終わったら、患者さんと対面して処方した薬の使い方について説明を行います。これが服薬指導です。処方された薬の効果や用法、用量、使用法を説明するだけという業務というイメージがあるかもしれませんが、それだけでは不十分です。

 

処方薬の説明に加え、お薬手帳などから併用薬の情報を集めて重複処方がないか、既往歴や現在の疾患、血液検査などから使用してはいけない薬が処方されていないかを確認します。必要に応じて医師に疑義照会を行い適切な薬への変更を提案することもあります。

 

また過去の服用歴を確認し、薬がきちんと飲めていない様子が見られる場合には、服用意義の説明をして服薬意識を高めたり、服用回数が少なく飲みやすい薬の提案を医師に行ったりすることで、飲み忘れを防止するのも服薬指導の一部です。また患者さんの自宅に飲み残した薬がある場合は、処方日数の調整をするなど残薬調整を行います。

 

さらに病歴や過去の副作用歴、併用薬などから、リスクが高い副作用が想定される場合には、事前に対処方法を説明する必要があるでしょう。

 

こうした患者さんへの指導は、薬局内だけで終えるのではなく、自宅に帰った後も継続的なモニタリングが必要であると考えられています。昨年末に成立した薬機法改正でも、「薬剤師に対し、薬事の適正な使用のため必要がある場合には、継続的かつ的確な服薬状況の把握及び服薬指導を行う義務を課す」(「薬機法等の一部を改正する法律案の概要と論点」、厚生労働委員会調査室、2019年5月より)と明記されています。

 

副作用の発現や飲み間違いの可能性など、継続的な指導が必要であると判断される場合には電話や訪問などを通して確認することが、薬局薬剤師には求められています。

 

④ 健康相談や病院への受診勧奨

上述した服薬指導も含め、調剤薬局薬剤師の仕事は、院外処方箋の対応だけではありません。地域の住民からの健康相談や介護相談も大切な業務です。健康相談等を通して病院への受診勧奨を行ったり、OTC医薬品やサプリメント、栄養食品によるセルフメディケーション(患者さんが自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること)支援を行ったりすることも業務の一部といえます。

 

厚生労働省が、健康相談やセルフメディケーション増進などを積極的に支援する薬局を認定する「健康サポート薬局」制度を構築したことにより、薬局の機能向上を推進しているのはご承知のことと思います。

 

薬剤師は日頃から患者さんと関わることで信頼関係を構築し、薬や健康についていつでも気軽に相談ができる「かかりつけ薬剤師」になることが求められます。同時に、薬局はかかりつけ薬剤師が力を発揮できるように、業務管理や設備の確保、取り扱う薬の管理などを適切に行うことが重要です。

 

⑤ 在宅業務

自宅における病気の治療を支援する在宅業務も、地域にとってなくてはならない業務です。通院できない患者さんの自宅に訪問して薬を渡したり、薬の飲み間違い・飲み忘れが多い患者さんの服薬支援を自宅で行ったりします。

 

あるいは患者さんが病院から退院する際、退院時カンファレンスに参加し、治療支援のための情報収集や連携体制構築を行うなど、薬局外での仕事も増えています。

2. 調剤薬局の薬剤師の年収

マイナビ薬剤師の調査によると、調剤薬局薬剤師の年収は488.3万円(2017年度)。これは病院薬剤師(434.6万円)よりも高く、ドラッグストア薬剤師(512.5万円)より低い結果です。なお業種別で最も高い年収は製薬会社の薬剤師(543.2万円)という結果でした。

 

昨今は調剤室を併設するドラッグストアの出店が相次いでおり、人員補強のために給与水準が高くなる傾向となっています。

 

年収水準は業種のほか、勤務先の都道府県や会社の規模、年齢や経験、スキル、業務内容によっても左右されます。どのような業務に従事しキャリアを積んでいきたいのかを考えながら、自分に合った職場を探しましょう。

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3. 調剤薬局の薬剤師のキャリアパス

調剤薬局勤務におけるキャリアパスとして、まずは店舗の長である管理薬剤師や薬局長に就くこととなります。さらに複数店舗の実績管理を行うエリアマネジャーや複数店舗を回るラウンダーになると、より広い視点で店舗経営に携わります。

 

薬局長やエリアマネジャーになると、スタッフをマネジメントしながら店舗の数値目標や機能目標に向けて達成までのプロセスを企画する、といった重要な役割を経験できます。このようなスキルは薬剤師業界以外でも役立つため、将来的に独立や転職を考えている人にとってプラスとなるでしょう。

 

その他に、教育、ITシステム担当、店舗開発、ビジョン実践などの分野で、経営幹部を目指すことも可能です。

 

4. 調剤薬局の役割の変化

薬局薬剤師が求められる役割は、時代とともに変化してきました。医薬分業が確立する以前の1970~90年代の薬局薬剤師は、調剤とともに一般医薬品や雑貨類の販売を行う「地域の健康相談役」の役割を担っていました。

 

1997年、厚生省が37のモデル国立病院に対して処方と調剤の完全分業を指示して以降医薬分業は急速に進み、院外処方箋の発行が増加。併行して、院外処方箋を受け取り調剤を行う「調剤薬局」の形態が増加し、薬局薬剤師の主な仕事は院外処方箋の調剤となっていきました。

 

ところが近年、高齢化と病院の病床不足を背景に、院内での長期入院による治療ではなく、自宅とかかりつけ医院、かかりつけ薬局、大病院等で連携し、「地域で治療を行う」地域包括ケアが推進されるようになっています。薬局薬剤師は、院外処方箋の調剤に加えて、健康相談、OTC医薬品販売、介護相談など仕事の幅が広がりつつあるのが現状です。

 

こうした流れの中、2016年4月からは「かかりつけ薬剤師制度」がスタート。地域の患者さんの服用状況や健康サポートを継続して行う薬局が重要視されるようになっています。薬剤師が服薬指導などの対人業務に注力できるよう、一部の薬局では全自動で調剤できる調剤機器やロボットの導入を行うようになってきました。かつては薬剤師が粉薬を一回量ずつ分割し薬包紙にパックしていたため作業効率が飛躍的に向上しているといえます。

 

加えて、2019年4月2日の厚生労働省からの通知により、非薬剤師の業務拡大も進んでいます。薬剤師の責任・監督下であれば、患者さんに必要な薬の取りまとめや一包化監査などを薬剤師資格を持たない人が行っても差し支えないと明文化されたことから、薬剤師の調剤業務負担はますます軽減され、対人業務が中心になることが予測されます。

 

5. 調剤薬局のやりがい

調剤薬局では幅広い業務内容に対応する必要がありますが、やりがいも大きい仕事です。
 

第一に患者さんの生活環境に応じた提案ができる点はやる気を高められるポイントです。調剤薬局には老若男女さまざまな患者さんが訪れますから、患者さん一人ひとりに向き合い効果的な飲み方を提案する必要があります。例えば、ひとり暮らしをする高齢患者さんには服用方法が単純になるように1日2回の薬を1日1回の同効薬に変更をすることがあります。また薬の苦味が嫌いなお子さんには矯味剤(きょうみざい)を追加したり、ジュースやアイスなどといっしょに飲むことをアドバイスしたりするのも大切な役割です。

 

また中には約2000品目も取り扱う店舗があり、調剤薬局ではさまざまな薬の知識や調剤方法など専門的知識が身につくだけでなく、医師の処方意図などを学ぶこともできます。

▼調剤薬局に転職するメリットとは?

 

6. 調剤薬局の薬剤師の厳しさ

一方で、調剤薬局薬剤師が将来的に直面する課題もあります。前述したように、対面業務の重要性は増大し、それにともない薬剤師はさらに高いコミュニケーションスキルや問題解決スキルが求められるようになります。非薬剤師が調剤業務の一部を代行できるようになってきたことも影響し、薬剤師は「調剤業務だけを行う存在」ではなくなっていきます。調剤偏重の意識が強い薬剤師は意識の変革を求められているといえるでしょう。

 

また、めまぐるしく変化をする社会全体や薬剤師業界を前にして、自分なりに「理想の薬剤師像とは何か?」を常に自問自答しながら業務に向き合う必要があるといった厳しさもあります。

 

以上見てきたように、調剤薬局の薬剤師は専門的な知識と幅広い経験が積めるやりがいの大きい仕事です。とくに地域医療や患者さんと密接に関わりたいという薬剤師にはぴったりの業態だといえます。薬剤師としてのキャリアを積む勤務先として、選択肢のひとつに入れてみてはいかがでしょうか。


執筆/加藤鉄也

薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。

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