ブックレビュー 更新日:2021.01.20公開日:2019.09.30 ブックレビュー

「次にくるマンガ大賞2019」にランクインした注目作

【書籍概要】
ヒーロー文庫(主婦の友インフォス)より出版されていた同名のミステリー小説のコミカライズ版。物語の舞台は中世の東洋。花街で薬師(くすし)として暮らしていた少女・猫猫(マオマオ)が、ある日薬草を探しに行った森で人さらいに遭い、後宮で下働きをすることになる。持ち前の冷静さと卓越した知識で次々に起こる不可思議な事件を解決する猫猫は、複雑に絡みあう人間関係のなかで果敢に生き抜く。コミカライズによって新たに命を吹き込まれた魅力的な登場人物たちも要注目。

(C)2019 Natsu Hyuuga/Shufunotomo Infos Co.,Ltd. 
(C)2019 Nekokurage/SQUARE ENIX 
(C)2019 Itsuki Nanao/SQUARE ENIX

「次にくるマンガ大賞」コミックス部門第1位に選ばれた作品

 
医師や看護師の奮闘を描くマンガやドラマが多数登場する一方、薬剤師にフォーカスした作品はこれまでどちらかといえば目立たない存在でした。ところが、月刊コミックゼノンにて人気連載中の『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ・作、富野浩充・医療原案)を筆頭に、近年医薬に関連したマンガや小説作品の台頭には目を見張るものがあります。今回紹介する『薬屋のひとりごと』も今年必読のマンガ作品のひとつ。今年8月に発表された「次にくるマンガ大賞2019」では得票数30,311ポイントを獲得し、2位に5000ポイント以上もの差をつけて見事コミックス部門第1位に輝いた作品です。同賞の受賞をきっかけに、薬剤師や薬学生のみならず、どちらかというとこれまで医薬に関心を持っていなかった層からも支持される作品となるでしょう。
 

 
 

薬に目がない主人公と魅力的な登場人物たち

 
以前こちらのブックレビューでも紹介したように、原作小説はもともとミステリー小説として人気を博していました。それが、ねこクラゲさんの繊細で美しい作画によってコミカライズされました。個性あふれる登場人物たちのくるくると変わる表情や動き、華やかな後宮の描写までをも楽しむことができるのが、マンガ版・『薬屋のひとりごと』の見どころのひとつでしょう。原作小説を読んでいる方も、また違った魅力を発見できるはずです。
 
同作には個性豊かなキャラクターたちが登場します。容姿端麗で色気あふれる宦官・壬氏(ジンシ)、華やかさと気品をまとった玉葉(ギョクヨウ)妃や梨花(リファ)妃をはじめとするお妃たち、さらに猫猫とともに健気に働く侍女たち……さまざまなキャラクターが物語を盛り立てるなかで、薬剤師の皆さんが気になるのは、主人公の猫猫ではないでしょうか。
 
猫猫は超がつくほどの薬物・毒物好き。後宮に連れてこられる以前は、自らの腕を毒ヘビにかませたり薬の試し塗りしたりするほど、好奇心旺盛な性格の持ち主です。薬剤室を案内された時には、日ごろのクールなイメージとはまるで別人のように瞳を輝かせます。猫猫ほどの「薬マニア」ではなくとも、共感をおぼえる薬剤師の方もいるのでは?
 
また猫猫はその知識量や毒見役としての能力の高さもさることながら、常に冷静沈着なふるまいや態度で、他の侍女たちとは一線を画す存在として描かれています。人さらいに遭い後宮に連れてこられたという状況を悲観したりはしませんし、武官すらも虜にするほど容姿端麗な宦官・壬氏を見てもその外見に関心を示しません。さらには他の侍女から意地悪をされても気にも止めません。どんな場面でも堂々としていて、状況を観察する猫猫の姿は頼もしさを感じさせる一方でその壮絶な身の上も想像させ、物語から目が離せなくなります。
 
 

展開が読めないミステリーとラブコメから目が離せない

 
不可思議な事件が医薬の知識によって次々と解決されていく、歯切れの良いストーリー展開も見どころのひとつ。現代に生きる私達が当たり前に知っている医療・医薬の常識も登場しますが、それを知らなければ命を落とすこともあるのだという事実をあらためて実感するでしょう。気軽に読める医薬ミステリーとして、愛憎渦巻く後宮での人間ドラマとして、はたまたラブコメディとしてなど、さまざまな要素が凝縮されている本作は一度読み始めると先が気になること間違いなし!
 
読書の秋。何かを読んでみたいけれど活字を読むのは大変そう……という方はこの作品から始めてみるのもおすすめです。

文:薬読編集部

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