西洋医学とは異なる理論で処方される漢方薬。患者さんから漢方薬について聞かれて、困った経験のある薬剤師さんもいるのでは? このコラムでは、薬剤師・国際中医師である中垣亜希子先生に中医学を基本から解説していただきます。基礎を学んで、漢方に強くなりましょう!
第36回 人体をつくる気・血・津液とは(4)血(けつ)の生成
前回まで、気・血・津液(き・けつ・しんえき)のうち「気」についてお話ししました。今回は、中医学の「血」と、その生成についてお話しします。
中医学上の「血」とは
「血(けつ)」とは、体内にある赤い液体のことをいいます。生命を維持する基本物質の一つで、全身を栄養して潤します。西洋医学の血液に相当しますが、中医学では、赤血球とか血小板とか細かく分けて考えません。そのため、「血≠血液」になります。
血は、脈中を循環していないとその作用を発揮できません。何度かお話ししましたが、気と血は、いつも寄り添いあっている関係にあります。
それゆえ、何らかの原因によって脈の外に出た出血は、気によって動かされる血ではないので「血」とは呼ばれず、「離経之血(経を離れた血)」または「死血(しけつ)」と呼びます。例えば、輸血用の血液などは、体外に出てるのでこれに当たります。体内に戻って再び気が寄り添うと「血」となります。
血の生成
血の生成には3つの方法があります。それぞれについて解説します。
営気+津液でつくられる血
血は、気のひとつである営気(えいき)と津液(しんえき)によって構成されています。
ただ単に営気と津液を混ぜれば血になるわけではなく、そこには熱の力(イラストの火にあたる部分)、陽気(気)の力が必要です(気化作用)。
熱の力=陽気には3つの説があります。
(A)営気
(B)心陽(心火)
(C)肺が吸い込んだ気(肺気)
営気と津液はともに、飲食物が脾胃によって消化・吸収され、水穀の精微(飲食物の栄養分)に変化してつくられるため、脾と胃は『気血を生化する源』といわれています。それゆえ、摂取する食物の栄養価と脾胃の機能は、血の生成にダイレクトに影響します。栄養のある飲食物を長期間摂取できなかったり、慢性的な胃腸虚弱により消化・吸収機能が低下していたりすると、血の生成が不足して『血虚(けっきょ)=血の不足』になってしまいます。
腎精から作られる血(1):精血同源(せいけつどうげん)
精(せい:今後お話しします)と血は、生み出し合ったり入れ替わったりする関係にあり、そのことを「精血同源」といいます。精は腎に貯蔵され(腎精)、血は肝に貯蔵されているため(肝血)、「肝腎同源(かんじんどうげん)」ともいわれます。
肝血(かんけつ:肝の血)が充分あれば、気化作用により血が精に変化して腎に蓄えられ、反対に、腎に蓄えられている精が充実していれば、肝も養われて血が充実します。このように、腎精が肝を養い、腎精から肝血がつくられることによっても、血は生み出されます。
腎精から作られる血(2):腎は骨を主り(つかさどり)、髄を生じ、脳に通じる
腎が貯蔵している精は、骨を主り、髄を生みます。そして、骨を満たしている精髄から、血は生み出されます。
「腎精」の概念のうちの「血液に関してのみ」、西洋医学的に言うとすれば、「骨髄での造血系」と考えると理解しやすいでしょう。
次回は、人体をつくる気・血・津液とは(5)血の働きについてお話しします!お楽しみに~!
読んでなるほど 中医学豆知識
スイカで暑さを乗り切る!
夏(陽)が旬の食材は陰の性質(寒涼性)を、冬(陰)が旬の食材は陽の性質(温熱性)を持っていることが多いと言われています。
また、南国の温かい土地・気候(陽)で収穫されるものは、陰の性質(寒涼性)を、北国の寒い地域(陰)で収穫されるものは、陽の性質(温熱性)を持つことが多いようです。
自然界が寒くて陰性の気に満ちているとき植物は陽性に、自然界が暑くて陽性の気に満ちているとき植物は陰性になることが多いようです。
これから、夏本番。毎年心配されるのは熱中症です。中医学では熱中症を「中暑(ちゅうしょ)」といいます。読んで字のごとく、「暑さに中る(あたる)」という意味です。
症状が重い緊急性のある熱中症は、西洋医学的な迅速な処置が必要となります。
一方で、緊急性のない場合の熱中症の代表的な漢方処方は『白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)』で、「ほてり・のどの渇き」を軽減したりするのに使われます。
自然界の中で単体で「白虎湯」の別名をもつ食材が「西瓜(スイカ)」です。『中医飲食営養学(上海科学技術出版社)』には、西瓜の効能は以下のように記載されています。
・西瓜(スイカ)
【基原】ウリ科西瓜(スイカ)Citrullus vulgaris Schrad.の果実。
【別名】天生の白虎湯
【性味帰経】甘、寒。 心、胃、膀胱経。
【効能】清熱解暑、除煩止渇、利小便、降血圧。
スイカは別名「天生の白虎湯」と呼ばれると記載されているように、天然の白虎湯とも言える効能があります。
自宅の家庭菜園で西瓜がたくさん採れ、ひと夏中、毎日のようにスイカばっかり食べていた奥さんが、毎年夏バテするのに、「そういえば今年の夏は夏バテしなかったわ!」と言った話を聞いたことがあります。
ちなみに、スイカの果皮は、「西瓜翠衣(せいかすいい)」とか「西瓜皮(せいかひ)」とよばれ、果実の部分より清熱解暑の効能は劣りますが、利小便の効能に優れています。西瓜翠衣が使われる漢方処方としては、清暑益気湯(せいしょえっきとう)《温熱経緯》、清絡飲(せいらくいん)《温病条弁》、清絡飲加杏仁苡仁滑石湯(せいらくいんかきょうにんいにんかっせきとう)《温病条弁》などが挙げられます。※《》内は出典
スイカの皮の白い部分は捨ててしまうのはもったいないので、むくみのあるひとは、お漬物などにして食べてしまうとよいでしょう。
【性味帰経】の欄に寒性とあるように、スイカは身体を冷やしますので、胃腸虚弱で冷え性の人は控えめに。もし食べたいときは、かならず常温でお腹を冷やさないように少量ずつにしましょう。わたしも、冷蔵保存しているスイカは一度電子レンジで温めて生ぬるくしてから食べています。
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参考文献:
- ・小金井信宏『中医学ってなんだろう(1)人間のしくみ』東洋学術出版社 2009年
- ・戴毅(監修)、淺野周(翻訳)、印会河(主編)、張伯訥(副主編)『全訳 中医基礎理論』たにぐち書店 2000年
- ・関口善太『やさしい中医学入門』東洋学術出版社 1993年
- ・王新華(編著)、川合重孝(訳)『基礎中医学』たにぐち書店 1990年
- ・平馬直樹、兵頭明、路京華、劉公望『中医学の基礎』東洋学術出版社 1995年
- ・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社 2014年
- ・平馬直樹(監修)、浅川要(監修)、辰巳洋(監修)『オールカラー版 基本としくみがよくわかる東洋医学の教科書』ナツメ社 2014年