ブックレビュー 更新日:2023.05.30公開日:2021.03.31 ブックレビュー

在宅療養支援診療所の薬剤師はどのような役割を担い、どう貢献しているのか?

【書籍概要】
2006年に制度化された診療所の一形態である、在宅療養支援診療所(在支診)。終末期を含め多様な在宅患者への対応が求められるこの職場で、薬剤師はどのような役割を担っているのか――9つの在支診における実例をもとに、具体的な業務や多職種連携の実情と今後の展望を紐解く。在宅医療を含め地域医療に興味のある方はもちろん、「調剤業務」にとどまらない薬剤師の役割への理解を深めたい方にもおすすめ。

在支診薬剤師の業務実例をたっぷり掲載

高齢化に加え新型コロナウイルスの流行下にあって、薬剤師の在宅業務へのニーズが拡大しています。最近になって、勤務先の薬局で在宅業務を開始したというケースもあるのではないでしょうか。また、まだ少数ではあるものの、在宅医療の現場で医師や看護師、ソーシャルワーカー、介護士と連携をした「チーム」の中で活躍する薬剤師がいます。

そんな薬剤師が活躍する職場のひとつが、在宅療養支援診療所(在支診)です。在宅療養支援診療所とは、2006年に制度化された診療所の一形態で、在宅療養する患者のために、地域において責任をもって診療にあたる医療機関のことをいいます。これにより、「寝たきり患者への訪問」というイメージが強かった在宅医療は、より医療依存度の高い患者への対応が求められることとなりました。

 

本書では、実際に在支診に所属する薬剤師が、なぜ職場として在支診を選び、どのように業務をデザインしてどのような役割を担っているのかという取り組みと、今後、何を目指していくのかについて詳細に解説されています。在支診薬剤師の業務は多岐にわたり、医師や看護師などの医療職への支援をはじめ、地域の保険薬局や訪問看護ステーション、居宅介護事業所などの関連機関にもおよび、さらに地域に根ざした独自の業務にも取り組んでいます。

本書で取り組みの実例が紹介されているのは、「桜新町アーバンクリニック」(東京都世田谷区)、「祐ホームクリニック吾妻橋」(東京都墨田区)、「わたクリニック」(東京都葛飾区)、「向日葵クリニック」(千葉県八千代市)、「ふくろうクリニック等々力」(東京都世田谷区)、「オレンジホームケアクリニック」(福井県福井市)、「緩和ケア診療所・いっぽ」(群馬県高崎市)、「よしき往診クリニック」(京都府京都市左京区)、「のぞみの花クリニック」(千葉県柏市)の9つの在支診です。

 

 

薬剤師に求められる「対人業務」の意味とは?

本書には、薬剤師を雇用している在支診院長が、医師の視点で薬剤師にどのような役割を期待し、評価しているのかが語られています。経営側の本音にも触れる機会は貴重であり、またその提言は令和元年の改正薬機法の趣旨、あるいは、いわゆる0402通知*の意図するところにも通じています。

在支診薬剤師とはどのような存在なのか、その業務への理解を深めることができるのはもちろん、今後求められる薬剤師像をイメージするうえでも役立つはず。これからの薬剤師のあるべき姿へのヒントがつまった一冊です。

*「調剤業務のあり方について」(平成31年4月2日薬生総発0402第1号)

文:薬読編集部